
産業界が半導体人材の育成に動き出した。大手半導体メーカーが事業を縮小したり撤退したりして、日本の半導体人材は過去20年間で大きく減った。しかしここへ来て流れが変わった。日本でも投資が復活し、新規の半導体生産ラインが立ち上がり始めている。そこで問題になるのが人材不足である。半導体メーカー、製造装置メーカー、材料メーカーの産業界はもちろん、政府や大学・高等専門学校などの教育機関が一斉に人材教育に乗り出している。
「圧倒的に不足している」。半導体の人材に関して半導体メーカー、装置・材料メーカーなどから悲鳴が上がっている。電子情報技術産業協会(JEITA)の試算によれば、「今後10年で4万3000人」が新たに半導体人材として必要である。これはJEITAの半導体部会に参加している9社の今後の半導体人材数であり、この数字には熊本でラインを構築中のTSMC/JASMや千歳で工場を建設中のラピダスは入っていない。装置や材料メーカーが必要としている人材も、公的機関が研究のために必要としている人材もカウントしていない数字である。新規に必要な人材は5万人でもまったく足りない状況である。
実はこの半導体人材不足という状況は、何も日本だけではない。台湾、中国、韓国、米国など世界のあらゆる地域の半導体メーカーが人材不足を訴えている。つまり、半導体人材は世界で奪い合いの状況である。
それではどのような人材を半導体関連会社は求めているのだろうか。浮かび上がるのは、必ずしも半導体を学んだ学生だけではない、ということだ。電子系、機械系、化学系、情報系など様々である。中でも各社が求めている人材像で急浮上しているのがデータサイエンティストである。ラインの各所で生まれるデータを解析して生産性を向上させたり歩留まりを改善したりするのに欠かせなくなっている人材である。機械系は自動車産業に、情報系はプラットフォーマーやAI関連企業に後れを取っている。
しかも日本では海外と比べて理工系人材は潤沢ではなく、加えて半導体は苦境の20年を通して負のイメージが染み付いている。このままでは、不足する人材を補うのは困難である。
この困難に対応すべく、産業界が政府や教育機関と組んで人材育成に乗り出している。大学向けには経済産業省が日本の各地域で動き出してJEITAと協力し、高等専門学校(高専)向けには後述するCOMPASSという取り組みで半導体拠点校を設けて取り組む。裾野を広げるために小・中学校向けにはビデオを作り、JEITAが監修して、教育委員会経由で届ける。
このような国内の動きと並行して、企業は人材採用の対象を国内だけから海外へと展開し始めている。JEITAも海外人材の取り込みには注目している。
JEITAでは2021年から毎年、半導体復興に向けた政策提言書をまとめている。2021年の提言書で他国の半導体補助金に比肩する大型支援を要請したのに続き、2022年には半導体人材育成の支援を要請した。
政府への要請支援と並行して、JEITA自身も産業界を取りまとめて人材育成に取り組んでいる。小・中学校向けに半導体のビデオや小冊子を作り全国に配布している。高専向けには半導体のカリキュラム作成に全面協力し、出前授業も実施している。高校向けには探求学習の教材作成に加わっている。大学向けには出前授業を実施している。「23年に20大学で出前授業したが、24年はもっと増やしたい」とJEITA半導体部会で政策提言タスクフォース主査の三井豊興氏は意気込む。
またCEATECでは半導体産業で働く魅力を発信している。22年から中・高校・高専・大学生・大学院の学生に向けて半導体フォーラムを開催した。22年からはタカラトミーと組んで「半導体産業人生ゲーム」も展開している(写真)。870名強が人生ゲームに参加し、このうち学生は約550名強だったという。なお「ゲームを貸し出してほしい」という声があり、23年からはゲームの貸し出しも実施している。


国立高等専門学校機構(高専機構)では「COMPASS 5.0」(次世代基盤技術教育のカリキュラム化)という取り組みを実施しており、半導体、IoT、サイバーセキュリティなどの分野で強化が図られている。このうち半導体の拠点校が熊本高専と佐世保高専である。拠点校では4つのワーキンググループが活動している。カリキュラム作成、教材開発、高専全体への展開、広報活動である。このうち半導体カリキュラム作成をJEITAと共同で組んでいる。半導体人材像を明確にして何を教育すればよいのかを明確化する。
また熊本高専では「半導体工学概論」という15コマのコースを、高専の全学科生の4年生を対象に選択科目として掲げ、実施している。キオクシアやルネサス、ローム、JASMなどから講師が派遣されている。
産業界が取り組み始めた人材育成だが、さらに加速していく必要がありそうだ。例えば設計人材。産業界としては半導体設計人材を増やしたいという要望が多いが、今は半導体全般にとどまっているのが実態である。
また海外人材にもっと期待すべきという指摘も出ている。ベトナムでは2030年に向けて半導体人材5万人を教育する方針であり、期待がかかる。
取り組み方にも課題がある。米国ではホワイトハウスが動いて省庁連携ができているが、日本は経済産業省と文部科学省の強い連携に期待したいという声が増えている。
またここへ来て、「日本版オールバニ」や「日本版フラウンフォーファー」とも言える、研究者と産業界のブリッジ機能が求められている。ここへの人材供給にも期待がかかる。