2024年7月24日
新潮流

DX人材不足の救世主になれるか、沖縄の挑戦
世界の技術者とつながる「独自戦略」とは

  • ニアショア
  • 人材戦略
  • リスク対応

DX(デジタルトランスフォーメーション)の需要増を受け、日本全体でデジタル人材の育成と供給を狙う地域が増えている。その一つが沖縄だ。地元人材の育成はもちろん、世界の様々な国や地域とつながって、有能な人材を受け入れることで、活路を見いだそうとしている。独自戦略に挑む沖縄の取り組みに迫る。

沖縄県は2031年度までの情報通信産業振興政策である「おきなわSmart産業ビジョン」に基づき、様々な施策を展開している。おきなわSmart産業ビジョンの中で目標として掲げていることの一つが、既存ビジネスの領域で高付加価値を獲得する「ビジネスの高度化」と、現状とは異なる領域にビジネスを移す「ビジネスの転換」だ。

一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター 専務理事 山田 一誠 氏
一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター 専務理事
山田 一誠

沖縄は以前からIT産業の振興に力を入れてきた。一般財団法人沖縄ITイノベーション戦略センター(ISCO)の山田一誠専務理事は「様々な成果が上がっており、特に問題になっていた失業率の高さについては本州と同程度まで改善することができた」と話す。ISCOは県内の産業振興を支援する機関であり、地域におけるデジタル人材の育成支援やDXに臨む企業とIT企業を橋渡しする役割も担う。

失業率の改善はまだ途中段階にあり、残る課題として賃金の低さが挙げられる。これまで沖縄県は、コールセンター事業や、データ入力などのBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の労働集約的な産業を集積させることで失業率の改善を図ってきた。また、ソフトウエア開発分野でも沖縄ニアショアを進め、産業の集積に努めてきた。しかし、現在では低い賃金と労働生産性という課題が顕在化してきた。そのため「高度なソフトウエアを扱う人材などと比べると賃金に開きがある」(山田氏)。おきなわSmart産業ビジョンはこの賃金の問題を解決するための施策として、先のビジネスの高度化と転換を目指している。

山田氏は「ビジネスの高度化と転換の両方を実現して産業イノベーションを果たさないと賃金は上がらない」と指摘する一方で、「高度化と転換のそれぞれを実現するだけでも10年単位で時間がかかる。そこまで時間はかけられない」と続ける。

ISCO

韓国・台湾・ウズベキスタン
など訪問、沖縄の魅力を直訴

ビジネスの高度化と転換を実現する人材は必要だが、それを地道に育てている時間はない。日本中でDX人材の不足が叫ばれているため、首都圏など他の地域から人材を連れてくることも難しい。

そこでISCOが目を付けたのが海外だ。「海外には高いITスキルや日本語能力を持ち、日本で働くことにメリットを感じる人材が一定数いることが分かった」(山田氏)ためだ。

例えば韓国の済州島にある国立済州大学は、「卒業生の内定率が5割程度で、働き口を探している人が多い」(山田氏)。済州大学は日本語学科があり、日本語に強い人材が豊富にいるという。彼らに沖縄のIT企業に就職してもらうよう、交流会を開くなどして関係を深めている。

ウズベキスタンの大学「JAPAN DIGITAL UNIVERSITY」からの人材受け入れも狙う。同大学は2024年9月に初めて卒業生を送り出す新設校で、日本語やITの教育に力を入れている。山田氏は「ウズベキスタンの大卒初任給は平均5万円弱と低いため、日本で働くメリットが大きい」とし、「内陸国であるため海のある地域で働くことへの憧れが強く、そこも沖縄の強みになる」と続ける。

一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター 産業DXセクション セクションマネージャー/シニアPM 成井 悟 氏
一般財団法人 沖縄ITイノベーション戦略センター 産業DXセクション
セクションマネージャー/シニアPM
成井 悟

