
ベトナムのICTリーディングカンパニーであるFPTコーポレーションは2024年11月、日本に新たなグループ会社であるFPTスマートクラウドジャパンを設立した。FPTは20年にわたり日本でビジネスを展開しており、既に持ち株会社のFPTジャパンホールディングスや、事業会社のFPTソフトウェアジャパン、FPTコンサルティングジャパンなど様々な法人がある。そのような中で今回新たにFPTスマートクラウドジャパンを設立した理由や、「AI(人工知能)を活用した業務変革を支援する専門会社」とうたう同社のサービス概要などについて、グエン・フウ・ロン代表取締役社長に聞いた。
——FPTスマートクラウドジャパンで手掛けるビジネスの概要を教えてください。
日本は社会問題として、人口減少や人材の不足、他国と比べてデジタル活用が遅れていることなどが指摘されています。これらを解決するため、AIは非常に有用です。
我々が提供する「FPT AI Factory」サービスの提供対象は、IT企業の開発者の方や、一般企業のIT部門の皆様だけではありません。FPT AI Factoryを使えば、一般企業の業務部門の皆様が、自らAIを使った便利なアプリケーションを作ったり、AIエージェントを作ったりすることができるようになります。AIアプリケーションやAIエージェントは、6〜12カ月といった長いスパンではなく、数週間という本当に短い期間で構築が可能です。
FPTスマートクラウドジャパンは、日本の様々な企業や機関の皆様が取り組まれるAIを使った業務変革を、できるだけスピード感を持って支援することを目的に設立しました。先ほどご説明した、「誰でも使える」「短期間で構築できる」というAIのサービスを展開することで、多くの方のお役に立てればと考えています。
FPTグループが日本でビジネス展開を始めてから今年でちょうど20年になります。この間、たくさんのお客様に育てていただき、今日を迎えることができました。育てていただいた日本の皆様のために、AIを使った業務変革をお手伝いしたいと考えています。
——既存の法人とは別の法人としてFPTスマートクラウドジャパンを設立した理由は何でしょうか。

元々日本での事業はソフト開発会社であるFPTソフトウェアジャパンからスタートしました。事業を始めた当初から、日本においては技術者の不足や、最新技術の活用の遅れが課題になっていました。FPTソフトウェアジャパンはその解決のため、ベトナムをはじめとした海外の技術者を活用し、日本にサービスを提供してきました。
その後、開発者だけではお客様のご要望にお応えできなくなってきたため、2019年にコンサルティング会社のFPTコンサルティングジャパンも設立しました。従来日本のIT産業は、お客様が取り組むことを決めてITベンダーに指示をするという形が主流でした。しかし、この頃からデジタルの進化が顕著になり、お客様だけではどう使うかを決めづらい、といった状況になっていました。そうしたお客様を、コンサルティングによってご支援することが、FPTコンサルティングジャパンを作った理由です。
FPTコンサルティングジャパンができたことで、お客様の課題を考えるところから、取り組むべきことの設定、システム構築、その後の運用まで含めてFPTグループでサポートできるようになりました。
その後もデジタル活用が進む中で、最近は生成AIが盛んに利用されるようになってきました。生成AIをはじめとした最新のAIの力を発揮させるためには、CPU性能を重視した従来型のサーバーではなく、GPU性能を重視した新しいタイプのサーバーが必要になります。
このAI活用のための計算能力、インフラを自社で抱えてお客様に提供するのがFPTスマートクラウドジャパンの役割です。当社と、エンジニアを抱えるFPTソフトウェアジャパン、コンサルタントを擁するFPTコンサルティングジャパンの3社が一体となって、お客様のAIを使った業務変革を支援していきます。
日本政府は、国内で安定的にクラウドリソースを確保するため、2023年に「クラウドプログラム」をスタートしました。国内にクラウド環境を構築し、リソースの安定供給に貢献すると認定した事業者に助成金を交付するプログラムです。当社は助成金を得ているわけではありませんが、「国内の計算資源を利用したい」というお客様のニーズの高まりを感じていたため、今回国内のデータセンターにGPUサーバーを設置することを決めました。現在データセンターに、エヌビディア社製のGPU「H200」を1000基以上搭載したサーバー群を置いています。

——FPTスマートクラウドジャパンの資本構成を教えてください。
多くの投資が必要なことや、AIマーケットにおいてより成長したいということから、我々一社ではなく、バリューを持った企業様と協力して事業を進めたいと考えました。住友商事様、SBIホールディングス様から出資を受け、それぞれ発行株式の2割ずつを保有してもらっています。FPTグループで残る6割を保有します。

