2025年11月12日
新潮流

「下流工程委託にとどまらない、日本企業と
新興国との対等なパートナーシップを」
新たなオフショア先として浮上する、ウズベキスタンの魅力とは

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日本企業において、デジタル人材不足が深刻な経営課題となっている。海外に活路を求める企業が増える中、従来の「下流工程だけを切り出すオフショア委託」から脱却し、グローバルスタンダードに近い、「上流からのパートナーシップ」が求められている。そのような状況下で注目され始めている国がある。中央アジアのウズベキスタンだ。経済産業省とアーサー・ディ・リトル・ジャパン(ADLジャパン)、FPTコンサルティングジャパン(FCJ)は共同プロジェクトを立ち上げ、ウズベキスタンと日本とのIT分野における連携の可能性を探っている。ウズベキスタンのポテンシャルや日本企業にとっての魅力について、ADLジャパンの伊吹塁プリンシパルと、FCJの鈴木琢哉ビジネスコンサルティング部グループ長に聞いた。

——日本企業にとってウズベキスタンはどちらかというとなじみがない国だと思います。
なぜ今ウズベキスタンなのか。今回、ウズベキスタンでのプロジェクトにADLジャパンとFCJが合同で取り組むことになった経緯を教えてください。

伊吹:当社は現在、経済産業省と協力し、グローバルサウス諸国と日本との経済協力のあり方や、関係の発展のさせ方について検討するプロジェクトを進めています。当社の担当は、中央アジア及びコーカサス地域にある、旧ソ連から独立した8カ国です。

その8カ国の1つであるウズベキスタンは、世界に2つしかない二重内陸国です。二重内陸国とは、国境を接するすべての国が内陸国である国を指しており、海に出るために2回以上国境を通過する必要があります。物流がしづらく、商業や生産の拠点になりにくいという特徴があります。そのため、現在の天然資源、農業や軽工業中心の産業が、将来的に重工業に移り変わって発展する、というモデルは描きにくいと感じています。

地図
ウズベキスタンの位置

ウズベキスタンも自国の状況や課題についてはっきりと認識していて、ハードよりもソフト産業を強化すべきと考え、特にIT政策に力を入れています。こうした背景から、今回のプロジェクトは、日本とウズベキスタンの経済協力の形として、ウズベキスタンでのIT人材の育成・強化を経て同国へのオフショア開発委託や、それに類する形のIT分野での協力を目指そうという方向性で進めています。

しかし当社は、オフショアや、オフショア先の人材育成に関するノウハウを豊富に有しているわけではありません。頼れるパートナーにご協力いただけないかと考え公募をしたところ、FCJに手を挙げていただいた、という形です。

FPTグループは、ベトナムで日本向けのオフショア事業を立ち上げ、優秀な人材を育成し続けています。ウズベキスタンにおいてもベトナムと同じモデルが良いかは分かりませんが、FPTグループが国のソフトパワー強化に関する優れたノウハウを持っていることは確実なので、いろいろと協力いただけたらと考えています。

——コンサルティング会社同士の協業になりますが、こういったケースは多いのでしょうか。

アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社 プリンシパル 伊吹 塁氏
アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社
プリンシパル
伊吹 塁

伊吹:一般的には多くないというのがこれまでの常識ではないかと思います。ただ、当社は日本に200〜250人程度の戦略ファームで、規模的にすべてを自社でまかなうことは難しい体制です。また、規模の問題だけではなく、異なる得意領域・専門性を持つ企業とのコラボレーションについては、それが大きなビジネスやインパクトにつながるのであれば、積極的に進めるべきと考えています。グローバルでも、「オープンコンサルティング」という呼称で、こういった協業を推奨しています。

鈴木:当社としても、SIコンサルと組むことはよくありますが、ビジネスコンサル同士の協力はまれです。ただし、必要であれば積極的に協力すべきという考え方です。

——FCJはどのような役割を担っているのでしょうか。

伊吹:今回お願いしたのは、大枠となるマスタープランを策定していただくことです。あくまでプランなので、実際に今後ウズベキスタンで人材育成をしたり、オフショアのモデルを立ち上げたりといったことは対象に入っていません。マスタープランを作っていただいた後に、継続して協力していただく可能性はあります。

