2025年7月17日
新潮流

ERP進化論、AIエージェント搭載で生産性向上に挑む
「SAPの2027年問題」を契機に活用が進む可能性

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吉田洋平=フリーライター

大手ERP(統合基幹業務システム)ベンダーが、相次ぎAI(人工知能)エージェント対応を進めている。AIエージェントと組み合わせることで、業務効率を大幅に効率化できるとの触れ込みだ。一方で「SAPの2027年問題」と呼ばれる標準サポート終了のタイミングが迫り、ERPの入れ替えを急ぐ企業が増えている。最新のAIエージェントに対応したERPは企業にどのようなメリットをもたらすのか。ERPの入れ替えに向けて、導入企業はどのような課題に直面しているのか。最新動向を追った。

AIエージェントは「自律型AI」と呼ばれる。大まかな目的を指示すれば、それを達成するための具体的なアクションを指示しなくても、自ら思考して仕事をこなすことが特徴だ。ERPパッケージを提供する大手3社は2024年後半から、相次ぎAIエージェント機能を強化している。

米マイクロソフトは2024年10月、同社のクラウド型ERP「Dynamics 365」上で機能する10種類のAIエージェントを提供すると発表した。米オラクルも2024年9月、同社のクラウド型ERP「Fusion Cloud ERP」にAIエージェント機能を追加すると発表した。独SAPは2025年に入ってから同社のERP「S/4HANA」にAIエージェント機能を追加した。各社とも最初の発表以降、AIエージェント機能を強化・拡充している。

マイクロソフトがDynamics 365上で提供しているAIエージェントの1つが「Supplier Communications Agent」だ。サプライヤーとの連携を自律的に管理し、発注書の確認に関するタスクを自動的に実行することで、遅延を回避するという。

より多くの企業に関係するAIエージェントの活用例としては、領収書の処理がある。従業員が領収書をスマートフォンで撮影してERPにアップロードすると、AIエージェントが領収書に書かれた科目を自動で判断し、必要なデータをERPに入力する。従来であれば人の判断が必要だった作業についても、AIエージェントを使うことで自動化できるわけだ。

各社はAIエージェントでERP以外の自社ソフトも連携して扱えるようにする方針だ。これにより例えば、従来は2つの業務アプリケーション間をまたがって作業していたプロセスを、AIエージェントが自動でつなぐことができる。担当者はAIエージェントからの求めに応じて必要なデータを入力することで、業務プロセスが自動で進んでいく形だ。

かつては
「SAPの2025年問題」だった

ERPがAIエージェントによって進化している一方で、ERPに関連する大きな問題が間近に迫っている。「SAPの2027年問題」だ。国内外で大企業を中心に多くのユーザーを抱えるSAP ERP 6.0の標準サポートが、2027年末で終了することを指す。

SAPの2027年問題は元々、「SAPの2025年問題」だった。経済産業省は2018年に公開したデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する報告書で「2025年の崖」という言葉を使った。2025年頃に老朽化した企業システムが増え、運用や更新を担うエンジニアの不足感が強まるという内容だった。この中で、SAP ERP 6.0の標準サポート終了が2025年に予定されていることも、「崖」を生じさせる原因の1つとされた。

こうした状況を受け、SAPは2020年に標準サポートの期限を2025年末から2027年末に延長した。これにより、「SAPの2025年問題」は「SAPの2027年問題」になったわけだ。

SAPは同時に、オプションの延長保守サービスを2030年末まで提供することも発表した。保守料金を2パーセント分上乗せして支払うことで、2030年末まではサポートを継続して受けることができる。

延長保守サービスは、技術者不足などを理由に2027年末までに移行を終えられない企業が一定数あることを見越したものだった。2027年が間近に迫った現在、実際にその見込み通り、2030年末までの移行を計画している企業が多く残っているようだ。

SAPは2025年に入り、2030年末までに移行が間に合わないユーザーに対しても、サポート期間を延長できるオプションを用意していると明かした。ただし、対象は一部ユーザーとしており、オプションを利用できない企業も多いと見られる。

