
自動運転は、未来を感じさせる注目度の高い技術だ。自動運転に関する様々な取り組みを見聞きする機会が増えており、近い将来の実用化をうたう発表も多くある。ただ、実現するとどのようなメリットがあり、どんな社会課題を解決できるのかをしっかりと把握できている人は意外と少ないのではないか。それもそのはずで、自動運転システムを研究する慶応義塾大学環境情報学部の大前学教授は「自動運転には長い歴史があり、時代によって期待される成果も変わってきた」と説明する。自動運転開発の現状や期待されている成果、実用に向けた課題などについて聞いた。(聞き手は日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ 大和田尚孝)
——自動運転の技術には、どのような社会課題の解決を期待されているのでしょうか。

自動運転の歴史は長く、コンセプト自体は戦前から提案されており、戦後の早い時期から自動運転の実験車が走行しています。期待される成果は、時代によって変わってきました。1970~80年代に研究の最初の盛り上がりがあり、この当時は戦争など軍事的なニーズによるものでした。
冷戦後の1990年代は渋滞解消が期待されていました。道路の車線などを増やすことによっても渋滞は解消できますが、その場合は大変なコストがかかります。「人間の運転が下手だから渋滞する」「自動で運転して車間距離を詰めて隊列走行すれば渋滞が解消できる」というわけです。人間の運転の場合に1レーン当たり1時間で走行できる台数は2000台程度ですが、自動運転であれば、その2~3倍の台数を走行させることができると試算されました。
2000年代に入ると、米国の議会で2015年までに地上の戦闘車両の1/3を無人化する方針が決定され、自律的に走行する自動運転車の研究が盛んになりました。
——当時の日本の状況はどうだったのでしょうか。
日本も1990年代に隊列走行や道路と協調する自動運転の研究が活発に行われ、その後人間の運転を支援する技術が実用化されていきました。
2007~2008年ごろはエコに貢献する技術開発が活発になり、自動運転もエコに貢献する技術として研究が進められました。なぜ自動運転がエコになるかというと、車間距離を狭くして隊列走行すると、空気抵抗が減って燃費が改善するためです。また、交通が円滑になることも燃費改善につながります。
それから現在に至るまで、自動運転の研究は大きく2つの流れに分かれた印象です。1つは自家用車など、一般ドライバーを支援する形の自動運転です。支援によって安全性を高めたり、高速道路を快適に移動したり、といったことを目的にしたものです。
もう1つは、タクシーやバスといった商用車の自動運転です。こちらは人が介入しない形を目指しています。商用車であれば移動範囲を限定できるので、運転を自動化しやすいのではないかという考えから研究が進んでいます。商用車を自動運転にすることにより、ドライバーの人手不足を補ったり、事故を減らせたり、燃費が改善したりといったことが期待されています。
——自動運転はレベル0~5で定義されています。現在、どのレベルの研究が盛んなのでしょうか。
一般車向けとしてはレベル2が最も盛んですね。レベル2は人が運転責任を負い、可能な限りシステムが支援する形です。人が運転席に乗って前を見ている状態であれば、システムによる自動運転に移行することが可能です。特に高度な支援をするものは「レベル2プラス」と呼ばれています。人とシステムの両方が信号や道路状況、歩行者などを確認し、判断にミスがないよう補い合います。
| レベル1 | システムが前後・左右のいずれかの車両制御を実施 |
|---|---|
| レベル2 | 特定条件下での自動運転機能 |
| レベル3 | 条件付き自動運転 ※システムの介入要求などに対してドライバーが適切に対応する必要がある |
| レベル4 | 高速道路など特定条件下における完全自動運転 |
| レベル5 | 完全自動運転 |
私が研究しているバスの自動運転も、ここに当てはまります。人が運転席にいる状態であれば、ハンドルやアクセルの操作を自動運転に切り替えられます。自動運転中でも、人がハンドル操作をすればすぐに手動運転に切り替えられるなど、自動運転中に積極的かつ容易に人が安全を確保できるような工夫を随所に盛り込んでいます。
