
2025年12月10日、FPTジャパンホールディングスは「FPT SAP AWS User Executive Seminar 2025」と題したイベントを開催した。FPTジャパンホールディングスは、ベトナムのICTリーディングカンパニーであるFPTコーポレーションの日本法人だ。イベントでは、同社の顧客が利用することが多い独SAPや米Amazon Web Services(AWS)のサービス・技術について、各社のキーパーソンが講演し、最新情報や事例を披露した。
イベントの最初に、FPTジャパンホールディングスのド・ヴァン・カック代表取締役社長が開会の挨拶をした。カック氏は「私たちが今最も注力しているのはAI(人工知能)の力でお客様の課題を解決し、生産性を高め、新しいビジネスの展開を支援することだ」と話し、「そのためにはSAPやAWSといった世界をリードする素晴らしいパートナーとの協力が必要不可欠だ」と続けた。

FPTには現在、AIを専門とする数千人のエンジニアがいるという。2026年には「集中的なトレーニングによって、FPTの全エンジニアの半数をAIエンジニアにする」(カック氏)。具体的には、SAPやAWSが持つ高度なAIソリューションを扱い、顧客のシステムに組み込むことができる人材を育成するという。
次にFPTジャパンホールディングスの前野好太郎執行役員と河村一仁執行役員が、AI分野における取り組みや事例について説明した。前野氏は主にAWS関連の案件を、河村氏はSAP関連の案件を担当しているという。
FPTはベトナム中部の都市クイニョンにAIの専門人材や研究施設、教育機関などを集めている。前野氏は「現時点で1000人のAIエンジニアがクイニョンで研究開発をしており、日本の大手のお客様とのプロジェクトもスタートしている」と説明する。

通常の案件では、顧客の開発メンバーとFPTのエンジニアが連携してプロジェクトを進める。AIを活用する案件ではこれに加えて、「AIのエンジニアをアドオンする形でアサインする」(前野氏)。この形を採ることで、「FPT側でお客様の課題をしっかりと理解した上でAIを活用できるため、PoC(Proof of Concept)で実証したことをスムーズに全社展開できる」(同)。
AWS案件においては、FPTがグローバルで生成AIに関する「AWS コンピテンシープログラム」を取得していることも強みだとした。前野氏は「先日ベトナムから連絡がきた。日本では数社しか取得していないものなので、我々の技術力の高さをご理解いただきやすくなると期待している」と語った。
今後は顧客企業向けのAI教育プログラム提供にも力を入れる考えだ。前野氏は「日本では全社員向けのAI講座と、ビジネスリーダー向けのAI講座を先行してスタートする」と話した。
河村氏は「AI関連のいろいろなテクノロジーが登場しており、どれをどの領域に活用するかを整理することが大切になっている」と指摘した。その上で、AIの効果的な活用領域を3つ挙げた。

1つ目はERP(統合基幹業務システム)を含む基幹システムの領域だ。河村氏は、SAPが展開するAI全体の取り組みである「SAP Business AI」のもと、各SAP製品にAI機能が組み込まれていることや、生成AIアシスタントの「Joule」を紹介した。「販売や受注をはじめ、さまざまな基幹業務をAIによって効率化できる」(河村氏)
2つ目は基幹システムと関わる、周辺プロセスの領域だ。文章や画像、映像などを取り込んで、基幹システムに連携する。データの効率的な取り込みや分析にAIが役立つ。
3つ目はシステムの運用・保守の領域だ。AIによって自動化できる部分を増やし、コストを削減する。
河村氏は「このように領域を分けて、それぞれについて適切なAIを選択し、活用していくことが大切だ」と解説した。
SAPジャパンの大倉裕史代表取締役常務執行役員CFO(最高財務責任者)は、同社の事例においてAIがどう活用されているかを紹介した。大倉氏は「私はCFOという役職なので、特にファイナンスのエリアでどう使われているかをお伝えしたい」と語った。

SAPでは現在、将来の顧客提供を見据え、AIの社内活用をさまざまな場面で進めているという。大倉氏は「現在、SAPグループが年間を通した業績見込みをマーケットに最初に伝える際の数字は、完全にAIが算出した数字を使っている」と明かした。
SAPは2020年からAIによる業績見込みの算出のテストを始めたという。「2021年には、人がエクセルなどを使ってボトムアップで算出した業績見込みの精度を、AIが上回ることが確認できた」(大倉氏)。AIのほうが、45%ほど高い精度で予測できるという。
AIによる業績見込みの算出は、過去の統計データと、CRM(顧客関係管理)に入力した今後受注見込みがある案件のデータを、機械学習でAIに取り込むことによって実現している。大倉氏は「CRMへの入力精度によって大きくAIの計算結果が変わるので、グローバルでデータ入力に関するルールや締め切りなどを定め、徹底して守るようにしている」と説明する。
今後の展開について大倉氏は「現在は社内データのみにアクセスしているので、今後は社外にあるデータも活用してビジネスを変革できるようなAIを作り、外部に提供していきたい」と展望した。
アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)の川又俊一自動車・製造事業本部 インダストリースペシャリスト&ソリューションズ アジア太平洋・日本地域本部長は、米Amazonを例に挙げ、最新のAI活用事例を紹介した。

