
2024年7月9日、「ベトナム半導体産業の未来-展望と課題」と題したイベントが京王プラザホテル(東京・新宿)で開催された。主催は駐日ベトナム社会主義共和国大使館、共催はベトナム国家イノベーションセンター(NIC)とベトナムソフトウェア協会(VINASA)。日本とベトナムの半導体産業の関係者やキーパーソンが集まり、同分野におけるベトナムの可能性と両国の協力関係について議論した。

イベントの最初に、駐日ベトナム社会主義共和国大使館のファム・クアン・ヒエウ駐日ベトナム特命全権大使が主催者挨拶をした。ヒエウ閣下は、ベトナムが2045年までに先進国になることを目指していることを紹介し、「その原動力として半導体産業の育成が極めて重要だ」と強調した。日本との関係については、「日本の半導体企業や研究所、大学と人材育成などで協力したり、日本の企業をベトナムに誘致したりして、両国の経済成長につなげていきたい」(ヒエウ氏)とした。
NIC のボー・スアン・ホアイ副センター長はベトナムの半導体産業の状況について説明した。
NICは、2019年に首相の決定により設立され、半導体をはじめとした先端技術開発を支援する役割を担っている。
ホアイ氏は「現在、ベトナムには40社以上の企業が活動して、回路設計、製造、テスティングの各段階を手掛けている」と紹介した。

2030年までに、ベトナムの回路設計を行う企業数は約100社に増加し、パッケージングおよびテスティングを行う工場が約10カ所になると予測されている考えだ。
半導体技術者についても、ベトナムは2030年までに少なくとも5万人のエンジニアを育成する計画で、そのうち、1万5000人は設計エンジニア、3万5000人は製造、パッケージング、テスティング、およびその他の半導体産業の工程に携わるエンジニアである。
人材育成についてホアイ氏は「日本の大学や企業と連携していきたい」と語った。既に広島大学の教員をベトナムに招く約束をしているという。
ベトナムのICTリーディングカンパニーである FPTコーポレーションのチュオン・ザー・ビン会長は、「これからは AI(人工知能)が半導体チップに搭載される時代に突入している」とし、「日本とベトナムがAIと半導体の2つの分野でパートナーになれば、日本は再び半導体分野で黄金時代に戻ることができる」と続けた。

FPTは 2022年10月に半導体ビジネスを手掛けるFPTセミコンダクターを設立するなど、半導体事業を強化している。
ビン氏は現在、ベトナム半導体産業開発委員会の委員長を務めており、ベトナムの半導体産業の振興にも関わっている。ビン氏は、「今後、自動車用ソフトウェアやロボット、医療機器は全て AI 半導体を搭載し、スマートな機器になる」と強調した。
日本はものづくりに強みがあるため、「ベトナムと協力してAIや半導体を共同研究・開発すれば、より優れた製品になり、他国との競争力を高めることができる」(ビン氏)。

経済産業省の清水英路商務情報政策局情報産業課デバイス・半導体戦略室室長は、日本の半導体政策について紹介した。清水氏は1980年代末期には日本の半導体売り上げのシェアが50%を超えていたことに触れ、「2019年には10%にまで下がっている」と語った。特に低迷しているのが演算処理向けの「ロジック半導体」で、「ロジック半導体を生産する企業や専門技術者が減っていることに問題意識を持っている」(清水氏)。
この課題を解消するため、日本政府はロジック半導体をはじめとした国内の生産能力が低い半導体分野について補助金の支給や税制の優遇を進めていく考えだという。その対象の1つが、2027年後半にRapidus(ラピダス)が最先端の2ナノ(ナノは10億分の1)メートル半導体の国内量産を目指しているプロジェクトだ。政府はこのプロジェクトに9200億円の支援を決定している。