レベル2プラスは、一般車向けであるためマーケットが大きく、今後もさらに研究が進んでいくはずです。ドライバーの運転をうまく支援できるようになれば、例えば高齢のドライバーが不安なく運転できるようになり、運転免許証の返納をせずに済む人が増えるといった可能性があります。今後様々なタイプの車での実用化が進んでいくでしょう。
——レベル3~5の状況はいかがでしょうか。
レベル3はレベル2と同じく運転席に人が座ります。違いはシステムが運転の主体になることと、自動運転時には運転席に座った人が前を見ていなくてよいことです。つまり、自動運転中に人は何もしなくてよいことになります。しかし、システムの機能限界時や緊急時には、運転を交代し安全確保しなければなりません。よって、レベル3からは、自動運転中の突発的な故障などにも備える必要があり、様々な機能を二重化、三重化して対応することが必要になります。また、ドライバーは、システムからの要求に応じて運転を交代し安全確保する役割を果たすことを求められるので、ドライバーの注意状態や覚醒度のモニタリングも必要になります。
レベル4もシステムが運転の主体という点はレベル3と同じです。最大の違いは、システムの機能限界時や緊急時に、ドライバーが運転を交代して安全確保をする必要がないことです。無人運転もレベル4です。レベル4の自動運転は、バス、タクシーなどのために現在、活発に研究や実証実験が行われています。運転範囲を限定し、インフラを整えたり高精度な地図を使えるようにしたりすることで、自動運転の安全性や信頼性を高めることが可能です。一方で、範囲を限定するので、自家用などでの利用が難しく、商用車での研究が中心になっています。
レベル4の場合もシステムの冗長化が必要ですが、ドライバーの支援や交代を考える必要がありませんので、ドライバーの状態をモニタリングしたり、ドライバーの支援や運転の交代をしやすくしたりといったことを考える必要がありません。その点でレベル3より容易な部分もあります。また、レベル4の移動サービスについては、国が具体的な実用化箇所数を成長戦略に盛り込んでいることなどもあり、商用車向けのレベル4は盛んに研究されています。
レベル5は、定義としては、条件や範囲を限定せずに自動運転が可能な「完全自動運転」を指しています。しかし、実際は少し曖昧な意味合いで使われています。例えば、毎日同じところを走るために使うとすると、範囲を限定していることになるので、レベル4と変わらなくなってしまいます。現状、「レベル5に挑戦している」と掲げている取り組みは、「地図やインフラに頼らず、カメラ等の車載センサーのみで全てを判断する」など、レベル4との違いを独自に定義するなどしているようにみえます。
——システム主体の自動運転を実現するうえで、課題になっていることは何でしょうか。
レベル4の実現を目指す場合、1000回走行して999回安全に走らせるまでは比較的スムーズに実現できます。しかし1000回のうち1回のミスも許容しないとなると、とたんにコストが跳ね上がります。
お話ししたようにレベル4は商用車での実用化が期待されています。しかし、人命にかかわる問題が絶対に起きないようにすると、かなりのコストがかかります。その課題をどう解消するかが難しいところです。過疎地域であれば運転手不足以外にも様々な問題があるので、自動運転に優先的に多くのコストを割くのが適切かどうかも難しい問題です。
——自動運転専用の道路を造ったり、インフラを整えたりすることで問題は解決しませんか。
もちろん可能なのですが、その場合はモノレールや路面電車を造る場合とのコストの比較になります。自動運転に期待されてきたのは、一般の車道を走る自動車の運転を自動化することで得られるメリットです。専用道路などが必要となるとその前提が変わるので、別の議論が必要になります。
ゴルフ場や工場の中など、一般道を使わず、人の安全も脅かさない用途であれば、実現のハードルは下がりますし、実際に昔から多くのゴルフ場や工場で、自動運転カートや無人搬送車が走行しています。
——商用車に自動運転を取り入れる場合、どのような形が実現しやすいとお考えですか。
システムが運転の主体になるレベル3の自動運転を、同乗するドライバーではなく遠隔地から人間がサポートする形であれば、実現しやすいのではないかと考えています。
