
ベトナムは今、国を挙げて半導体ビジネスの強化に乗り出している。AI(人工知能)向けなどの用途として、世界的に注目を集める半導体。そこにはどのようなビジネスの可能性があり、ベトナムはどう事業展開する目算なのか。日本と手を組む可能性はあるのか。FPTコーポレーションのグループ会社であるFPTインフォメーションシステムおよびFPTセミコンダクターのチャン・ダン・ホア代表取締役会長に聞いた。(聞き手は日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ 大和田尚孝)
——ベトナムが半導体ビジネスを強化する理由を教えてください。
世界的な半導体サプライチェーンの変革が起きていることで、我々にも大きなチャンスが訪れたためです。これまでは限られた国しか半導体ビジネスに参画できませんでした。地政学リスクなどによって状況が変化したことで、世界のトレンドとしてベトナム企業が代替えの選択肢になっています。
半導体の可能性が大きく高まっていることもあります。これからの半導体はAI(人工知能)と連携し、自ら新しいことを学習するようになります。これまで多くの分野で共通の汎用的な半導体が使われてきましたが、今後は用途に応じてAIで最適化した半導体を利用できるようになります。このように「AI×半導体」は、様々な製品やサービスの競争力に直結するようになるはずです。
こうした状況を受け、ベトナムは政府と企業が一丸となって、今回のチャンスをつかもうとしています。ベトナムの強みである人材の育成と活用を軸に様々な取り組みを進めているところです。
政府は2030年までに半導体エンジニアを5万人育成する目標を掲げています。
国家的な方針に基づき、我々も人材育成に力を入れます。現在、FPTエデュケーションは教育プログラムの移行を完了し、大学および提携プログラムの学生募集を進めています。
BTEC FPTでは、2024年5月に100人の学生が入学登録をしました。2024年の目標は700~1000人の学生を育成することです。FPT Jetkingもまた、3月に最初のコースを開講し、今年は300人の学生を育成することを目指しています。

最近、台湾の11以上の企業と大学がベトナムに来て、学生を「ハンティング」しました。FPTエデュケーションのIT学生、ハノイFPT大学とハノイFPTポリテクニックカレッジの60人以上の学生が、企業や大学の代表と直接面接し、奨学金や台湾での仕事の機会を探しました。
さらに、私たちは、半導体チップ製造分野で世界をリードする国々のパートナーとともに、教育プログラムの開発とインターンシップを展開しています。例えば、Liteon(台湾)、Mayo(台湾)、IB Tech(韓国)などです。
日本の大学との連携も計画中です。東京大学や東京工業大学と連携できれば、と考えています。
——半導体分野においてベトナム企業はどういったビジネスを展開するのでしょうか。
半導体ビジネスは非常に幅が広いので、アプローチ方法は企業によると思いますが、我々は大きく3領域に注力します。
1つ目はパワーマネジメント用ICの設計・製造です。パワーマネジメントとは、機器の多機能化や省電力化のために電源を管理する機能を指しています。パワーマネジメント用ICは半導体を複数組み合わせて使う際に必ず使われるもので、当社のソフトウエア技術を生かしやすい分野です。
2つ目は自動車業界向けの、AIと組み合わせた半導体の設計・製造です。半導体をAIと組み合わせることで、顧客企業のニーズに合わせた専用の半導体を提供します。
ただし、自動車が搭載する全ての半導体を作るつもりはありません。自動車は100種類以上の半導体を搭載しており、中でもマイクロコントローラー(MCU)と呼ばれる全体の頭脳となる半導体の設計・製造は競争がし烈です。我々はMCUなど中心に近いものではなく、周辺の半導体を提供したいと考えています。周辺の半導体とはいっても、約90種類はこれに当たります。
3つ目はヘルスケア向けの半導体の設計・製造です。この分野は市場が毎年10%以上成長しています。高齢者向け機器や医療治療機器のための多くの半導体が求められていますが、参入している企業が少なく、チャンスがあると見ています。
——自動車のMCUのように、「ここには参入しない」と決めている分野はほかにもありますか。
非常に高度な技術が求められる分野や競争が激しい分野、多大な投資が必要な分野には参入しないつもりです。例えば5G向けやメモリーチップなどがそれに当たります。
——自社で製造した半導体を販売する以外の展開も考えていますか。
はい、ビジネスの形としては3つを考えています。1つ目はお話しした通り、自社で設計・製造した半導体の販売です。半導体とAIを組み合わせて、顧客のニーズに合った製品を提供します。
2つ目は、設計業務の受託をはじめとしたエンジニア業務のアウトソーシングです。
3つ目は「IP(Intellectual Property)」と呼ばれる、回路設計データの販売です。他の半導体メーカーがこのIPを購入すると、回路設計データに基づいた半導体を自社の製品として製造できます。
——日本企業向けにはどのような展開を考えていますか。

日本は製造業が強い国なので、専用の半導体を使うことによるメリットは大きいはずです。具体的には、消費者向けプリンター、カメラ、ヘルスケア機器、自動車などに向けて専用の半導体を提供できたらと思います。
我々がソフト分野で初めて海外進出した国が日本です。我々にとって日本は特別に思い入れがある市場であり、様々な形で日本企業の競争力向上をご支援したいと常に考えています。
当社の日本拠点の半導体部門に、現在エンジニアを中心に40人の人員がいます。将来的には100人に増やす計画です。マーケティングなどの活動はベトナムと連携して進める考えです。
——日本企業への半導体提供を目指す場合、IT部門に新しい半導体の重要性を分かってもらうのは難しいように思います。
その通りです。我々が「これからのDX(デジタルトランスフォーメーション)に最新の半導体は欠かせない」といくらご説明しても、なかなか難しいでしょう。トップ営業を重ねるか、半導体商社経由の代理店販売が主になると思います。
——ベトナムでは複数のIT企業が半導体関連のビジネスに乗り出すようですね。
はい。ベトナムIT企業を束ねる業界団体のベトナムソフトウェア協会(VINASA)が新たに半導体に特化した組織をつくりました。新組織の目的はベトナム半導体業界の活性化と促進です。加盟各社や専門家との連携を強めるほか、政府へ提言などもしていきます。現在50社ほどが参加していて、うち約40社がベトナム企業、残りは海外からベトナムに進出している企業です。
——40社はIT企業ですか。

IT企業が多いですが、半導体を設計する企業もありますし、これから半導体ビジネスに進出予定の企業もいます。現在のベトナムの半導体ビジネスは「設計」「半導体パッケージの組み立て」「工場での製造」「大学などの教育機関で提供する技術者の教育」の大きく4つがあります。
このうち教育については、複数の組織が取り組みをスタートしたところです。半導体パッケージの組み立ては、海外からベトナムに進出した数社が展開しています。設計などについては、参入を決めた会社は現時点では一部に限られます。
工場での製造はまだこれからですね。あまり初期投資が必要ない設計や教育と比べ、工場建設には多大なコストがかかります。しかし、5〜10年後を見据えると工場が必要になる可能性は高いと感じています。その場合、金融機関との連携や関係国の基金活用など、金融面での取り組みも重要になるはずです。将来の展開を見据え、様々な取り組みを進めたいと考えています。