2025年9月24日
識者に聞く

自動運転、普及のカギを握る「サイバー攻撃対策」の勘所とは
ティアフォー加藤CEOが指摘する、課題と将来像

  • AI
  • グローバル
  • 自動車

自動車メーカーや自治体が取り組む、自動運転に関する様々な実証実験の様子が盛んに報じられている。東京・品川にあるスタートアップのティアフォーも、自動運転の技術開発に取り組む一社だ。同社は加藤真平CEO(最高経営責任者)が開発したオープンソースソフトウエア(OSS)の自動運転ソフトウエア「Autoware(オートウエア)」など、高度な技術を強みにしたビジネスを展開している。無人の自動運転バスや自動運転タクシーはいつ頃普及する見込みなのか、普及に向けたサイバーセキュリティ面の課題は何か、加藤CEOに聞いた。(聞き手は日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ 大和田尚孝)

——自動運転を支えるソフトウエアの開発に注力する狙いから教えてください。

株式会社ティアフォー 創業者/代表取締役CEO 一般社団法人The Autoware Foundation 創業者/フェロー 東京大学 大学院工学系研究科 特任准教授 加藤 真平 氏
株式会社ティアフォー
創業者/代表取締役CEO
一般社団法人The Autoware Foundation
創業者/フェロー
東京大学 大学院工学系研究科
特任准教授
加藤 真平

当社は現在、自動運転分野の事業に取り組んでいます。それは、我々が開発したソフトウエアのプラットフォームにおける、最初の応用という位置付けです。我々のプラットフォームは、ロボットやAI(人工知能)など様々な場面で共通して利用できます。つまり我々のプラットフォームを適用できる領域は自動運転に限定せず、もっと幅広い分野を含みます。

ソフトウエアだけでなく、ハードウエア関連の事業も展開しています。

当社の技術の基になっているのが、大学と共同で取り組んでいる研究です。私自身、東京大学の大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻の特任准教授を務めています。スタートアップは最先端の研究に関わることが難しいこともありますが、当社は大学が進めている最先端の研究を取り入れていることが強みだと自負しています。

——加藤CEOは名古屋大学大学院で准教授を務めていた際に、オープンソースのオペレーティングシステム(OS)「Autoware」を開発しています。Autowareは「自動運転向け」と紹介されていることが多いようですが、自動運転に限定されない、広義の制御プラットフォームということでしょうか。

はい、自動運転に限らず、先ほどお話ししたロボットやAIなど、当社が手掛けるあらゆる分野で、ハードウエアやソフトウエアを制御するOSとしてAutowareを使っています。

ハードウエアについても、ソフトウエアの性能を最大限発揮し、同時に安全性を検証したり、電力を下げたりできるように、最適な部品をインテグレーションして提供しています。例えばカメラであれば、AIの画像認識に利用しやすいよう、夜でもはっきり画像を映したり、遠くが見えたり、かなり広角で映せたり、といったことが必要になります。それらを実現できるように、半導体やレンズなど最適な部品を組み合わせたカメラを設計・生産しています。

Autowareは自動運転にも応用できるオープンソースのOS

——Autowareは自動運転分野で広く利用されているようですが、どういった点が評価されたのでしょうか。

オープンソースであり、自動運転を実現するための一通りの機能がそろっている点です。Autowareを使えば、自動運転のタクシー、バス、トラック、レーシングカーといった様々なものを制御できます。自分で必要なソフトウエアを開発しようとしたら膨大な予算と時間がかかりますが、Autowareであれば無料ですぐにダウンロードできます。それが広く利用されている理由だと思います。

様々な分野の自動運転車を
既に商用化

——ティアフォーはレベル4の自動運転が可能な自動運転車の生産から販売までを手掛けているということですが、改めてレベル4の定義について教えてください。

自動運転は定義としてレベル1から5があり、レベル4と5が運転手のいない完全な自動運転に区分されています。そしてレベル4は特定の制限下で、レベル5は制限のない状態での完全自動運転とされています。

レベル5の自動運転を実現するためには、「いかなる条件下においても絶対事故を起こさない」ことが必要になります。しかし、例えば隕石が落ちてくるような、予測不可能な事態にまで対応するのは困難です。そのため、現実的な最高レベルの自動運転はレベル4というわけです。当社はレベル4において、完全自動運転できる条件を広げていき、限りなくレベル5に近づけることを目指しています。

レベル4の自動運転は、特定の条件下でシステムが全ての運転タスクを実施することを保証するものです。それを街中の道路で実現するのが自動運転タクシーであり、限られた街中のルートで実現するのが自動運転バスです。高速道路であれば自動運転トラック、工場内の建屋間であれば配送ロボット、レースコースであれば自動運転のレーシングカーです。当社はこうしたレベル4の自動運転で考えられる多くの条件に対応することを目指しています。

特定の条件下でシステムが全ての運転タスクを実施する、とお話ししましたが、先ほど例に挙げた隕石の落下のように、前提として避けられない事態はあります。例えば、人が自動運転車にぶつかろうとして故意に走ってきた場合なども、避けられない事態に当たります。

ロボットタクシー
ロボットバス
ティアフォーが手掛ける自動運転車の例

——それらの自動運転車は既に商用化されているのでしょうか。

はい、先ほど例に挙げた多くを商用化しています。2024年時点で、自動運転に取り組んでいる自治体の多くが、当社の技術を搭載した自動運転車を導入しています。

実際に通勤・通学のバスなどで使っていただいている例も既にあります。ただし人の命に関わるものなので、運転席に人が乗車し、普段は運転しないけれども万が一に備えているケースが多いです。運転席に人を乗せない、完全自動運転の実証をしている地域もあります。