レベル3のメリットは、人の判断でシステムのエラーを補えることです。例えば、信号機の色の情報をシステムで判断する場合は、車のカメラや通信情報などを利用しますが、エラーが生じることがあります。データを送る側の信号や通信設備がメンテナンス中であったり、画像からうまく信号の色を判断できなかったりするためです。完全に無人でやろうとすると、経路の中にこのような箇所が1か所でもあれば、運行ができなってしまう可能性があります。一方で、こうした場合に人が状況を認識してサポートすれば問題の解消は容易ですし、この行為自体は遠隔からでも可能です。過疎地で商用車を運転する人材が不足しているのであれば、都市部から遠隔でバスの運転を支援する、といった形で問題が解決できると思います。
——遠隔地から自動運転を支援する場合、通信障害などの恐れがあると思うのですが、どう対処しますか。
基本的には、通信に関しても冗長化して、接続できなくなる可能性を下げることが重要です。
これとは別の解決策は、定義上のレベル3からは少し離れてしまいますが、役割を最小限に抑えたドライバーを同乗させることです。
自動運転がうまく機能せず、遠隔からもサポートできない、という状況はまれです。その状況のみ一時的に人が運転をして、安全を確保できる場所で停止し復旧を待つといった形であれば、現役のプロのドライバーのような正確な判断力や持続的な集中力は求められないでしょう。この役割を、定年退職されたバスの運転士の方にお願いする、といったことは可能だと思います。




——AI(人工知能)や生成AIは、自動運転においても大きな役割を果たしていますか。
AIのディープラーニングによって、自動車に搭載したカメラの映像から人や物を検出することが可能になりました。従来のように複数の画像処理技術を組み合わせたり、様々なセンサーを用意したりすることに比べれば、同じ効果をとても容易に得られます。
一方で課題もあります。リアルタイムで映像を処理するためには自動車に膨大な計算力を搭載する必要があり、コストがかかることです。
何らかの認識のエラーが発生したときに、その原因が分からないことも問題の1つです。原因が分からないので、改善も難しいのです。
生成AIにも興味深い研究がたくさんあり、様々な成果が出ています。雨の日はフロントガラスの視界が遮られてしまいますが、画像生成AIを使えば雨が降っていないかのような映像をほぼリアルタイムに表示する研究が報告されています。フロントガラスに画像生成AIで作った映像を重ね合わせるなどをすれば、便利な運転支援機能になるはずです。道路上の車線を示す白線が消えかけているような場合も同様で、画像生成AIによって白線をくっきりと復元する研究なども報告されています。
また、自動運転車の遠隔監視などに使う場合も、現在の車内外のカメラ映像の情報を文章生成AIに解釈させて、状況の文章情報を生成することで、監視者に注意喚起を行ったり、状況の認識を手助けしたりすることも可能です。
AIのようなテクノロジーを使った処理は、時にエラーを起こすため、100%の成功率にするのが難しいという課題があります。しかし人の運転を前提とした場合、99.9%の成功率を持つシステムをサポートとして使うことはとても有用です。また、人の運転を前提としていない自動運転においても、AIのサポートがなくても事故は起きないが、あればなお良い運転ができるようなケースに積極的に使っていくべきであると考えます。たとえば、自動運転バスにおいて、バス停の乗車待ちの人を検知できない場合、各駅停車での運行が必要になります。そこで、AIで乗車待ちの人を検知すれば、最小限の停車で済みます。AIを調整して、誤検知を許容(乗客ではない人を乗客と判断してしまう)、非検知(乗客を見落とす)を限りなくゼロにするようにすれば、誤検知で停車しても運行が少々遅れるだけですみます。
自動運転の利点として「人はミスをするが機械はミスをしないので、自動運転のほうが安全」という話を聞くことがあります。はっきりとしたデータはありませんが、私はこれまでの研究を通じて、『支援なしの手動運転』VS『完全自動運転』では、『完全自動運転』の勝ちかもしれませんが、『手動運転+高度な自動運転技術によるサポート』VS『完全自動運転』では、安全性、融通性、コスト面で、『手動運転+高度な自動運転技術によるサポート』が勝っており、かつ実現しやすく社会課題の解決につながるのではないかと考えています。