ウズベキスタンの成長は
FPTにもメリットがある

——ウズベキスタンのIT産業や人材育成にFCJが協力する意図についても教えてください。

鈴木:まず前提として、FPTグループは「グローバルベストショア」という方針を掲げて事業を進めています。クライアントの価値創出に資するのであれば、ベトナムにこだわらず、ベストな拠点から人材を提供するという考え方です。

日本企業ではまだまだ道半ばですが、米国であれば、コスタリカやコロンビアといった同じタイムゾーンの地域からのニアショアと、インドなどタイムゾーンが異なる離れた地域からのオフショアを組み合わせています。このようなグローバルベストショアを充実させるための拠点の拡大も続けており、2023年はメキシコに進出し、2024年3月には中国・大連に拠点を設けました。

長期的な視点に立てば、若くて優れたIT人材を輩出できる可能性が高いウズベキスタンと、早い段階から関わることはメリットがあると考えています。また、今ふれたとおり、日本においてグローバルベストショアは道半ばですが、RIETI(独立行政法人経済産業研究所)などによると海外人材の活用度と日本企業の付加価値には一定の相関があるとされています。今回の取組みは、日本の人材不足対策だけでなく、日本企業の付加価値向上、さらには日本経済全体の競争力強化にもつながると捉えています。

——ウズベキスタンのIT産業や、日本とのオフショアビジネスの成長の可能性についてどう見ていますか。

鈴木:大いに可能性があると思います。二重内陸国という制約があるからこそ、IT産業への本気度は非常に高いと感じます。

これまでベトナムのように比較的短期間で大きくIT産業が成長した国には「ITで稼ぐしかないんだ」という強い意志がありました。私はこれが最大の成功要因であり、ウズベキスタンにも共通点があると考えています。

さらに現地の方々と接して、サービス精神や行間を読むホスピタリティーの高さも強く感じました。これは日本企業向けオフショアビジネスにおける大きな強みとなるでしょう。

ウズベキスタンは、シルクロードの交差点に位置し、多様な民族や文化と関わってきた歴史があり、そうした背景が多言語習得力や高いコミュニケーション能力に繋がっていると思います。人口は約3,600万人で、その約60%が30歳未満と、若年層が多く、親日の人が多いなど、ベトナムと似ている点もあります。

ウズベキスタン人は
IT企画も担える貴重な人材

伊吹:ウズベキスタンの人材が持つ高い言語習得能力やコミュニケーション能力は、日本とビジネスするうえで武器になると感じています。現状で日本語を話せる人材が多いわけではありませんが、真剣に学んでもらえば必ず習得できるはずです。

私は、ウズベキスタンがオフショアビジネスをする場合に、「コストが最も低い国」を狙うのは良くないと考えています。一部そうなってしまうのは仕方ないかもしれませんが、さらにコストが低い国が後から出てくることを考えると、永続的なビジネスモデルだとは言えません。日本との経済協力の形としても良いとは言えない。大資本から搾取される人を増やすだけになってしまっては良くないと思うのです。

ですから、下流工程を担当する従来型のオフショアとは違う形を目指せないかと考えています。日本企業は、日本語で円滑にコミュニケーションできるIT人材を確保したいという思いがあります。さらにこれからは、下流工程だけでなく、IT戦略を構想したりアーキテクチャーを考えたりしてIT企画を担う人材も足りなくなります。日本語で円滑にコミュニケーションでき、IT企画を担うことができる可能性が、ウズベキスタンの人材にはあるのではないかと考えているのです。ウズベキスタンの方からしても、日本企業に雇われ、上流工程を担当できる人材に育ててもらえるのであれば、メリットを感じるはずです。

2030年の人材不足規模:約59万人(中位シナリオ)⇒IT人材不足は、今後ますます深刻化
今後のIT人材の不足規模
*経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」を基に作成

ビジネスの形としても、従来のオフショアとは違う形があり得るのではないかと思います。例えば、日本企業のIT企画部門がウズベキスタンに拠点を作り、現地で直接雇用するのはどうか、と考えています。IT企画機能を持つことができない日本の中小企業が数社で共同出資して、ウズベキスタンにIT企画会社を作っても良いと思います。

FPTコンサルティングジャパン株式会社 ビジネスコンサルティング部 グループ長 鈴木 琢哉氏
FPTコンサルティングジャパン株式会社
ビジネスコンサルティング部
グループ長
鈴木 琢哉