Amazonの倉庫では、地域ごとにどれくらいの需要があるかを過去のトランザクションやAmazonが持つ情報からAIが予測した上で、サプライヤーへの発注の自動化に取り組んでいるという。「サプライヤーへの発注の多くが自動化によるもので、人はほぼ介在していない」(川又氏)。同社では15年以上前から需要予測を取り入れ、機械学習など様々なテクノロジーを活用して常に改善を繰り返しているという。
生成AIも様々な場面で活用している。一例がコールセンターで、顧客からの電話をリアルタイムで分析し、対応のために必要になる情報を素早くオペレーターに提示する。これにより「オペレーターの負荷を軽減し、経験の浅いオペレーターであっても、一定の品質での対応が可能になる」(川又氏)。
Amazonは顧客向けに、買い物をサポートするAIエージェント「Rufus(ルーファス)」を使ったサービスも提供している。Rufusを利用するメリットについて川又氏は「ユーザーがショッピングに関わる、例えば商品の特性や詳細など、かつてはユーザー自らサイト内で検索していた情報をRufusに質問することで得ることができる」と説明した。
川又氏は、トヨタ自動車がAWS上で取り組んだ事例についても紹介した。「トヨタの先端技術カンパニーにおいて社内データを有効に効率よく活用するためのRAG基盤を構築した」(川又氏)。AIの業務活用が拡大する中、知見のないユーザーでも手軽に使えるベースとなるRAGをスモールスタートで開始し、最初のユースケースでは問い合わせの回答・調査工数を20%以上削減したという。

続いてコニカミノルタ FPTソリューションラボ(KMSL)の武井一代表取締役社長、正木賢治シニアコンサルタント、KMSLベトナムの西岡大起技術担当役員が講演した。KMSLはコニカミノルタとFPTが2024年4月に設立したジョイントベンチャーだ。
KMSLを設立した理由の1つが、エンジニアの枯渇だ。武井氏は「組込み開発の人財確保とナレッジが蓄積できないことが課題だった」と振り返る。2040年以降も見据えて複合機やオフィスソリューションを開発するために、ジョイントベンチャーによって人を確保したいという考えがあったという。
同社ではコニカミノルタで活用するための、クラウドやAIを使った開発に力を入れているところだ。正木氏はクラウドについて「多数のクラウド利用アカウントを使う中で、大きく2つの課題が見えてきた」と話す。

1つはクラウドについての十分な知識がある開発部隊が少ないこと、もう1つがシステムの運用プロセスが標準化されておらずコストがかかってしまっていることだという。
これらの課題を解決するため、KMSLのメンバーがプロジェクトに参加している。「コニカミノルタとITベンダーの間に入り、コニカミノルタの開発部隊に不足しているクラウドの知識を補ったり、運用担当者がベンダーの担当者とうまく連携できるような仕組みを作ったりしている」(正木氏)
西岡氏は、AI活用事例について語った。コニカミノルタは、プリンターや複合機の開発を担当するエンジニアの育成や開発の効率化のためにAIを活用しているという。具体的にはAIを使ってシステムの仕様書やプログラムを解析することで、学習用のテスト問題を作ったり、ソースコードを自動で生成できるようにしたりしている。

その過程で、課題が生じたという。コニカミノルタは「複雑なシステムの仕様書を汎用的なAIを利用して読み込ませると、エラーが出てしまうことがあった」(西岡氏)。
課題解決のために取り組んでいるのが、独自のAIを開発することだ。西岡氏は「設計書やマニュアル、不具合情報など過去の膨大なデータを学習させているところだ」と説明する。
既に複雑な書式の仕様書の学習についてはめどが立っているという。今後は「フォルダ構成やファイル数が多いソースコードの学習をできるようにするための検討を進めていく」(西岡氏)。
FPTソフトウェアジャパンのグエン・テャン・フォン エンタープライズビジネスサービス事業本部本部長は、2026年に開始する「BTP Discovery Workshop」について説明した。

SAP BTP(SAP Business Technology Platform)は、SAPが提供するクラウドベースの開発・拡張プラットフォームだ。S/4HANAやSAP SuccessFactorsといったSAPの業務アプリケーションと連携しながら、データ活用やアプリ開発などができる。
FPTはSAP BTPの日本市場における展開をサポートするため、2025年2月に「FPT BTP Park」プロジェクトを日本市場で展開することを発表している。同プロジェクトに基づき、FPTはSAP BTPに関連する技術者を、2025年中に1000名体制に、2027年までに3000人体制に拡大する計画だ。
フォン氏はBTP Discovery Workshopについて、「SAP ECCから SAP S/4HANAへのマイグレーションを検討している企業が多くあるので、そういった企業向けにSAP BTPをご案内するためのワークショップだ」と語った。
BTP Discovery Workshopは2026年3月2日と3日の2日間、ベトナム・ホーチミンでの開催を予定している。