——ティアフォーで完成車を作り、自治体に納品しているということなのでしょうか。

当社が車両まで作っているケースもありますし、大手自動車メーカーの車体に、当社の自動運転システムを載せていただいているケースもあります。

我々が完成車まで作っているのは、開発した車両を「アーリーアダプター」と呼ばれる方々に先行して使っていただき、実績を積み重ねることが目的です。将来的には大手自動車メーカーによる量産につなげていきたい、と考えています。

大手自動車メーカーによる量産は、2028年から2030年ごろに始まると見込んでいます。この辺りの時期に、運転手を乗せない、完全な自動運転が広い地域でスタートすると予測しています。

——それまでに解決が必要な課題はあるのでしょうか。

特定の状況で起こり得る課題に一つずつ対応していくことが必要です。ただし、それらも時間がたてば、(技術の進化やデータの蓄積などによって)自動運転車に搭載されるAIが成長することによって、多くが解決すると考えています。

ChatGPTなどの生成AIは、多くの人が利用することで、どんどん賢くなっています。自動運転車もこれと同様に今後走れば走るほど、搭載されるAIが進化していきます。これによって解消できる課題は多くあるはずです。

AIによる解決が難しい場合は、人が支援するということも考えられます。人がハンドルやアクセルを操作したら自動運転にはならないのですが、例えば同乗している人が「この2車線道路はどちらを走ってもよいが、右の方がスムーズに進めるはずだ」といったアドバイスをすることで、運転がスムーズになるケースは多くあるでしょう。

もう1つ課題としてあるのが、「縮退運転」の頻度を高め過ぎないことです。自動運転車は危険や異常を察知した場合、縮退運転と呼ばれる状態になり、徐行や停車をします。危険や異常を避ける、という点では縮退運転は良いことなのですが、それが余りにも頻繁に起こると、バスやタクシーの乗客は不便を感じるようになってしまいます。危険や異常を察知したとしても、それが深刻なものかどうかを素早く判断し、不必要な縮退運転を減らすことが大切です。

AIならではの誤認識を
防ぐことが必要

——自動運転において、サイバーセキュリティ面での課題はありますか。

株式会社ティアフォー 創業者/代表取締役CEO 一般社団法人The Autoware Foundation 創業者/フェロー 東京大学 大学院工学系研究科 特任准教授 加藤 真平 氏

当社が手掛けている自動運転やAI、ロボットなどはいずれもコンピューターシステムなので、PCやスマートフォンと同じセキュリティリスクを潜在的に持っています。リスクとは、例えばハッキングやDoS(Denial of Service)攻撃などです。PCやスマートフォンはこれらへの対策が進んでいるので、自動運転などについてもそれをしっかりと取り入れることが必要です。

自動運転やロボットなど、AIによる画像認識を活用する技術ならではと言える課題もいくつかあります。例えば赤信号で止まっている車に対し、リアルな青信号の写真を見せると誤って走り出してしまう、といった事態が起こり得ます。信号が設置されている位置などの問題がありますので、実際にこの問題が起きることはないかもしれませんが、これに近い問題は起こり得るのです。

AIの認識方法は人間とは異なり、物事を認識する際に何らかの特徴を重視しています。一例を挙げると、少し画像を細工しただけで、人が見るとどう見ても猫に見える画像をAIが犬と認識する、といったことが起こり得ます。こうしたAIの誤認識を意図的に起こすことを「敵対的事例(Adversarial Examples)」と呼びます。

この敵対的事例が電信柱や標識、道路などに埋め込まれると、自動運転車が搭載するAIが誤認識し、事故を起こしてしまう可能性があります。ほかにも、車載カメラにレーザーで光を差し込ませるなど、AIの誤認識を引き起こす手段は様々にあります。

——AIの誤認識はどうしたら防ぐことができますか。

いろいろな形でAIが攻撃を受けることがあり得るので、攻撃自体を完全になくすことは難しいです。しかし、どのような攻撃をされたかは分からなくても、普段と違うことが起きている、とAIが高い精度で認識することは可能です。ですので、まずは異常を即座に捉え、縮退運転に切り替えられるようにすることが大切です。

人が車の前に故意に飛び出すケースを考えてもらうと分かりやすいのですが、そもそも社会のルールを逸脱した行為に絡む事故を防ぐのは難しいです。飛び出しを防ぐとしたら、街の治安を良くしたり、ガードレールをくまなく付けたり、といったことが必要になります。自動運転車へのサイバーアタックを防ぐこともこれと似ていて、サイバーアタックをしづらい環境を作ることが大切です。

日本でいち早く自動運転が
普及する可能性がある

——日本の多くの自治体で自動運転の実証が進んでいるというお話でしたが、米国や中国と比べると日本はどういう状況なのでしょうか。

私は日本の方が進んでいると思っています。現在、全国の約1700ある自治体のうち、100以上で自動運転車の導入が進んでいます。米国ではまだ数地区での導入にとどまっており、社会的受容性を高める必要もあります。中国も特定の地域ではかなり実証が進んでいますが、それが他の地域には広がっていません。ですから現在は、米アルファベット傘下のウェイモや米テスラなど、自動運転の研究をしている国外の企業が、日本での実証を進めている状況になっています。

日本はそもそも、生活のあらゆる場面で高度なテクノロジーの活用が進んでいます。米国や中国などに比べても進んでいると感じています。自動運転においても、日本で先行して普及する可能性は十分にあると思います。

当社はAutowareを世界中で使っていただいているので、自動運転がどこで普及したとしても、当社のビジネスにはメリットがあります。そのため、現在の状況をフラットな視点で見ることができる立場だと思います。そんな我々から見ても、自動運転が日本で先行して普及する可能性は高いのではないかと感じています。

TOPに戻る