
時間外労働規制の強化により、ドライバーの人手不足が深刻化する「物流の2024年問題」。今後は雇用できる人材がさらに減っていくことが予想されており、抜本的な対応が待ったなしだ。物流各社は課題解消のためのデジタルの活用を急いでおり、DX(デジタルトランスフォーメーション)への期待も高まっている。
「物流の2024年問題」という呼称は、トラックドライバーの労働時間短縮を目的とした2024年4月の法改正にちなむ。
国土交通省の調査によると、トラックドライバーの年間労働時間は全産業平均と比べて400時間ほど長い。これは他の自動車運転業務と比較しても多いという。
トラックドライバーの拘束時間は従来、1カ月当たり原則293時間以内と決まっていた。また1日当たりは13時間以内が望ましく、最大16時間以内までとされていた。休息については、8時間以上継続して取ることが求められていた。
2024年4月の労働基準法改正により、それぞれの基準が見直された。1カ月当たりの拘束時間は原則284時間以内に短縮された。ただし、同時に設けられた「年間960時間」という時間外労働の上限を考慮すると、実質的な1カ月当たりの拘束時間の上限はさらに低い274時間だ。つまり、1カ月でトラックドライバー1人当たり約20時間分の労働力が減る計算だ。
1日の拘束時間については原則13時間以内という点は変わらないが、上限は15時間まで引き下げられた。休息時間についても、勤務終了後継続11時間を基本とし、継続9時間を下回らないこととしている。
物流業界は、電子商取引(EC)の急激な市場拡大に伴う配送の小口化と荷物数の増加により、ドライバーの人手不足が問題になっていた。そこに今回の法改正・施行が重なったことで、深刻な人手不足が予想される状況を「物流の2024年問題」と呼ぶようになった。日本通運のグループ会社であるNX総合研究所の試算によると、2024年度は2019年度と比べて営業用トラックの輸送能力が約14%減少するという。
そこに追い打ちをかけるのが少子高齢化だ。今後はさらなるドライバー不足が予想される。問題解決に向けて有効な対策を講じなかった場合、2030年度には同条件で約34%足りなくなるという。物流が滞ると経済活動が停滞しかねない。物流業界にとどまらず、社会全体にとっての危機と言える。
課題解消に向けて、物流各社は置き配の拡大や共同配送の実施など、様々な取り組みを進めている。だが、どれも従来の施策であり、効果は限定的だ。そこで各社が期待を寄せるのが、デジタル技術だ。
例えば佐川急便はAI(人工知能)搭載の荷積みロボットによって、トラックへの荷物の積み込みを自動化するための取り組みを進めている。
2023年12月に佐川急便など4社は、AI搭載荷積みロボットの実証実験を開始すると発表した。プロジェクトに参加するのは佐川急便と親会社のSGホールディングス、住友商事、米国のユニコーン企業でAIロボティクスソフトウエアを開発するデクステリティだ。実証実験の期間は1年間としている。
デクステリティの既存のロボットをベースに、佐川急便が求める輸送品質や処理速度などの要件を満たせるように開発する。AIを使うことで荷物の大きさを判別できるようにし、ロボットが適切にトラックに積み込めるようにするという。
ロボットは米国にあるデクステリティの施設で開発する。ロボットを使った実際のオペレーションの検証は、東京湾岸にあるSGホールディングスグループの国内最大級の物流施設「Xフロンティア」で実施する。
国土交通省によると、トラック1運行当たりのドライバーの荷待ち時間は平均1時間34分だ。この削減がドライバーの負担を減らす鍵になる。佐川急便はAI搭載荷積みロボットによって、課題の解消に挑む。
トラックの積載量を高め、輸送を効率化することによって課題の解消を目指す動きもある。国土交通省が公表する「自動車輸送統計年報」によれば、2022年度の営業用トラックの積載効率は約40%だった。
積載効率を高める施策の1つが、共同配送だ。ヤマトホールディングス(以下ヤマト)は2024年冬をめどに、共同輸配送のオープンプラットフォーム提供を開始する予定だ。プラットフォーム上で、荷主の出荷計画や荷物量などの情報と、ヤマトをはじめリソース情報を登録した物流会社の運行情報をマッチングする。
2024年5月に設立した子会社Sustainable Shared Transport(SST)を介してサービスを提供する。プラットフォームはSSTと富士通が共同で開発中だ。
新プラットフォームは、地域の複数の物流網を集約する形で共同輸配送を実現する。標準パレットを使用して積載効率を高めるという。運転手1人で2台分の荷物を輸送できる「ダブル連結トラック」などの高積載車両の導入にも取り組む。
日本郵便グループとセイノーグループも、2025年4月から同業他社が利用可能な共同運行のプラットフォームを提供する予定だ。2社は、同時期から長距離の拠点間の幹線輸送の共同運行を開始する予定で、それに合わせてプラットフォームの運用を開始する。
国内では大手ITベンダーも物流の2024年問題解決に向けたデジタルソリューションの開発に力を注ぐ。各社が力を入れているのは、共同配送のための取り組みだ。
NTTデータは2024年7月に、複数拠点間で荷物を積み替える中継輸送のための「中継輸送最適化PF(プラットフォーム)」の構想を発表し、そのための検証をスタートすると発表した。輸送依頼データとトラックや鉄道の空き情報、倉庫の空き情報を組み合わせ、最適な中継輸送経路を算出する。荷主に対する運賃請求は、輸送条件の最適化度合いに応じたダイナミックプライシングにする計画だ。
NTTデータの取り組みは、ヤマトなど物流各社の共同輸送と重なる部分はあるが、鉄道などより広い範囲をターゲットにしている点と、中継輸送に強くフォーカスを当てている点が特徴だ。中継地点を経由すればドライバーが交代することが可能になるため、法改正による拘束時間短縮にも対応しやすくなる。
NECはデジタル技術を活用した「共同輸配送プラットフォーム」の2024年度中の提供を目指す。2023年9月から2024年3月にかけて花王、日通NECロジスティクス、三井倉庫サプライチェーンソリューション、横河電機などと運用実証を実施した。
富士通は物流会社向けの共同配送支援サービス「合い積みネット」を2023年5月に発表した。愛知県の尾張陸運、SAPジャパンと共同で実施した実証実験では、営業利益を約4.0倍に高められるという試算が出たという。現在はサービスの認知拡大に取り組み、参加企業を募っている。
ここで紹介した以外にも、「物流の2024年問題」の解決を目的としたDXは複数の取り組みが始動している。例えば「ラストワンマイル」の配送効率を高めるためのスマートロッカーや、小売り側の発注最適化によりトラックの積載効率を高めるソリューションなどだ。
トラックドライバー不足の問題を解決するためには様々なアプローチが考えられる。どれか1つで問題の全てを解決することは難しいため、複数をうまく組み合わせて課題を解消することが重要になる。
その際にポイントになるのが急速に進化するデジタル技術の活用だ。例えば今後の生成AIの進化は、共同配送プラットフォームにおいてマッチングの精度向上や時間短縮につながるはずだ。AIと半導体を組み合わせた「AI半導体」は、自動車に搭載されることで輸送経路の最適化などに効果を発揮する可能性がある。最新のデジタル技術を注視することが、課題解消の一助になるはずだ。