2025年8月26日
新潮流

人材不足と戦う
その1:デジタル人材は「量」だけでなく「質」も重要に
日本企業が抱える課題の解消に動くアジアIT企業の戦略とは

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吉田洋平=フリーライター

日本におけるデジタル人材の不足が深刻化している中で、海外にシステム開発を委託するオフショア開発の重要性が増している。日本企業からのオフショア開発のニーズの高まりを受け、日本向けの人材育成に取り組むアジアのIT企業も増えている。海外における、日本向けオフショア人材の育成状況を追った。

日本企業において既にデジタル人材の不足は顕著であり、将来はより深刻化することが確実視されている。「人材の不足」というくらいなので、これまでは主に人数が足りないことによる問題点について言及されることが多かった。だがここに来て、また別の課題を指摘する声が上がり始めた。

最たる例は、経済産業省が2025年5月に公表した、デジタル人材に関する新たな育成方針だ。経産省は従来からデジタル人材が大幅に不足するという「量」についての問題を指摘してきた。新たな報告書では、「質」の問題も顕在化したとしている。

例えば、4割以上の企業が「技術革新により必要となるスキル」と、「現在の従業員のスキル」の間のギャップを認識しているという。加えて、半数近くのエンジニアは「技術やスキルの陳腐化に不安を抱えている」とした。

スキルのギャップや陳腐化が起こった原因について経産省は、「生成AI(人工知能)によって技術革新のスピードが加速したため」と分析している。つまり、デジタル人材のニーズが多様化し、「広くデジタル技術を学んだ人材」を増やすだけではニーズに応えられなくなったと言える。「特定のデジタル技術に強い」ことが求められるようになっているわけだ。

この対応策として経産省は、27年度までにIT(情報技術)スキルを認定する国家試験「情報処理技術者試験」において、「データマネジメント」や「デザインマネジメント」などの区分を新設する方針だ。

データマネジメントは、優れた生成AIを開発する際に必要な学習用データの収集・加工に関連する分野であるため、「質」の問題解消に向けて期待がかかる。

経産省が進めているのは国内人材のリスキリングであり、それがうまくいったとしても、デジタル人材の不足が完全に解消する可能性は低い。そこで必要になるのが、海外の人材をオフショア開発で活用することだ。

オフショア開発は従来から、国内のデジタル人材の「量」の問題や、高騰する人件費への対応策として利用されてきた。ここにきて、「質」の問題を解決するための手段としても注目が高まっている。

従来オフショア開発を手掛ける海外ITベンダーは、日本のベンダーの下請けとしてプログラミングなどの下流工程を担うケースが主だった。だが最近は生成AIをはじめとした先端技術を身に付け、上流工程からサポートできることを売りにするベンダーが増えているのだ。

日本への留学生が
最も多い中国

ここから、日本の有力なオフショア委託先の状況について見ていこう。まずは中国だ。

日本企業はこれまで20年以上にわたり、中国にオフショア開発を委託してきた。中国が最大の委託先である期間が長かったが、最近は地政学リスクの影響が指摘されるようになるなど、状況が変わりつつある。

それでもいまだ多くの企業が中国へのオフショアに依存している。当サイトの調査によると、現在のオフショア開発の委託先の首位が中国で、オフショア開発を利用している企業の36.3%が利用していた。(https://special.nikkeibp.co.jp/atclh/ONB/24/fptjapan_gih/p23/)。

調査では、今後オフショア開発の委託先として検討している国・地域についても聞いた。中国は3位に順位を落としたものの、オフショア開発の意向を持つ人の34.8%が選択した。割合としてはそれほど落ちていないことが分かる。

日本企業のオフショア開発において、長く中国が人気を集めた最大の理由は、日本語能力の高い人材が豊富にいることだ。日本と同じく漢字使用国であることに加え、日本語教育も盛んに行われてきた。

例えば、日本向けオフショアの一大拠点である大連は、24年1月現在、日本語専攻を有する大学が17校ある。

日本への留学生数も24年の時点で中国がトップだ。2位のネパールの、約2倍に当たる留学生数だった。中国からの留学生は年々増え続けている状況だ。

IT、デジタルについてのスキルにおいても、中国は日本企業のニーズを満たし続けてきた。日本語ができる人材の質、量の面から考えても、中国はオフショア委託先として一定の存在感を維持していると言える。