鈴木:日本はIT企画人材やAI(人工知能)などの専門人材も不足しており、成長を停滞させる一因となっています。ウズベキスタンは認知や信頼の面でまだ途上にあるため、まずはPoC(概念実証)として下流開発案件から着実に実績を積み、段階的に規模拡大や企画、AI分野へと役割を拡げていくことが望ましいと考えています。

実際、ウズベキスタン人材を巡っては、米国や欧州、中国、韓国などによる獲得競争が既に始まっています。日本はこういったところでも国際競争で差をつけられており、焦燥感を覚えますが、ウズベキスタン人の語学力や相手の思考を推し量る資質は、日本との親和性が高いと見ています。

日本では、海外のIT開発チームの橋渡しをするエンジニアをブリッジSEと呼びます。日本は、言語への苦手意識や「言わなくても分かってよ」というハイコンテキスト文化を持つ方々が多いため、日本語を使えて、依頼内容を分かりやすく他の技術者に伝えられる人材は重宝されます。多くのPM(プロジェクトマネージャー)がブリッジSEに頼り切ってしまうこと自体に問題があるのですが、これによってブリッジSEはPM補佐的な役割も担うため、将来PMを目指す海外IT人材の1キャリアになり得るのではと考えています。

上流工程のスキルを身に付け、日本語でコミュニケーションすることは大変だと思いますが、私はウズベキスタンの人材にはそのハードルを超える力があると感じています。将来的には、安価な人材市場としてではなく、日本企業から求められる高度な役割も担えるのではと期待しています。

発注側の日本にも
意識改革が必要

——ウズベキスタンの人材に対する期待を語っていただきましたが、発注する側の日本企業に必要なことはありますか。

鈴木:日本企業側は、開発チームへの関わり方を進化させる必要があります。曖昧性を残した仕事の渡し方では、生産性は上がりません。地政学リスクや人材供給の変化で委託先が多様化するなか、発注側の成熟が求められます。

——FPTグループにオフショア開発を委託している日本企業の方にお話を聞くと、ブリッジSEの方のコミュニケーション能力を高く評価していることが多いと感じます。そこはFPTグループ独自の強みなのではないでしょうか。

鈴木:確かにFPTのブリッジSEは顧客の課題を的確に把握し、寄り添う力が高いとご評価いただいています。ただし、それだけに頼り切るのはリスクです。発注側が必要な要件をきちんとまとめて伝えなければ、齟齬は避けられません。

伊吹:ベトナムIT企業の競争力のベースとして、ブリッジSEが日本企業から要件を引き出す力があることは確かだと思います。しかし今後、グローバルでさらにIT人材が不足すると、ベトナム側としても「日本にそこまでは手が回せない」といったことになる可能性があります。

そういった状況を考えると、発注側は要件をまとめる、言語化するといったことをできた方が良いに決まっています。少なくとも、受注側が「発注者が何を欲しがっているか分かる」と思えるレベルまでは言語化できるようになるべきです。じきに、「あうんの呼吸」で分かってもらうことを期待するのが難しい時代が来るはずです。

鈴木:要件を明確に伝えるのは発注側の責務です。「察してほしい」という姿勢を改めるべきです。

伊吹:私もそう思います。少なくとも、発注側が「おもてなし」を求めるのは良くないですよね。あくまで、受注側が善意としてやることであって、発注側がそれに甘えるべきではないです。それでは日本企業にシステム開発に必要な能力が何も残らなくなってしまいます。何か問題が起きた時に、自分で原因を切り分けることもできなくなってしまう。

発注側と受注側が対等な目線に立つパートナーになることが、日本企業のシステム開発力の向上や、オフショア開発の効果的な活用につながると考えています。

鈴木:今後拡大が見込まれる、ウズベキスタンへのオフショア委託やIT分野におけるパートナーシップにおいても、大きな成果を生むためにはウズベキスタンを対等のパートナーと見てビジネスすることが欠かせません。発注側と受注側の双方が、より良い形を目指して努力していく流れになってほしいと期待しています。

左より伊吹 塁氏、鈴木 琢哉氏

お問い合わせ

FPTコンサルティングジャパン
https://fptsoftware.jp/contact

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