移行しないと
AIエージェントは使えない

現状は、2030年末までであれば、リスクを最小限に抑えた形で移行を先延ばしにすることが可能だ。2031年以降もサポートの対象になる企業であれば、移行をさらに先延ばしできることになる。

ただし、移行を遅らせることには別のリスクもある。冒頭で紹介したAIエージェントをはじめとした、最新のテクノロジーが利用できないことだ。

実際にAIエージェントによってどれだけ業務が効率化するかは未知数だ。だが、著しく生産性が高まる企業が続出した場合、移行の遅れが大きな差となる可能性はある。

生成AIの企業利用がわずかな期間で広がったように、AIエージェントについても同様に短期間で利用が拡大すると見る向きは多い。2030年までには、AIエージェントを超えるインパクトがある新技術が登場する可能性もある。移行が遅れれば、AIエージェントに続く新たなテクノロジーの活用も遅れるかもしれない。

「移行できるかどうかの瀬戸際なので、取りあえず無事に移行できればよい」「将来の前向きな展望までは頭が回らない」という企業もあるだろう。しかしSAPの最新ERPである「S/4HANA」に移行するということは、従来のERPと同様のものを継続して使い続けられるようにする、ということではない。最新のテクノロジーを備えたソフトを利用するということであるのと同時に、企業には相応の負荷がかかることになる。

「アドオン」が
移行の足かせに

SAP ERP 6.0からS/4HANAへの移行は多くの日本企業にとって困難が伴う作業だ。仮に不足するSAP技術者をなんとか集めることができたとしても、移行作業自体のハードルが高い。

ERPパッケージは、業界ごとに多くの企業に共通する業務内容を「ベストプラクティス」として設定し、それを実行するための機能を備えている。

しかし、多くの日本企業は過去にERPを導入した際、自社の業務をベストプラクティスに合わせることをしなかった。自社の業務プロセスを維持できるよう、ERPに独自のプログラムである「アドオン」を追加したのだ。

SAPは、S/4HANAを利用するユーザーに対し、アドオンを極力利用せずに、標準機能の状態を維持することを強く推奨している。標準の状態で利用すればソフトウエアのアップデートが容易であり、AIエージェントをはじめとした最新機能を活用できるためだ。

S/4HANAへの移行に際し、これまで利用してきたアドオンを無くすということは、業務プロセス自体を見直さなくてはならないということだ。

複雑化した業務プロセスの見直しは、日本企業にとって長年の課題だ。これはERPが流行する前から指摘されており、ERPの導入を機に解消することを期待されたものの、多くの企業が業務プロセスにメスを入れず、アドオンを追加してきた。

この業務プロセスの見直しを、ERPのサポート切れが迫る中で実施するのは、相当の覚悟が必要になる。SAPは業務プロセス見直しをサポートするためのツールなども提供しているが、それらをうまく活用したとしても、簡単には進まないだろう。

移行は可能性を
広げる機会になる

見方を変えると、この機に業務プロセスの標準化ができるなら、S/4HANAへの移行はスムーズに進むし、最新テクノロジーも活用できるようになる。

さらに別の可能性も開ける。他のERPパッケージへの移行だ。ベンダーロックインの心配がなくなることや、不足するSAP技術者に頼らずに移行できることはメリットだろう。システム選定に時間がかかることや、運用ノウハウを0から築いていく必要があるなどのデメリットはあるものの、いろいろな可能性を検討できることは価値がある。

S/4HANAへの移行や業務プロセス見直しの大変さについて触れてきたが、いかにその作業が困難であるとしても、サポート終了の期限は迫っている。どのような選択をした場合でも、業務プロセスの見直しや、その前段階に当たる見える化が必要なのであれば、早く取り組んだ方がよいことは明らかだ。

早期に移行を終えることができれば、最新テクノロジーの恩恵も早く受けられるようになる。すぐにSAP技術者が確保できないとしても、先行して業務プロセスの見える化や見直しに取り組むことはできるはずだ。いずれにしろ、「現行のSAP ERP 6.0をできるだけ長く使おう」と考えず、移行を前向きに捉える発想が大切だろう。

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