2025年11月6日
新潮流

日本向けオフショアを拡大するベトナム
現地IT大手が運営する「教育機関」、エリート育成のカラクリに迫る

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ベトナムは、日本企業からのオフショア開発の受注を急速に増やしている。ベトナム政府が進めてきた日本語教育やIT・デジタル教育が実を結んできたことに加え、個々のIT企業も独自の教育機関を作るなどして人材を育ててきた成果だと言える。ベトナム企業は教育機関においてどのような取り組みをしているのか。現地取材などによって、エリート育成に向けたカラクリに迫る。(日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ 大和田尚孝)

日本において、IT・デジタル人材の不足が深刻化している。その課題を解決するため、国外にオフショア開発を委託する日本企業が増えている。

オフショア委託先として特に注目されているのがベトナムだ。ベトナムは人口が約1億人とASEANで3番目であり、平均年齢が30代前半と若い。IT企業の社会的なステータスが高く、ITエンジニアを目指す若者が多いのも特徴だ。

国を挙げて日本語教育にも力を入れている。2008年には国策として、日本語教育を小学校から始める「国家外国語プロジェクト」を始めた。2025年からは一部の学校において、小学3年生から高校3年生を対象に、希望に応じて日本語を第1外国語として試験的に教える取り組みもスタートした。

つまりベトナムは今、日本語が話せる若年層の優秀なITエンジニアを多く生み出しているのだ。

ベトナム人は勤勉で真面目な国民性が、日本人と似ているといわれることが多い。例えば、ベトナム人は日本人と同様に、相手の考えを「察する」ことができるとよくいわれる。こうしたことも、日本企業がオフショア委託をする上でプラスに働いている。

日本企業が日本のIT企業にシステム開発を発注する場合、コミュニケーションは当然日本語であり、契約ではっきりとは決まっていない事柄についても「あうんの呼吸」でプロジェクトが進むケースが多い。

ベトナムIT企業には日本語ができる人材が豊富におり、日本人と近い感覚も共有できる。そのため、ベトナムへのオフショア委託は、日本のIT企業に発注する場合と近い感覚で活用できるとして、人気を集めているのだ。

独自の教育システムを築く
FPT大学

ベトナムが日本向けオフショア開発で強さを発揮している理由はこれだけではない。オフショア開発を受託しているベトナムのIT企業が、自ら教育機関を作るなどしてIT・デジタル教育や日本語教育に取り組んでいるのだ。

例えば、ベトナムICTのリーディングカンパニーであるFPTコーポレーションは2006年にFPT大学を設立し、IT・デジタル人材を育成してきた。FPT大学はテクノロジー企業によって設立されたベトナム初の私立大学だという。

FPT大学 理事会会長 レ・チュオン・トゥン氏
FPT大学
理事会会長
レ・チュオン・トゥン

FPT大学の設立者の一人で、現在はFPT大学理事会会長であるレ・チュオン・トゥン氏は「FPT大学設立以前は、ベトナム全体の情報系の学生を集めても、FPTが求める人数に満たなかった」と振り返る。「国としても高い能力を持つ人材を育てることが必要になっていたので、FPT大学を作ることを決めた」(トゥン氏)。

FPT大学は現在、ハノイ、ダナン、ザライ、ホーチミン、カントーの5都市にキャンパスを持っている。在籍する学生は合計5万人。学部はテクノロジー、マネジメント、言語の3つだ。

6割の学生が在籍するテクノロジー学部は、情報技術を中心に、それに関連する半導体やAI(人工知能)、自動車などの学科がある。テクノロジー学部の学生は第2外国語として、日本語が必修となっている。

言語学部は、日本語、韓国語、英語などの学科があり、日本語学科の学生は1000人程度だ。卒業後にFPTに就職する場合は、ブリッジSEや通訳など、日本語でのコミュニケーションに特化した役割になるケースが多いという。学校の先生になったり、歴史や文化の研究者になったりするケースもある。

FPT大学で何らかの形で日本語を学んでいる学生の数は、テクノロジー学部と言語学部の日本語学科の学生の合計で、3万人近い数になる。トゥン氏は「日本語を学ぶ学生の数は、学生数の増加に伴って増え続けている」と話す。

日本語教育の重視以外にも、FPT大学には様々な特徴がある。その1つが1年を3学期に分けていることだ。

ベトナムの一般の大学は日本と同様、2期制であり、それぞれの期に1カ月程度の長期の休みがある。FPT大学は、通常5カ月かける教育プログラムを4カ月で行い、長期の休みも省いている。これにより、通常より短い、3年間で卒業までの単位を全て取得できるようにしている。

