
海外のIT企業にシステム開発や保守・運用を委託する「オフショア開発」への注目が年々高まっている。人口減少や少子高齢化により、日本のIT技術者が不足しているからだ。一方で世界情勢は不安定であり、オフショア開発へ何らかの影響を及ぼすことも考えられる。果たして今、日本のオフショア開発の現状はどうなっているのか。日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボはオフショア開発の利用実態と今後の計画を浮き彫りにする目的で、昨年に続き2回目となる「オフショア開発に関する調査」を実施した。
調査は2025年10月、20〜69歳のビジネスパーソンを対象に実施した(詳細は文末の概要参照)。オフショア開発を利用している人(委託経験がある人を含む)に、対象となるシステムの種類及び技術分野について複数回答可の形で聞いた。首位は「Webシステム」(34.1%)、2位は「COBOLアプリケーションの保守」(24.1%)、3位は「データ分析・収集基盤」(23.3%)だった。
首位の「Webシステム」は昨年と同じ順位で、ポイントも0.2増と大きな変化はなかった。注目すべきは2位の「COBOLアプリケーションの保守」と、3位の「データ分析・収集基盤」だ。「COBOLアプリケーションの保守」は昨年5位から順位を3つ、ポイントを 4.9増やした。「データ分析・収集基盤」は昨年の4位から順位を1つ上げ、ポイントも3.6増やしている。

「COBOLアプリケーションの保守」と「データ分析・収集基盤」はいずれも、「2025年の崖」問題と関連があるシステム・技術分野だ。
2025年の崖は、2018年に経済産業省が提唱した。2025年ごろに老朽化した企業システムが増え、運用や更新を担うエンジニアの不足感が強まる。さらに、老朽化したシステムの改修に時間がかかることや、必要なエンジニアを確保できないことなどにより、本来必要な企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が進まず、大きな経済損失が生じる可能性がある。これが2025年の崖の概要である。
「COBOLアプリケーションの保守」の「COBOL」は、プログラミング言語だ。日本では1960年代から使われている大型コンピューター「メインフレーム」の上で動くアプリケーションを開発するために用いる。メインフレームと、その上で動作するCOBOLアプリケーションを指し、「レガシーシステム」と呼ぶケースが多い。
レガシーシステムを扱うことができる技術者は、今後特に不足すると予測されている。今回の調査で、技術者の不足を国外のリソースで補おうとする動きが、より顕著になっていることが判明した。
4位に入った「クラウド(基盤、アプリ)関連」のクラウド基盤については、レガシーシステムからの移行先として選ばれることが多い。「クラウド(基盤、アプリ)関連」は昨年から3.6ポイント増やし、順位も2つ上げた。レガシーシステムの保守だけでなく、レガシーシステムからクラウドへ移行する場合に関しても、オフショア開発に頼るケースが増えていると考えられる。
企業が老朽化したレガシーシステムの改修やシステム移行に成功した場合、次に取り組むのがDX推進だ。レガシーシステムを改修して保守性を高めたり、最新のシステムに入れ替えたりすると、新しいアプリケーションが素早く構築できるようになるためだ。こうした体制が整うと、デジタルテクノロジーを使った社内業務改善や顧客向けの新しいデジタルサービスといったDXに取り組みやすくなる。
DXを推進するうえで、「データ分析・収集基盤」が必要になる。顧客向けのサービスや社内の業務をデジタル化すると、多くのデータが得られるようになる。そのデータを「データ分析・収集基盤」にため、分析することで、さらなるサービスの改善や、業務効率の向上につなげることができる。
5位に入った「AI関連」もDX推進で活用する技術だ。昨年から4.4ポイント増やし、順位も3つ上げた。AIは業務の効率化や新規事業の創出などで幅広く活用が期待されている技術だ。システム開発の領域でも、自動化の促進などの観点から、2025年の崖対策などの期待を集めている。
今年は、2025年の崖の当年である。今回の調査結果から、オフショア開発が2025年の崖を解決するための1つの有効な手段として選ばれていることが改めて分かった。
今後の発注を検討しているシステムの種類や技術分野についても尋ねた。首位は「AI(人工知能)関連」で34.3%、2位は「Webシステム」で29.5%、3位は「データ分析・収集基盤」で27.1%だった。
「AI(人工知能)関連」は昨年の同率2位から1つ順位を上げ、ポイントも9.7伸ばした。「データ分析・収集基盤」は昨年の同率2位から順位を1つ落としたものの、ポイントは2.5増えた。「Webシステム」は昨年の首位から2位に落ち、ポイントも4.3減だった。

生成AIやAIエージェントといったテクノロジーが登場したことで、企業のAI活用はさらに加速している。「AI活用こそが、企業のデジタル活用やDXの中心だ」と言えるような状況にきた。今回の調査で、最新テクノロジーの本命と言えるAIについても、オフショア開発に頼りたいと考えている人が多いことが分かった。
「データ分析・収集基盤」がポイントを伸ばしたことについても、AIと関連がある可能性が高い。AIを有効に活用するためには大量のデータが必要だ。AIにデータを学習させることで、AIをより優秀に成長させることができる。AIが将来を予測したり、不正を検知したりする際にもデータが必要になる。
以前はオフショア開発について「比較的簡単に開発できるシステムを、安く作ってもらうもの」と認識している人が多かった。しかし現在、この状況は完全に変わったと言える。調査結果からは、複雑化したレガシーシステムの改修や、最新テクノロジーの活用において、オフショア開発が選ばれていることが分かる。
オフショア開発は、分野を限定せずに活用できるものに進化した——。今回の調査結果からはこうした実態が浮き彫りになった。
調査結果とはややそれるが、AIについては「人間の雇用が失われる」と指摘されることがある。だがシステム開発や保守の領域においては、現時点では全ての業務をAIによって完全に自動化できるわけではない。AIについては「雇用を奪う危険なツール」と認識するよりは、「業務を効率化するための便利なツール」と位置付ける方が実態に即している。
このように考えると、オフショア開発の担い手が受託業務にAIを活用することは、発注者にとって歓迎すべき動きと言える。発注業務の効率が高まり、コストパフォーマンスやスピードの向上といったメリットを期待できるからだ。オフショア開発を請け負うIT企業にとっては、AI活用の巧拙が企業の競争力に直結する時代を迎えていると言えそうだ。
AIの技術開発や応用と実装、テスト、プロジェクトマネジメント、リリース管理など、人手を要する業務はたくさんある。AIが浸透したからといってデジタル要員が不要になるわけではなく、むしろAI導入のニーズが増えるほど、AI関連の技術を持つエンジニアの需要は伸びていくだろう。
日経BPのICT(情報通信技術)領域のシンクタンクである総合研究所 イノベーションICTラボは、日本国内におけるオフショア開発の利用実態と今後の計画などを明らかにするために、2回目となる「オフショア開発に関する調査」を実施した。インターネット調査会社マクロミルのモニター会員のうち、20〜69歳のビジネスパーソンを対象とし、Web調査の方法で回答を得た。調査期間は2025年10月10〜15日、有効回答数は284件。