——FPTスマートクラウドジャパンはどの程度の規模・体制で事業を営んでいますか。
現在のメンバーは10人強です。メンバーは大きく3つの役割に分かれて動いています。1つはデータセンターにGPU環境を設置したり、クラウド環境を構築したりすることです。
2つ目は、お客様のニーズに応じたプラットフォームを提供することです。我々は単に計算リソースをインフラとして提供するだけでなく、お客様のトレーニング・推論の環境を構築してお渡しする、といった具合にプラットフォーム構築まで対象にしています。
3つ目は営業やマーケティングです。
FPTグループのベトナム法人とも協力します。元々ベトナムに、FPTスマートクラウドという名称の法人があり、GPUサーバーを使って構築したクラウドリソースの提供や製品開発を手掛けています。彼らの経験やノウハウも、我々のサービスに生かしていきます。ベトナムにも日本と同規模のGPUがあります。
——FPT AI Factoryのサービス概要について、改めて詳細を教えてください。
現在2つの分野でサービスを提供しています。1つ目がIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)の「FPT AI Infrastructure」です。エヌビディア社製のGPUを使って構築したクラウド環境で、サービスを提供しています。
提供方法もいくつかご用意しています。例えば、サーバーのセットアップまで全てこちらでする形と、サーバーだけ提供しセットアップはお客様にやっていただく形をお選びいただけます。ほかにも「マネージドGPUクラスター」や「GPU仮想マシン」などのメニューをご用意しています。
2つ目はPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)で、「FPT AI Studio」、「FPT AI Inference」と「FPT AI Agents」があります。
FPT AI Studioは、オープンで提供されているモデルで満足されないお客様が、自社のデータを使ってモデルをチューニングしたい場合にお使いいただくサービスです。
FPT AI Inferenceは、オープンになっている代表的な生成AIモデルの中からお客様の好みのものが選べるよう、あらかじめ環境を用意して提供します。また、我々がご用意した以外のモデルも、お客様ご自身でアップロードして利用することも可能です。
FPT AI Agentsは、一定のAIの知識があれば、業務部門の方が自らAIエージェントを短期で開発することができます。
——FPT AI Agentsで、どのような業務が効率化できるイメージでしょうか。
FPT AI Agentsを使うことで、業務プロセスごとに最適なAIエンジンや生成AIモデルを使い分けることができます。例えば自動車保険の査定で使う場合、保険の請求内容についてはテキストを扱うのが得意な生成AIで理解し、画像を扱うのが得意な生成AIで自動車の写真を分析して請求内容が正しいかを確認し、さらに別のAIで請求金額が妥当かを判断し、顧客へのメールの文面をまた別の生成AIで作成する、といった具合です。
——FPT AI Factoryが他社の類似サービスと違う点は何でしょうか。
1つは提供体制です。FPT AI Factoryは多くの場合、FPTグループの3社が共同でお客様に相対する形でご提供します。我々の強みは、この体制によって発揮できる総合力です。
仮に別の企業のAIサービスを使う場合、まず企業はAIをどう活用するかを考えるためにコンサルティング会社に相談します。するとコンサルティング会社が「こういうことができるAI環境を作り、こういった形で使いましょう」「そのために推進チームを作り、社内でAIに強い人材を育成していきましょう」といったことを決めます。
次に、採用するAIツールを決め、システム開発会社が必要な環境を構築します。AIアプリケーションを動かすための計算力が高いクラウド環境も必要になるので、どの業者が条件を満たすかを選定します。
こういった具合に、AIを使う環境を構築するに当たって複数の企業が関わる形になるのです。これは時間がかかりますし、お客様の負担にもなります。
我々は3社が一体となってワンストップでサービスを提供することで、お客様のニーズに合ったAI環境を、短期間、低コストで構築することができます。
最近はPOC(概念実証)に先に取り組んで、本番環境は別途構築するケースも増えてきました。複数の企業に依頼する場合、このやり方で進めるのは仕方ない部分もありますが、本番環境が稼働するまでかなり時間がかかってしまうという欠点があります。我々はPOCを生かし、それを発展する形で本番環境を構築するので、この点でも開発時間を短縮できます。
もう1つは高い計算力です。FPT AI Factory は2025年7月、最新の「TOP500」スーパーコンピューター世界ランキングに選出されました。TOP500は、世界で最も権威ある評価指標の1つです。AIおよびクラウドコンピューティング分野における我々の技術力が世界水準にあることを改めて証明できたと感じています。
——ほかにも今後投入予定のサービスがあれば教えてください。

ベトナムのFPT AIスマートクラウドは「FPT.AI」というAIプラットフォームを提供するサービスを展開しています。ほとんどのベトナムの金融機関や多くのリテール業で、コールセンター業務などにお使いいただいています。FPT AI FactoryはIaaS、PaaSに加え、「FPT.AI」をベースにSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)も提供しています。同様のサービスを、日本向けにカスタマイズしたうえで提供します。
これまでのシステムインテグレーションの経験で培ったデータ活用、AI活用などのノウハウを、クラウドサービスとセットで提供することも考えています。具体的には、チャットボットでの自動応対やソースコードの自動作成などについて様々なアセットがあります。これらを付加価値としてご提供します。
——サービス提供先としてはどのような業種を考えていますか。
日本は世界的にものづくりが強く、当社としても既存のお客様の半数以上が自動車を含む製造業です。ですから、製造業は1つの注力領域だと言えます。
もう1つは金融やリテールなどカスタマーサポートをされている分野ですね。生成AIが最も普及している分野の1つはカスタマーサポートです。カスタマーサポートも力を入れたい領域です。
——データセンターは日本に置いている、というお話でしたが、開発などその他の部分は日本とベトナムのどちらでするのでしょうか。
開発のリソースはベトナムが圧倒的に豊富なので、それは活用していきます。ただし日本のお客様に合った形でサービスを提供することが何より重要なので、営業やコンサルティング、カスタマーサポートなどについては日本でしっかりと体制を組んでご提供します。
データセンターについては、機密性の高いデータを扱う場合は日本のセンターを使うことが欠かせません。しかし、そこまで機密性が高くないようであれば、ベトナムのセンターをご提案することもあります。同レベルの計算力を持つ最新のGPUサーバーを活用する場合でも、人件費や電気代などがベトナムの方が低いため、コストを下げることができます。
——今後の展開や目標などを教えてください。
繰り返しになりますが、日本企業のAI変革が他の国から遅れることがないよう、グループ3社で連携して支援していきます。
設備についてもビジネスの成長に合わせてさらに増強する考えです。今後提供されるエヌビディア社製の最新GPUについても導入を計画しています。
当社の従業員をいつまでに何人に増やす、といった目標は立ててはおりませんが、ビジネス規模の拡大に合わせて人数も柔軟に増やしていきます。