ただし、3年で卒業するわけではない。2年生の途中の、6学期目を迎える時点でインターンシップを経験する決まりになっている。ベトナムの大学において、インターンシップは一般的に4年生時に経験する。トゥン氏は「FPT大学の学生には早い段階で社会で働くとはどういうことかをイメージしてもらい、それを学習に生かしてほしいと考えている」と説明する。

「日本とベトナムの架け橋」を
目指す学生

今回、5つあるFPT大学のキャンパスのうち、中部の港湾都市ダナンにあるキャンパスを取材した。ダナンキャンパスは2009年の開設で、現在6000人の学生が在籍している。

FPT大学で学生課に勤めるチュオン・ホン・コン氏は、同大のプログラムについて「グローバルな視点を意識したシラバスを用意している」と強調する。国内外の企業と密接に連携し、企業インターンや、企業講師による特別講義などのプログラムも設けているという。

FPT大学 学生課 チュオン・ホン・コン氏
FPT大学
学生課
チュオン・ホン・コン

コン氏は、学問以外の特徴についても教えてくれた。「ベトナムの格闘技であるボビナムや、ベトナムの伝統楽器についての必修の授業があり、ベトナム文化への理解を深めることにも力を入れている」(コン氏)

様々な奨学金制度も設けているという。国家試験で3位以内の成績を獲得した人向けの「グローバルエキスパート奨学金」、優秀な高校生向けで各校1人を対象とした「スクール奨学金」の他、芸術関連の奨学金や、女性STEM(Science, Technology, Engineering and Mathematics)奨学金などもある。

FPT大学の学生にも話を聞くことができた。言語学部で日本語を専攻し、情報技術を勉強している3年生のファン・ホー・トゥエ・ミンさんと、チュオン・ホアン・バックさんだ。FPT大学の実践的な教育内容に惹かれ、入学を決めた。

ファン・ホー・トゥエ・ミンさん
ファン・ホー・トゥエ・ミン さん

2人は共に、漫画やアニメをきっかけに日本に興味を持ったという。ミンさんが一番好きなのはドラえもん、バックさんは名探偵コナンだ。

ミンさんはブリッジSEになり、「日本とベトナムの架け橋になりたい」と話す。FPT大学の卒業後は、FPTグループの日本法人であるFPTジャパンホールディングスへ入社したいそうだ。

2025年の6月に日本でのインターンを経験した。ミンさんは「超高齢社会の中で、若い外国人が活躍するチャンスがあると感じた」と話す。


チュオン・ホアン・バックさん
チュオン・ホアン・バック さん

バックさんも2024年12月から5カ月間、福島でインターンを経験した。日本人の人柄の良さに好印象を持ったという。

バックさんはプログラマーとして活躍するのが夢で、将来の起業も見据えている。「ITサービスの提供を通じて、ベトナム人の暮らしを豊かにしたい。日本語とITを使った仕事をしたいという思いもある」(バックさん)

このように、FPT大学の学生は入学時点からITエンジニアを志し、大学で実践的な教育を受ける。そうして卒業後は、すぐに現場で活躍できる人材として社会に送り出されるわけだ。

将来を見据えた関係構築を

FPT以外にも、リッケイソフトが専門学校のリッケイアカデミー(Rikkei Academy)を運営しているなど、ベトナムITベンダーが独自の教育機関を作っているケースはある。自社の社員の日本語教育を目的とした社内組織を作っている例は、さらに多い。

ベトナムへのオフショア開発を利用した企業に話を聞くと、「大きな問題がなくプロジェクトを進められた」「日本語でのコミュニケーションがスムーズにできた」といった感想をよく聞く。ベトナムの学校やIT企業による人材教育がうまくいっている証左だろう。

以前であれば、日本企業がオフショア開発を利用する主な目的は、コストの削減だった。現在でもコストが下げられることは事実だが、国内のIT・デジタル人材が不足する中で、システム開発を依頼できるということ自体が大きな価値になっている。今後コストメリットがなくなってきたとしても、人材リソースが豊富なベトナムにオフショア開発を委託したい、という日本企業は多くあるはずだ。

ベトナムは今、日本向けのオフショアビジネスの拡大に取り組んでいる。これは日本とのビジネスにメリットを感じているためだ。将来的に世界中でIT・デジタル人材の不足が予測される。今後は世界規模で人材の獲得競争が起きる可能性がある。ベトナムの若い人材は需要がとても高いはずだ。

そうした状況においても優秀な人材を日本向けビジネスにアサインしてもらうには、今のうちから持続可能な関係を築いておくことが欠かせないだろう。持続可能な関係とは、互いにメリットがあり、互いに成長できる関係とも言える。自らの利益だけを求めるのでなく、ベトナムサイドから「日本企業と仕事を続けたい」と思ってもらうようにしたい。

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