
日本のデジタル人材の不足を補うため、ベトナムのITベンダーと資本業務提携する国内ITベンダーが増えている。ベトナムには若年層の優秀なITエンジニアが多いため、資本業務提携によってそうした人材をいち早く確保する狙いがある。一方で、中国資本の企業も新たな動きを見せている。日本向けにオフショア開発で実績を積み上げてきた企業が日本に拠点を設け、国内に大規模な人材リソースを抱えるようなケースが増えているのだ。人材不足に悩む日本企業にとって救いの一手となり得るのか。新たな戦略を進めるITベンダー各社の動きを追った。
TISは2025年1月、ベトナムの大手ITサービスプロバイダであるNTQ SOLUTIONと資本業務提携し、持分法適用会社化したと発表した。NTQ SOLUTIONは2011年設立でベトナム、日本、韓国、香港、北米、欧州にオフィスを持つ。従業員は1300人以上だという。
FPTジャパンホールディングスとSCSKが合弁会社「COBOL PARK」を設立し、事業を開始した。「COBOL PARK」のCOBOLとは、プログラミング言語のことだ。大型コンピューターの「メインフレーム」の上で動作する、アプリケーションを構築するために使われる。メインフレームを使って構築したシステムは「レガシーシステム」と呼ばれ、COBOLなどの旧式の技術が使われている。レガシーシステムはまだ日本に残っているが、メインフレームやCOBOLを使って新しいシステムを構築することはまれであるため、技術者不足が著しい。
COBOL PARKは、レガシーシステムの技術者に対するニーズの高まりを受けて設立された。COBOLのノウハウを持っているSCSKのシニア人材と、FPTグループでCOBOLを学んだ若手技術者が協力してサービスを提供するという。
SCSKの親会社である住友商事も、ベトナムIT企業との資本業務提携を進めている。同社は、FPTグループが2024年11月に日本で新たに設立した「FPTスマートクラウドジャパン」に20%出資した。FPTスマートクラウドジャパンについては、SBIホールディングスも20%出資している。
FPTスマートクラウドジャパンは、生成AI(人工知能)をはじめとした、最新のAIを活用するためのITインフラを提供する会社だ。現在日本のデータセンターに、米エヌビディア社製のGPU「H200」を1000基以上搭載したサーバー群を置いている。
住友商事は2024年11月に、ベトナムのIT大手であるRikkeisoft(リッケイソフト)との資本業務提携も発表している。住友商事によるベトナムIT企業への出資は、これが最初だった。
リッケイソフトはベトナムのハノイに本社を構えており、資本提携を発表した時点で2200人以上の社員が在籍している。2012年の設立以降、日本企業向けのオフショア開発を中心にビジネスを展開してきた。
国内のIT企業やその親会社が、ベトナムのIT企業と資本業務提携することは、日本企業にとって、オフショア開発の際の選択肢が増えることにつながる。ベトナムIT企業に直接発注するのはハードルが高い、と考える企業にとって、日本のIT企業を介して提携先のベトナムIT企業に発注できることは、メリットが大きいはずだ。
ベトナムITベンダーの動きが目立つ一方で、長く日本企業の主要なオフショア先だった中国企業にも新たな動きが出てきた。従来のオフショア委託とは別の形で、日本企業からの受注拡大を目指す企業が増えているのだ。
米中衝突による「地政学リスク」の影響から、米国IT企業が中国拠点を縮小する動きが続いている。こうした流れの中で、日本企業も、中国以外へのオフショア委託を検討したり、増やしたりする動きが出てきている。
日本企業が中国へのオフショア委託に対して抱いている懸念は、「今後の世界情勢の影響で、オフショア開発が進められなくなる可能性があるのではないか」といったことだ。こうした状況を受けて、中国のITベンダーは新たな戦略を進めている。それは、中国のITベンダーとしての色を弱め、日本国内にITリソースを確保し、日本のIT企業のように受注する、というものだ。
「中国のITベンダーとしての色を弱める」とは、中国本土以外に、日本や他のグローバル拠点の親会社となるグループ会社を設立し、国際的なビジネスルールを重視する企業だとアピールする動きを指す。これにより、中国企業への委託を心配する日本企業からも、受注を増やしたい意向だ。
加えて、日本国内に確保したITリソースを活用し、日本国内でプロジェクトを進めるのであれば、国際情勢の影響を受けにくい。セキュリティ面などから、国外に作業を委託することを嫌う日本企業からも受注しやすくなる。
ハイシンクジャパンは、香港にある信華信技術国際の100%子会社だ。信華信技術国際の親会社は、大連にある中国の大手ITベンダー信華信技術で、元々は大連華信計算機技術という社名だった。2022年4月に社名を信華信技術に変更し、2024年8月に日本などの海外業務を統括する拠点として、香港で信華信技術国際の業務を正式に開始した。
信華信技術国際は現在、香港市場への上場を申請している段階だ。上場により、グローバルでビジネス展開する企業としての姿勢を強める意向だという。
ハイシンクジャパンは、グループ全体で日本国内に1000人超の従業員がいる。同社の関係者は、「日本の業務や商習慣に精通したIT企業として、日本企業からの受注を獲得したい」と話す。
ビヨンドソフトホールディングスは、シンガポールにグローバル本部を持つビヨンドソフトコーポレーションの日本法人だ。1999年から日本でのビジネスを開始し、現在は国内に500人超の従業員を抱える。
ビヨンドソフトコーポレーションも中国発祥だが、グローバルビジネスの中心となる本部をシンガポールに置くことで、グローバル企業であることを強く打ち出している。
NEUSOFT Japanは、中国のITベンダーであるNeusoft Corporation(東軟集団)の日本法人だ。親会社は中国企業のままだが、同社も日本に約1000人の従業員を擁しており、日本でのビジネス拡大を目指している。国外へのオフショアも可能で、中国に3000人、東南アジアに1000人規模の従業員を抱えているという。
FPTグループをはじめ、ベトナムIT企業が日本企業から直接、システム開発を受注するケースが増えている。一方で先に紹介したように、日本のITベンダーにおいても、ベトナムIT企業との資本業務提携などを通じ、人材不足やコストの高騰といった課題に対応する動きが出てきた。
同時に、中国系のIT企業による本格的な日本拠点の強化・拡充も進んでいる。中国系のIT企業の多くは、2000年前後の早い段階から日本進出をしていたが、当初は営業が主な目的で、大規模な開発リソースは持っていなかった。しかし最近は、日本国内に1000人規模の開発リソースを抱え、日本企業が発注しやすい体制を整えることに注力している。
IT人材不足に悩む日本企業にとっては、様々な選択肢が出てきた状況だと言える。自社に合った発注先を見つけるために、こういった動きに目を向ける価値はありそうだ。