このほかにも台湾やネパール、シンガポールなど様々な国や地域との連携を模索している。新卒採用だけでなく、スタートアップ企業を誘致する活動も展開しているという。山田氏は「どういう人が、沖縄のどんなところに魅力を感じてくれるか予想がつかない。とにかく行動することが大事」と意気込む。山田氏らISCOのメンバーは精力的に海外を訪れ、大学などを通じてデジタル人材へのアプローチを重ねる。

ISCOは海外からの人材採用やスタートアップの誘致に動くと同時に、受け入れた人材を生かすための働く場の拡大にも注力している。対外的に打ち出していることの一つが「デジタル施策の実証実験の場としての沖縄の魅力」だ。ISCOの成井悟産業DXセクションマネージャーは「四方が海に囲まれて隣県がなく、小さな範囲にあらゆる産業がそろっている沖縄は実証実験に最適。ぜひ沖縄で実証実験をしてほしい」と話す。

ニアショア拠点としても
注目が集まる

そんな沖縄にいち早く可能性を見いだす海外企業も増えている。例えばベトナム最大手グローバルITサービスプロバイダーのFPTソフトウェアは沖縄に200人体制のソフト開発拠点を設け、日本から受託した案件の一部を担っている。いわゆるニアショア事業だ。

FPTは「グローバルベストショアモデル」と呼ぶ手法を採り入れ、顧客企業のシステム開発に当たっている。例えば米国企業をサポートする場合であれば、米国でのオンサイトのサポートと、コスタリカやコロンビアといった同じタイムゾーンの地域からのニアショア、インドなどタイムゾーンが異なる離れた地域からのオフショアを組み合わせる。多様な地域を組み合わせることで、技術力や動員力を生かしつつ、コスト最適化を図る。

FPTニアショアジャパン株式会社 副社長 宮里 聡 氏
FPTニアショアジャパン株式会社
副社長
宮里 聡

この仕組みを日本企業に提供する場合は、例えば首都圏でのオンサイトサポート、ベトナムなど海外からのオフショアに加えて、同じタイムゾーンからのニアショアが必要になる。その拠点として目を付けたのが沖縄というわけだ。

FPTニアショアジャパンの宮里聡副社長はニアショア拠点の役割について、「上流の段階からオンサイト、オフショアの人員と一緒にプロジェクトに入り、ユーザーの業務内容や要望を理解して、オフショアの人員に分かりやすく伝えることにある」(宮里氏)と説明する。

最近は地政学リスクを考慮し、海外への発注をためらう日本企業も増えているという。その場合、「オフショアをプロジェクトに入れず、沖縄のニアショアだけで完結することも可能だ」(宮里氏)。

国を超え、
異文化との融合が進む

アジアなど世界から技術者を呼び寄せる、デジタル人材の「集積地」を目指す沖縄。アジアなど異文化との融合に、地元のデジタル人材も関わり始めている。

FPTニアショアジャパン株式会社 ニアショア開発事業本部 沖縄ニアショア開発部 プロジェクト・マネージャー 上江洲 元太 氏
FPTニアショアジャパン株式会社
ニアショア開発事業本部
沖縄ニアショア開発部
プロジェクト・マネージャー
上江洲 元太

「大規模プロジェクトに関わることができて、毎日が充実しています」。FPTの沖縄拠点でプロジェクトマネジャーを務める上江洲元太氏は、このように話す。沖縄県久米島町出身の上江洲氏は、2019年に地元のIT企業からFPTに転職した。

上江洲氏は「国際的に成長している企業の動きはアグレッシブで、日々刺激を受けている」と話す。ベトナムの人材と一緒に海を超えてプロジェクトを進めることもあり、「自身の成長につながっていると実感できる」(上江洲氏)。上江洲氏と同様に、地元のIT企業からFPTに転職する日本人は増えているという。

海外との連携を深める沖縄の動きは、DX人材の不足解消に向けた取り組みの一端を担う可能性がある。デジタル人材の確保に悩む企業は、地方都市の新たな動きにも目を向ける価値がありそうだ。

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