
海外のIT企業にシステム開発や保守などを委託する「オフショア開発」に注目が集まっている。そこで日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボはオフショア開発の利用実態と今後の計画を浮き彫りにする目的で、「オフショア開発に関する調査」を実施した。前回記事は委託先の国・地域がどのように変化しているのかについて取り上げた。2回目となる今回は、情報システムの種類や技術分野の観点から、委託対象の実態を調べた結果を見ていく。
オフショア開発を利用している人(委託経験がある人を含む)に、対象となるシステムの種類及び技術分野について複数回答可の形で聞いた。首位は「Webシステム」(33.9%)、2位は「組み込みソフト関連」(22.2%)、3位は「スマホアプリ」(20.9%)だった。

今後の発注を検討している種類や技術分野についても尋ねたところ、首位は「Webシステム」(33.8%)、2位は同率で「AI(人工知能)関連」(24.6%)と「データ分析・収集基盤」、「組み込みソフト関連」の3つが並んだ。

「今まで」(委託経験がある人)と「今後」(発注を検討している人)の結果を比べると、首位はどちらもWebシステムだった。Webシステムは業種を問わず、多くの企業が導入・活用している。ニーズが多い領域だけに、オフショア開発においても需要が高いようだ。
「今後」で同率2位に入った3つのうち、AI関連とデータ分析・収集基盤については、いずれもDX(デジタルトランスフォーメーション)で中心的な役割を果たすテクノロジーだ。「今まで」よりもAI関連は7.9ポイント伸ばし、データ分析・収集基盤は4.9ポイント増やした。日本企業がDXに注力し、その需要の一部をオフショア開発の受託先が取り込んでいるとみなせる。
この他「COBOLアプリケーションの保守」について、今後発注を検討している人が21.7%と「今まで」よりも2.5ポイント伸ばした。「クラウド(基盤・アプリ)関連」は今後発注を検討している人が24.2%(6.2ポイント増)だった。この結果は、いわゆる「2025年の崖」問題と関連がありそうだ。
日本ではここ数年、「2025年の崖」が課題として注目されている。経済産業省は2018年にこの問題を最初に提唱した際、2025年頃に老朽化した企業システムが増え、運用や更新を担うエンジニアの不足感が強まると指摘した。さらに、老朽化したシステムの修正に時間がかかることや、必要なエンジニアを確保できないことなどにより、本来必要な企業のDXが進まず、大きな経済損失が生じる可能性があるとした。
先に述べたように、「COBOLアプリケーションの保守」と「クラウド(基盤・アプリ)関連」を「今後」オフショア開発として委託しようと検討している人の割合が増えている。これら2つはどちらも、2025年の崖に関連する領域だ。
大型コンピューターのメインフレームと、その上で動作するCOBOLアプリケーションは「レガシーシステム」と呼ばれ、今後特に技術者の不足が著しくなると予測される。そのため、他システムへの移行が好ましいとされており、移行先の有力な候補となっているのがクラウド基盤やクラウドアプリである。
COBOLアプリケーションの保守や、レガシーシステムから脱却するための「レガシーマイグレーション」は従来、国内大手IT企業が担うのが当たり前だった。大規模なプロジェクトに対応する人材リソースを抱えていたり、豊富な業務知識を持っていたりすることが求められるためだ。現在の実装機能だけでなく、過去からの要件や機能の変遷についても理解しておく必要もある。
いわば「国内勢有利」だったはずの領域にもかかわらず、これらの領域を海外ITベンダーに委託したいと考える人が増加していることが判明した。
実例も出てきている。日本調剤は基幹システムの1つである調剤システムのリニューアルを、ベトナムのITベンダーに委託している。調剤システムは薬局で利用するもので、患者から受け取った処方箋の登録から会計、薬の受け渡しまで一連の業務をカバーする。
2025年の崖はDX推進の障害になる様々な問題を指摘したものだった。つまりその先のゴールとして、DX推進を順調に進められるようになることを設定している。
今回の調査で、今後発注を検討している情報システムの種類・技術分野で2位に入った「AI関連」と「データ分析・収集基盤」は、先に説明した通りDXに使われるテクノロジーだ。つまりこれらも広い意味でいえば、2025年の崖に関連する分野といえる。
2025年の崖で指摘される複数の問題の根幹に、IT人材の不足がある。今後もさらに状況は厳しくなる見込みだ。日本企業はこの問題の解決を、海外に求めていることが改めて分かった。
他に特徴的な調査結果を記したい。今後発注を検討している情報システムの種類・技術分野で2位に入った「組み込みソフト関連」だ。過去に委託したことがある情報システムの分野・技術の設問と順位は変わらなかったが、ポイントは2.4ポイント増えている。
組み込みソフトは、自動車や複合機などのメーカーが、自社で製造するハードウエア製品に搭載して動作させるソフトウエアだ。基幹系システム上で動くソフトが主にコスト削減や業務効率化を目的としているのに対し、組み込みソフトは製品の付加価値向上に直結する。つまり企業の競争力の源泉となるソフトだといえる。こうした分野のソフト開発にも既にオフショアは積極的に利用されており、今後さらに利用が拡大していく傾向にあることが明らかになった。
組み込みソフト開発は、日本の強みとされるものづくりを支える重要な分野だ。オフショア開発の受け皿であるアジアなどのITベンダーは、日本企業のものづくり力の強化にも黒子として貢献している実態が改めて浮き彫りになった。
日経BPのICT(情報通信技術)領域のシンクタンクである総合研究所 イノベーションICTラボは、日本国内におけるオフショア開発の利用実態と今後の計画などを明らかにするために、「オフショア開発に関する調査」を実施した。インターネット調査会社マクロミルのモニター会員のうち、20〜69歳のビジネスパーソンを対象とし、Web調査の方法で回答を得た。調査期間は2024年10月8〜11日、有効回答数は291件。