
日本企業が情報システム開発を海外に発注する「オフショア開発」の委託先として、ベトナムなど東南アジアの存在感が急速に高まっている――。2024年3月に東京・虎ノ門で開催された経営者向け講演会「グローバルビジョン2024」において、オフショア開発などの事情に詳しい国士舘大学経営学部経営学科の税所哲郎教授がこう述べた。主流だった中国やインドからのシフトが、なぜ進んでいるのか。日本企業が直面する技術者不足などの課題解決につながるのか。オフショア活用の最新動向を探る。
税所教授は製造業のグローバルなサプライチェーンと対比して、ITサービス産業のオフショア開発の在り方を説明する。グローバルなサプライチェーンとは、国内拠点に限らず世界規模で、原材料の調達から販売までのモノ・サービスの一連の流れを意味するサプライチェーンを築き、最適化する取り組みを意味する。
製造業における東南アジアのグローバルサプライチェーンの事例として、自動車産業の取り組みを紹介した。タイのバンコクにマザー工場を作り、「部品工場などの労働集約的な工場を、より人件費のやすい隣国のラオスの首都ビエンチャンやカンボジア南部の都市コッコンに作る」(税所教授)ようなケースだ。
目的は人件費や材料原価、物流コストの削減だという。「隣国とのグローバルサプライチェーンは移動時間や輸送費用などの面でもリスクが少ない。ASEAN(東南アジア諸国連合)は関税も原則的に無くなっている」(同)。
このような、グローバルでのサプライチェーンは従来、製造業での取り組みが中心だったが、「ITサービス産業でも、オフショア開発という形でグローバルなサプライチェーンを確立する企業が増えている」(税所教授)。
ITサービス産業のグローバルサプライチェーンについて、税所教授は「モノの移動が伴わないため、インターネット環境があればどの地域でもサプライチェーンに組み込むことができる」と指摘する。つまり、ITサービス産業は製造業よりも、グローバルでサプライチェーンを組みやすい性質があるというわけだ。
一般的なソフト開発手法であるウォータフォールモデルの場合、各工程が独立して区切られている。そのため、「工程ごとに進捗や品質が管理でき、オフショア開発を取り入れやすい」(同)。
オフショア開発を利用する場合の委託工程について、税所教授は「従来はプログラミングや単体テストなどの単純な工程が多かったが、業務経験を重ねることで、近年は人事系システムや総務系システム、といった具合に、テスト以外の工程も含め業務システム単位で開発委託するケースが増えている」と語る。
日本企業によるオフショア開発の委託先として、近年注目を集めているのが東南アジアだ。「従来は中国やインドへの委託が中心であったが、最近の調査では日本企業の委託検討先としてベトナムとフィリピンが中国、インドを上回っている」(同)という。
日本企業によるオフショア開発の委託先として東南アジアが有力になっている理由について、税所教授は「ASEANにおいてビジネス面、文化面から日本語教育の人気が増している」と説明する。
特にベトナムは日本語教育に熱心だ。2008年には、日本語教育を小学校から始める「国家外国語プロジェクト」を国策で開始した。現在は小学校2校、中学校81校、高校36校が日本語教育を導入しているという。「企業が社内で日本語教育を実施するケースも多い」(税所教授)。
ベトナムから日本への留学生も4万人近くに増えているそうだ。「人口比率で見るとベトナムは中国を上回っている」(同)。留学生が日本のIT企業に就職し、しばらくしてから独立してIT企業を創業するケースも多いという。
日本語能力の高いベトナム人のシステムエンジニア(SE)が増えてきた結果として、「ベトナム人のSEが日本企業に直接対応するケースが増えている」(同)。従来は日本企業とベトナム人技術者との間に、日本語が堪能なSEとして「ブリッジSE」を挟む形が多かった。
この結果として税所教授は、「日本企業から大型案件を受注するASEANのIT企業が珍しくなくなった。品質的にも中国企業などとそん色ないと言われる」と語る。
ITサービス産業のグローバルなサプライチェーンは、日本企業の経営課題である人手不足の解消にもつながりそうだ。「ITサービス産業においてはコスト競争力の強化だけでなく、国内で不足しているIT人材を補えるメリットがある。むしろ人材確保が目的化している、とすら言える状況になってきた」(税所教授)。
事業のグローバル化にあたって、海外拠点でのシステム開発などを委託できるメリットもある。東南アジアはもちろん、欧米拠点のシステム開発など、英語を前提とした案件を任せやすい。
一方で課題についても指摘した。「言語や為替、政情リスクといったことに加え、文化の違いも大きい。例えば、言わなくても分かる、といった暗黙知が通じなかったり、業務範囲以外の契約書に明記していないことには柔軟に対応してくれないことがある」(同)。税所教授は「メリットだけでなく、デメリットについてもしっかりと検討することが欠かせない」と強調する。
