2026年1月13日
経営とDX

AI時代における人間の価値と企業の役割とは
SBI北尾会長兼社長×ベトナムFPTビン会長、グローバル経営者対談

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ベトナムのICTリーディングカンパニーであるFPTコーポレーションのチュオン・ザー・ビン会長と、SBIホールディングスの北尾吉孝代表取締役会長兼社長は、20年近く親交を深めてきた間柄で、互いを「ブラザー」と呼び合う。FPTグループとSBIグループが協業した取り組みも多くあり、最近では2024年11月に設立したFPTスマートクラウドジャパンに、SBIホールディングスが20%出資している。

2022年に生成AI(人工知能)が登場して以降、社会のあらゆるところでAI活用が急激に進んでいる。この状況を、テクノロジーに精通し、グローバル企業を率いる2人はどう見ているのか。特別対談を組んだ。(聞き手は日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ 大和田尚孝)

——AIをはじめとしたデジタルテクノロジーは世の中をどのように変えていくと見ていますか。

北尾:ロシアの経済学者コンドラチェフが提唱した、景気循環が50〜60年ごとに起きるという説が「コンドラチェフの波」として知られています。この景気循環のタイミングに合わせて、これまでテクノロジーは大きく進歩してきました。今はその景気循環のタイミングに差し掛かっています。

過去にはこの景気循環のタイミングで、蒸気や電力といったテクノロジーへの切り替えが起こり、産業革命のように「革命」と呼ばれてきました。今回は、「デジタル情報革命」と「デジタルスペース革命」が同時に起こっていると捉えています。

過去の革命は動力に関するものでしたが、今回は人間の脳に関わるものです。これまでよりはるかに大きな革命と言えますし、悪い影響が出ることがあり得る「もろ刃の剣」であるとも考えています。

——デジタルスペースとは。

北尾:私は「デジタルスペース生態系」という言葉を提唱しています。簡単に言うと、リアルとデジタルが融合した経済圏を指します。

SBIホールディングス株式会社 代表取締役 会長 兼 社長 北尾 吉孝氏
SBIホールディングス株式会社
代表取締役 会長 兼 社長

北尾 吉孝

リアルとデジタルの融合はメタバースをイメージしてもらえれば分かりやすいと思います。メタバース上で暗号資産などのトークンを使った経済行為が活発に行われるようになると、それが「デジタルスペース生態系」とも呼ぶべき経済圏に発展する、と私は考えています。2025年8月に上梓した『金融とメディア、ITが融合する日』という著書に詳しく書いたので、ご興味がある方は読んでいただければと思います。

過去の革命は、生産性向上や経済民主化などにより、人間を助けてきました。しかし今回の革命は、必ずしもそうならない可能性があります。AIの父と呼ばれる、カナダのトロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授をはじめ、たくさんの識者が警鐘を鳴らしているのです。

例えば、AIが新たなAIをどんどん作り、人類を超えるAIを生み出すようなことになるかもしれません。これはシンギュラリティー(技術的特異点)と呼ばれ、以前は2045年頃に起こり得るのではないかといわれていました。ですが、最近の動向からすると、2030年代には起こりそうな状況になってきています。

AIの進化によるデメリットを避けるためには、AIの「制御権」を人間が絶対に手放さず、コントロールすることが大切です。人間が価値判断や課題の設定をしっかりとし、AIの取り組みを常にモニタリングしてガバナンスに生かすことが欠かせないでしょう。

——ビン会長はデジタルテクノロジーによる社会の変化について、どうお考えですか。

ビン:私も北尾さんと同じように考えています。今後、現実世界はメタバースとつながっていくでしょう。メタバースでの生活はライフスタイルの中に組み込まれていきます。

労働力に関する考え方も変わります。生産性は、人の労働とAIエージェントを組み合わせて測るのが当たり前になると思います。

——北尾会長が指摘された、AI活用の課題についてはいかがでしょうか。

FPTコーポレーション 会長 チュオン・ザー・ビン 氏
FPTコーポレーション
会長

チュオン・ザー・ビン

ビン:これも北尾さんと同感です。AIは人間以上に優秀な点があります。しかし、人間がAIの操り人形になってはいけません。しっかり人間が主導権を握って、人間のために価値を生み出せるよう、AIを使う必要があります。

人間の仕事を守り、安全性を守り、価値観を守っていくための取り組みも欠かせないでしょう。

北尾:AIがAIを自律的にプログラミングする状況は避けられないでしょう。しかしそうなった場合でも、AIの設計は必ず人間が担わなくてはならないと考えています。「人間としての尊厳を保つ」ということを大前提として、AIを使った行政や産業、経営の在り方を考えていく必要があります。全ての分野が、AI活用を前提として変わっていかなければならないでしょう。

AI活用によって生まれる格差についても課題だと考えています。日本は今後も、ある程度のクオリティーのAIを使いこなせるでしょうが、それができない国々も出てくるでしょう。地球規模で見たときに、AI活用によって国家間の格差は今以上に広がってしまうかもしれません。同じ国の中でも、年齢などによってAI活用による格差が生まれる可能性はあります。

経営者がやるべきことは
変わらない

——AIを前提とした世界において、企業経営や経営者の役割はどのように変わりますか。

北尾:いつの時代でも経営者としての使命はあまり変わらないと思います。正しい倫理的価値観を持って、世のため、人のためになる事業を考えたり、どういった事業展開をすれば社会の発展につながるかを考えたりすることです。AIの時代になってもこれは同じでしょう。ただし、AIの発展を常に意識することは必要です。