第1外国語として
日本語を教えるベトナム

中国以上に日本向けオフショア人材の育成に熱心なのがベトナムだ。当サイトの調査においては、現在のオフショア開発の委託先、今後委託を予定する国・地域の両方の設問で2位だった。

ベトナムは国を挙げて日本語教育に力を入れている。08年には国策として、日本語教育を小学校から試行する「国家外国語プロジェクト」を始めた。

25年5月には、石破茂首相のベトナム訪問に際し、両国で日本語教育に関する枠組みに合意した。これに基づき、25年から34年まで、全国の小学3年生から高校3年生を対象に日本語教育を導入する方針だ。具体的には、希望者数やニーズなどの状況に応じて、日本語を第1外国語として教えることを検討するという。

ベトナムは人口が約1億人と東南アジア諸国連合(ASEAN)で3番目であり、平均年齢が30代前半と若い。IT人材の育成にも熱心だ。日本に好意的な思いを持つ人が多いといわれる。日本への留学生数も、24年時点で中国、ネパールに次ぐ3位だ。

若年層のIT、デジタル人材が特に不足している日本にとって、ベトナムは非常に頼りになるパートナーと言える。

自ら日本語教育を
実施するベトナム企業も

日本企業からオフショア開発を受託するベトナムのIT企業が、ITやデジタルの教育と並行して日本語教育を行う学校をつくったり、社内で独自に日本語教育を実施したりするケースも多い。

例えば、ベトナム最大手グローバルITサービスプロバイダーのFPTソフトウェアは06年にFPT大学を創設し、日本語とITの両方に強い人材を自ら育てている。

FPTは社員の日本語教育にも熱心だ。社内に語学教育のための「FPTソフトウェア言語教育学院(Language Training Institute:LTI)」という名称の組織を設置している。このLTIが中心となり、日本語をはじめとした外国語教育を進めている。LTIは、日本語教育のために日本人を講師として雇用するなどしている。

同じくベトナムIT企業のリッケイソフト(Rikkeisoft)やVTIも独自の取り組みをしている。

リッケイソフトは23年、専門学校の「リッケイアカデミー」を設立した。ベトナムには日本への留学経験者をはじめ、日本語が得意な人材が既に多くいる。そういった人材に、ITスキルを教え、日本語とITの両方に強い人材を育成するのがリッケイアカデミーの目的だ。リッケイソフトは卒業生を積極採用しているという。

VTIは自社グループ内にIT教育機関「VTI Education」をつくり、日本語とITの教育に力を入れている。京都コンピュータ学院や鹿児島情報ビジネス公務員専門学校といった日本の教育機関と連携し、来日プログラムの提供などもしている。

オフショアを
当たり前の選択肢に

先に紹介した調査では、今後委託を予定する国・地域としてインドを選んだ人が37.2%で、最も多かった。現在インドへの委託をしている人からは、ソフト開発品質を高く評価する声が多くあった。つまり「質」に対するニーズを高いレベルで満たせるのがインドだと言える。

ただし、インドにオフショア開発を委託する場合は中国やベトナムと異なり英語での発注が必要になるケースが多い。契約なども欧米式のきっちりとした形が主流で、日本企業が望む「あうんの呼吸」を求めるのが難しい。

言い換えれば、日本式にとらわれない発注が可能である企業にとってインドは魅力的な委託先になる。実際にインドは、米国企業などにとってのオフショア開発の大きな受け皿になっている。

一方で、日本のITベンダーに依頼するのと近い感覚でオフショア開発を委託したいということであれば、中国やベトナムが主な選択肢になるだろう。自社の状況や外部環境の変化などに応じて、適材適所で委託先を選ぶことが大切だ。

紹介してきたように、ベトナムが目立った形で日本向けのオフショア人材育成に力を入れている。だが今後は、それを上回る勢いで日本のIT人材、デジタル人材の不足感が増していくはずだ。

「オフショア開発は先進的な企業のみが取り組むもの」という意識でいると、近い将来、必要なリソースが国内では確保できなくなってしまう可能性が高い。最近取材をしていて、「常識的な価格で開発を受けてくれる日本のITベンダーが1社もなく、オフショア開発しか選択肢がなかった」という声を聞くことがあった。

手遅れになる前に、自社人材の育成と並行して、オフショア開発の活用を進めていく。そんな、先を読んだアクションが、企業の情報システム部門はもちろん、業務部門にも求められる。これからは、オフショア開発を当たり前の選択肢の一つにしていくことが大切だと言える。

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