
今、AI(人工知能)分野の中で最もホットなテクノロジーは生成AIだろう。だが、生成 AIと共に脚光を浴びつつある技術にも注目したい。それはAIエージェントだ。AIエージェントは米オープンAIが2022年11月に「ChatGPT」を発表してから急速な発展を続ける生成AIの関連テクノロジーだ。「2025年はAIエージェント元年」といわれるほどの盛り上がりを見せつつある。生成AIとAIエージェントの関係性や最新動向、今後の発展の方向性、活用のメリット、利用における課題を探った。
生成AIとは、利用者が自然言語によって出した指示に応じて、説明やストーリー、画像、動画などのコンテンツを新たに生み出すAIを指す。「ChatGPT」の登場を機にブームが起こり、現在もIT企業によるサービスの開発や、企業による導入などが相次いでいる。
生成AIのサービスはChatGPTのように、コンテンツ生成の過程で利用者と対話する形式のものが主流だ。これらは「対話型AI」とも呼ばれる。
対話型が多い生成AIに対し、AIエージェントは「自律型AI」と呼ばれる。おおまかな目的を指示すれば、それを達成するための具体的なアクションを指示しなくても、自ら思考して仕事をこなす。その過程で、生成AIをはじめとした様々なテクノロジーを活用する。
AIエージェントの開発に力を入れるIT企業が増えている一方で、生成AIについても依然として激しい開発競争が続いている。
オープンAIは2025年4月、新しい生成AIの基盤モデル「o3」の提供を始めた。数学や科学、視覚認識などの分野に強みを持つとしている。数学については、AIME(国際数学オリンピックの米国予選)の問題を解いた際の正答率が91.6%で、同社が2024年9月にリリースした「o1」の74.3%に比べて向上したという。
米メタも2025年4月、最新の生成AI「Llama 4」を発表した。このタイミングで、テキストだけでなく画像や動画などを組み合わせて質問できる「Llama 4 Maverick」と、大量の文章や情報を要約するなどが可能な「Llama 4 Scout」の2モデルを公開した。今後はAIの知識量を示す値である「パラメーター」をさらに増やした「Llama 4 Behemoth」も投入予定だ。
これまで生成AIの開発は米国がけん引してきたが、2025年に入ってから中国も争いに加わった。2025年1月、中国の新興企業ディープシークが生成AI「R1」をリリースした。同社は、米エヌビディア製の安価な半導体を使い、オープンAIの10分の1以下のコストで同等の性能を持つ生成AIを開発したと主張した。
この発表の影響で、たった1日の間にエヌビディアの株価の17%に当たる、時価総額約5900億ドル(91兆円)が減少した。エヌビディアが強みを持っている、生成AI向けの高価格な半導体の価値が疑われたためだ。
その後、「ディープシークの発表ほど開発費用は低くなかったのではないか」といった指摘が多くあった。どれだけ低コストで開発したかには諸説あるようだが、いずれにしろ、それ以降の米IT企業の動きに影響を与えたのは確かだ。
米グーグルは2025年2月、同社の生成AI「Gemini 2.0」に低価格モデル「Gemini 2.0 Flash-Lite」の提供を開始した。従来から低価格の「Flash」というモデルがあったが、さらに低価格で利用できるモデルを追加した形だ。オープンAIも同年4月、低価格モデルの「GPT-4.1」をリリースした。
同じく2025年4月、中国ネット通販最大手アリババ集団傘下のAlibaba Cloud(アリババクラウド)が「Qwen3」を、ネット検索大手の百度(バイドゥ)が「文心大模型4.5 Turbo」を発表した。いずれも低コストで利用できることを特徴とした生成AIだ。今後も米中の生成AI開発競争は過熱する見込みだ。
続いてAIエージェントの動きを見ていこう。調査会社のガートナージャパンによると、AIエージェントという言葉は2024年後半から急速に認知が広がったという。
AIエージェントで可能になることとして、例えばホテルの予約がある。宿泊先や日時などを指示すると、AIエージェントが実際にホテルのサイトを訪れ、必要な操作を考え、実際にサイト上で操作をして予約を取る。状況に合わせて、必要な操作をAIが自律的に考えるわけだ。
この「自律的」という部分が、チャットボットやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といった過去の自動化ツールと異なる部分だ。チャットボットやRPAはあらかじめ作業手順を定義する必要があるが、AIエージェントにはそれが必要ない。
こうした特徴から、企業において複雑で高度な事務処理を任せられるのではないかと期待されている。ガートナージャパンは、日本企業の60%が2028年までにAIエージェントを使って機械的な業務に関するタスクの自動化を実現すると予測している。
IT大手も次々にAIエージェントに関連した製品を投入している。米マイクロソフトは2024年11月に開催した開発者向けイベント「Microsoft Ignite 2024」において、「Agentic Worldの幕開け」という言葉を掲げた。同社のクラウドサービス「Microsoft 365」内で動作する複数のAIエージェントを発表し、それを同社のAIアシスタントツール「Copilot」を介して操作できるようにした。
オープンAIも2025年1月、AIエージェント「Operator」のプレビュー版をリリースした。AIエージェントがWebにアクセスし、様々なタスクを実行できるとしている。
AIエージェントを活用したサービスも登場している。パソナグループは2025年3月、AIエージェントとBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を組み合わせた新サービス「AIO」の提供を始めた。
同社が従来提供していたBPOによるオフィス業務全般の業務効率化支援にAIエージェントを組み合わせることで、コスト低減や付加価値向上を実現するとしている。具体的には、コンタクトセンターにおける消費者からの問い合わせ対応や、従業員のヘルプデスク・営業支援などに向けたサービスを展開していく考えだ。
AIエージェントはまだ登場したばかりの技術ではあるものの、上手に活用できれば企業が得られるメリットは小さくない。人手不足の解消、高度な事務処理の自動化、特定の要員に依存していた業務の標準化などにより、コスト削減や作業精度の向上、サービスや商品の品質強化などにつながる可能性を秘める。
企業にとっては競争力を高めるチャンスである一方、活用に向けては課題もある。例えば、自律的な判断をするという特徴から、誤った判断をしてしまう可能性が十分にある。先のホテルの予約のケースで言えば、予約自体を失敗することや、指定した以外の日程・場所で予約してしまうこと、想定よりも高額な部屋を予約してしまうことなどが起こり得る。
仮に社内の事務手続きをAIエージェントに任せる場合、判断を誤っていないか、高額過ぎる支払いをしていないか、といったことを注視する必要がある。
AIエージェントが適切な判断をするために必要な環境が、企業側に整っていないことも課題になる。複数のシステムやサービスに散逸しているデータを統合的に見るためには、データ項目を統一する名寄せや、API(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)を使って接続するなどの必要がある。これは長年にわたり企業システムの課題とされてきた問題であり、AIエージェントの活用を機に問題を解消できる企業がどれだけあるのか未知数だ。
このように様々な課題が考えられるAIエージェントだが、企業は早い段階から活用の可能性を探っておくべきだろう。今後日本の労働人口が減少していくことを考えれば、ほとんどの企業において業務の効率化が欠かせない。AIエージェントや生成AIの活用は、その課題を解決する有力な手段となり得る。