ビン:どうやって美しい生活を守るか、社員を幸せにするか、といったことが最重要であることは変わりませんよね。AIを活用するうえでも、企業経営の効率化や生産性の向上、社員の成長につながるかを考えるのが大切ですので、基本的な姿勢に変化はないと私も思います。

——AIの発展を意識することが必要、ということですが、経営者の中にはテクノロジーやデジタルに詳しくない人も少なくありません。このような状況は変化していくでしょうか。

北尾:そこは間違いなく変わります。AIは大幅に生産性を高めるので、使わないわけにはいきませんから。我々がSBI新生銀行でAIを試験活用した際は、業務効率が30〜50%改善されました。大きな効果が得られることが改めて分かったので、SBIグループ全体で導入しています。

AIエージェントの活用も重要になるはずです。AIエージェントは経営者が設定した目標を最適な手段で達成するために使うものです。AIエージェントは目的によって細分化され、それをうまく組み合わせて活用することが欠かせません。今後は、目標や価値を判断するのは経営者、ワークフローで主体的なアクションをするのがAIエージェント、といった形になるはずです。博士号を持っているDr.ビンは、こういった話を私より深く理解されていると思いますが(笑)。

ビン:むしろ私は北尾さんからいつもいろいろ教えていただいています。私は北尾さんの生徒だと思っています(笑)。特に、トークンを使った経済圏の考え方については、北尾さんのお話や書籍に大きな影響を受けました。北尾さんはインターネットとファイナンスが融合することを早くから見抜いていたように、将来を見極めることができる数少ない経営者です。AIやデジタルスペース生態系の可能性も見抜いていらっしゃいますので、今後も北尾さんからいろいろ学ばせていただきたいと思っています。

AIを活用するうえでほかに意識すべきこととして、電力があります。インテリジェントなAIを作ると、それを使いこなすにはとても大きなエネルギーが必要になるのです。より省エネルギーなAIを作ることが課題になっています。

北尾:AIに必要な電力は、石油による発電では賄えません。個人的には核融合技術しかないと考えています。それほど遠くない将来に核融合技術が確立され、量子コンピューターなどにもその電力が生かされると考えています。

左よりチュオン・ザー・ビン 氏、北尾 吉孝 氏

人類共通の「善」を
見つけなくてはならない

——AIをはじめとしたテクノロジーがどんどん進化していくなかで、グローバルリーダーとしての使命をどのようにお考えですか。

北尾:デジタル化の進展は結果として世界をつなげることになるため、「デジタル化」イコール「グローバル化」だと考えています。グローバル世界の中で、どうやってコモングッド、共通の善を見つけるかが重要になります。それがないと文明同士が衝突してしまいますから。

米国では黒字企業が人員を減らすケースが増えています。AIを使った生産性向上は、日本のように少子高齢化で働き手が足りない国であれば歓迎すべきことですが、国によっては今いる人を「必要ない」と判断し始めているわけです。そういう時代に入っていくなかで、人類の平和や幸せをどう追求していくかは、グローバル経営をしている人間の課題だと思います。

SBIグループとしては、人類の平和と幸せに貢献するためのエコシステム形成、AI活用をしていく必要があると考えています。

ビン:世界の大手テクノロジー企業は1万人以上のリストラをしています。しかし経営者は今後、人員削減よりも社会の利益のためにどうやって人を活躍させて新しい事業を創出するかを考えることが重要になっていくでしょう。

もう1つ、いくつかの大手テクノロジー企業が世界中の人々の情報を独占してしまっているという問題があります。これは北尾さんも先の著書で強く指摘されていました。

情報が少数の企業に集中してしまうと、多くの人が自身についての情報の主導権を握れなくなってしまいます。この課題を解消し、分散型で情報を管理するためにWeb3と呼ばれるテクノロジーが重要になっていくでしょう。

北尾:AIの進化によって、「必ずハッピーになる」と思い過ぎないことが大切ですね。多くの人が職を失ってしまうという予測もありますし、職を失った人をリスキリングするのも簡単ではないでしょう。

AIに限りませんが、一番大事なのはバランスです。AIが期待できるからといって、政府がそこにばかり補助金を投入するとバランスが崩れます。AIによる変化は不可逆で、予測不可能なので、どのようにバランスを保ちながら進化していくかを慎重に見極めることが大切になるでしょう。

ビン:テクノロジーはもちろんですが、社会が発展していくときには必ずグローバルなコラボレーションが必要になります。ですからAIやブロックチェーンについても、グローバルでコラボレーションをするためのエコシステムを作りたいと考えています。

FPTとしては日本のエコシステムに深く関わりたいと考えています。ベトナムと日本には文化的共通点が多く、コラボレーションすることで多くの利益が期待できるためです。

コラボレーションの一例として、日本法人であるFPTジャパンとヤマト運輸の取り組みがあります。両社は2025年11月、特定技能制度を活用したベトナム人の大型トラックドライバーの採用・育成に関する協業に合意しました。今回の合意により、FPTグループがベトナムで長年培ってきた人材育成のノウハウとヤマト運輸の安全教育を融合させ、外国人ドライバーの育成・定着・成長支援の基盤を構築します。これ以外にも、国境を越えた連携によって新たな価値を創出する取り組みを数多く進めたいと考えています。

日本とのコラボレーションを進めるうえでも、北尾さんには今後もいろいろと教えていただきたいと思っています。今度はぜひベトナムにお越しください。

——この対談の続きをベトナムでやりましょう。

北尾:楽しみにしています。

左より大和田尚孝、チュオン・ザー・ビン 氏、北尾 吉孝 氏
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