
ベトナムのICTリーディングカンパニーであるFPTコーポレーションは、新型コロナウイルスの感染によって両親を亡くした「コロナ孤児」のための全寮制施設「Hope School(ホープスクール)」を運営している。2022年2月の開設から約3年半が経過した同施設の取り組みを、現地取材した。(日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ 大和田尚孝)
Hope Schoolはベトナム中部の港湾都市ダナン郊外にある。ダナン市の中心部から車で20分ほどの距離だ。Hope Schoolに在籍するのは小学生から高校生までの300人以上の生徒である。生活費と家賃、学費は高校卒業時までFPTが全額を負担する。
ベトナムにおいて、コロナ禍で1000人以上が孤児になったと見られている。Hope Schoolは2022年2月の開設当初、FPTのグループ会社の社員寮を転用し、34人を迎え入れた状態でスタートした。その後、Hope Schoolの存在が広く認知されたことで、希望者が増加しているという。2026年度の在籍者は400人を超える見込みだ。
名前にSchoolと入っているが、実際は共同生活を営む施設である。宿舎や食堂などを備えており、児童・生徒は近隣の学校に通っている。

Hope Schoolは2025年8月、1000万米ドル(約15億円)を投じて、これまで使っていた施設の近くに新たな施設を建てた。宿舎や教室、体育館、図書館、食堂などを備えている。図書館の面積は従来の10倍に、食堂は6倍に拡大したという。宿舎も、従来の2人部屋から、8人部屋に変更した。
ホアン・クォック・クエン校長は「2022年当時はスピード重視で既存設備を流用したが、現在は生徒数も増えたので、それに見合った施設を造った」と話す。
図書館を見せてもらったところ、日本のコミックを読む子どもたちの姿があった。図書館にある本は寄付が中心で、参考書や図鑑などに加え、日本人から寄付を受けた日本のコミックも置いている。日本のコミックの中では、『ドラえもん』と『名探偵コナン』が特に人気があるということだった。
Hope Schoolに賛同する企業からの支援は受けているが、お金を受け取ることはしていないという。「事務用品メーカーからは学校で使う文具を、食品メーカーからは米や肉などの食料の支援を、といった具合にその企業の事業に関連する物資の支援をお願いしている」(クエン校長)。これ以外にも、子どもの移動を地元の格安航空会社(LCC)が引き受けたり、医大が奨学金プログラムを提供する、といった形で金銭以外の様々な支援を受けているという。




クエン校長はかつて通信会社や製造業の幹部を務めた経歴があるが、FPTがHope Schoolを開設すると知り、力になりたいと自ら名乗り出たという。
校長就任後も、クエン校長のキャリアを評価する様々な企業から声が掛かったが、全て断ってきた。クエン校長は「ビジネスより、校長としての仕事の方が魅力的だ」と話し、「日々挑戦なので時間が足りない。ビジネスの世界よりも大変な仕事だとも感じている」とほほ笑む。

卒業生は累計で50人を超えた。高校卒業後、大学への進学を希望する生徒には学費を継続支給する。「卒業後はFPTの社員にならなければいけない」といった縛りはない。
実際に卒業生の進路は様々で、「米国に留学したり、医者を目指して医大に通っていたり、FPTの事業と関係ない職業に就こうとしている卒業生も多い」(クエン校長)。
クエン校長は「生徒には、周りに愛情を与えられる大人になってほしい」と期待する。そのためには、Hope Schoolの先生や先輩をはじめ、多くの人から愛情を受けることが必要だと説く。
子どもたちにとって、親を亡くした悲しみや寂しさは計り知れず、「学費などの経済的な援助はもちろん重要だが、それだけでは十分とは言えない」(クエン校長)。そのため「日々の暮らしを通じて、子どもたちに愛情を注ぐことを何よりも重視している」(同)という。
生徒の一人ひとりを思って接することで「あなたに関心を持っていますよ、見守っていますよ、という思いが伝わればと考えている」(クエン校長)。施設の先輩に面倒を見てもらったり、外部からの訪問者が来たりすることも、生徒が「自分は大切にされている、愛されている」と感じられる機会になるという。そして生徒がこのような体験を通じて、「将来的には自分が周囲に愛情を与えられる人になってほしい」(同)。
愛情を与えるからといって、甘やかすわけではないという。教育方針として規律と自律を掲げ、集団生活を通じてルールを守る大切さや、他人を尊重すること、自分自身で積極的に行動することの重要さを生徒に学ばせる。
こうした教育方針の背景には、Hope Schoolを創設した、FPTコーポレーションのチュオン・ザー・ビン会長の思想がある。ビン会長は常々、「この世の全ての人には必ず何らかの潜在的な才能があり、自分自身を大切にし、愛することがその才能を見つけ、育てる第一歩になる」と話しているという。
クエン校長は「可能なら、子どもたちを日本へ留学させたい。これは私の夢だ」とも語る。Hope Schoolの生徒は規律や自律についての意識を高く持っているため、「日本に合うと思うし、愛情にあふれる日本社会の良さを吸収できるはずだ」(クエン校長)。