続いて登壇したRapidusの東哲郎取締役会長は「2ナノメートル半導体を製造するプロジェクトは順調に進んでいる」とし、「こうした最先端半導体の開発・製造の取り組みは一過性で終わらせてはいけない。持続的なものにしていきたい」と強調した。
日本の半導体産業の現状について東氏は「最先端の半導体の生産を他国に頼っているため、活用が遅れてしまっているし、供給を受けられないリスクもある」と指摘した。その現状を変えるため、最先端半導体の自国での生産に取り組むと同時に、「欧米だけでなく、ベトナムをはじめとしたアジアの友好国とサプライチェーンを再構築して供給を安定させる必要がある」(東氏)。
電子情報技術産業協会(JEITA)の三井豊興半導体部会WSC・政策運営委員会委員長は世界各国の半導体事業の支援状況を紹介した。2019年に米国政府が半導体産業に為替レート1ドル100円換算で5兆円規模の支援をスタートさせたことで、欧州をはじめとした諸外国も取り組みを始めたという。

日本においても2019年後半から議論を始め、2021年5月に半導体戦略をまとめて政策提言した。「フラッシュメモリーやDRAM、CMOSセンサー、パワー半導体など、元々日本が強いところをさらに強化するための支援策を要請した」(三井氏)。
翌2022年は人材育成、2023年は電気代や税制支援、2024年は大規模な研究開発体制の整備について提言した。三井氏は政策提言の意図について「各国とも補助金に加え、研究開発や人材育成等、幅が広く、かつ積極的な支援を展開しているため、それに負けず劣らず、かつイコールフッティングとなる支援策を要請している」と説明した。
三井氏は地政学リスクの高まりや半導体人材不足についても触れ、「半導体分野においては、ベトナムをはじめとしたASEAN諸国との関係強化も重要だ」と強調した。

ルネサスエレクトロニクスは2004年からベトナムに進出している。同社の布施武司ハイパフォーマンスコンピューティングプロダクトグループ HPC マーケティング統括部長は「ベトナムに進出した日系企業として先駆者の1社だろう」と胸を張った。
南部のホーチミン市に最初の半導体設計開発拠点を開設し、その後中部のダナン市にも拠点を設けた。現在ベトナムに1100人以上の従業員がいる。汎用的なマイコンに加え、複数の機能を一つのチップで実現する「システムオンチップ」と呼ばれる大規模な半導体などを開発しており、それらの製品にルネサス独自の技術を盛り込んでいるという。
ルネサスはベトナムの複数の大学との連携も進めている。こうした活動を通して「勤勉で、新しいことに挑戦したいと考えるベトナムの方の資質を感じる機会が多い」(布施氏)という。
続いてパネルディスカッションが開かれた。パネリストとしてNICのホアイ副センター長、半導体商社レスターの柴田真裕専務取締役執行役員、FPTセミコンダクターのチャン・ダン・ホア取締役会長、ベトナム北部の港湾都市であるハイフォン市人民委員会のトラン・ティ・ハイ・イェン計画投資局副局長らが参加した。モデレーターはFPTコンサルティングジャパンの小野内隆弘執行役員エグゼクティブ・ディレクターが務めた。
テーマは「日本から見たベトナム半導体産業への期待と課題」だ。レスターの柴田氏は「我々の日本企業のお客様がベトナムで展開するケースが増えており、現地のサプライチェーンでの半導体調達の検討を始めている。成長のポテンシャルは大きいと感じる」と評価した。
一方課題については、「今後、取り扱う半導体のラインアップ拡大やサポートが必要になる。今は技術者の数が十分ではないが、今後育成が進めば解決するはずだ」(柴田氏)。
FPTセミコンダクターのホア氏は、「育成など課題は確かに多くあるが、我々は30年前に何もないところからITビジネスをスタートし、ここまで来た」とし、「ITビジネスを始めた時に比べれば、今は十分なノウハウがあり、国のサポートも得られる。必ず成功できると思っている」と続けた。
NICのホアイ氏は「今回の半導体ビジネスのチャンスを絶対に生かす、という気持ちはほかの国には負けない」と語気を強めた。そのための施策として、通関の不便さの解消や人材育成、電力供給など様々なことに力を注いでいくとした。
ハイフォン市人民委員会のイェン氏は「ハイフォン市は先進技術を使用する製造業、グリーンでクリーンな産業、特に半導体産業の企業の誘致に力を入れている。職業教育と人材の質を向上させるために、一部の補助金を支援している。日本と協力して半導体産業を成長させていきたい」と展望した。
イベントの閉会に際し、FPTのビン氏が再度登壇した。ビン氏は「両国の意気込み、協力の精神が確認でき、本当に良い機会になった。両国で黄金時代を築きたい」と語った。
