2026年9月4日
経営とDX

「日本が再び世界の技術リーダーになるための一助に」
より強固になるベトナムとの経済協力、その先に描く未来とは

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日本とベトナムは2023年11月にパートナーシップを「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げするなど、近年は関係を強化する取り組みを続けている。こうした中、ベトナムのICTリーディングカンパニーであるFPTコーポレーションのチュオン・ザー・ビン会長は、日本・ベトナム間の経済交流の促進、およびIT分野を通じた両国の協力関係の発展への貢献が評価され、2026年春に旭日中綬章を受章した。ビン会長はどのような気持ちで日本でのビジネスを展開してきたのか、これまでの両国の歩みをどう評価し、今後をどう展望しているのか。秘める思いに迫った。(聞き手は日経BP総合研究所 大和田尚孝)

——まずは旭日中綬章の受章、おめでとうございます。率直なお気持ちは。

この栄誉は私個人だけのものではなく、長年にわたりベトナムと日本の協力関係の強化と発展に尽力してきた、FPT全社員に贈っていただいたものだととらえています。

日本との協力関係で最も印象に残っているのは、2011年の東日本大震災の際のことです。多くの外国人が日本を離れましたが、当時日本で働いていたFPTの社員は、120人全員が日本にとどまることを選びました。彼らはお客様との納期や品質に関する約束を守るために尽力しました。

この受章は、当社の日本のパートナー企業やお客様への賛辞でもあると考えています。皆様には私たちを信頼していただき、共に歩み、指導していただきました。FPTがベトナム有数のテクノロジー企業へと成長する機会を与えてくださったことに、深く感謝しております。

私個人としては、このような名誉ある章を受章できたことを大変光栄に思うとともに、身が引き締まる思いです。今後もベトナムと日本のパートナーシップと友好関係の発展に貢献していく責任を、改めて強く感じています。

——FPTがグローバル展開を進める中で、日本を重要な海外市場の一つに選んだ理由を改めて教えてください。

2つの大きな機会がありました。最初のきっかけは1994年、ベトナムと日本が、研究開発や教育訓練などを担う科学・産業技術集積拠点「ホアラック・ハイテクパーク」の開発で協力していた時です。日本の経済産業省(METI)の方から、インドのベンガルールを訪問し、同国がどのようにソフトウエア産業を世界市場へ進出させたのかを学ぶよう勧められました。実際にインドの取り組みを見て、大きな影響を受けました。

2つ目は経団連メンバーの方に、FPTを日本市場に紹介いただいたことです。これによって、当社は初めて日本のお客様と契約することができました。当社のエンジニア2人が2週間働く、という小さな契約です。この時に、日本のお客様は欧米とは違う形の契約を望んでおり、日本語での対応を好ましいと思っているということを学びました。

これらの経験から、「エンジニアが日本語や日本文化を理解したうえで高度なエンジニアリングを提供する」という日本における我々のビジネスの方針が定まりました。これが今日の当社の成功へとつながっています。エンジニアリングと日本語を教育するFPT大学を後年設立するきっかけにもなりました。

私たちの成功は、日越両国の深い友情と信頼関係のうえに築かれていると認識しています。両国は包括的戦略的パートナーシップという、ベトナム外交における協力関係を築き、多くの文化的・歴史的共通点も共有しています。

——ベトナムと日本の経済協力をさらに発展させるうえで、企業や経営者にはどのような役割が期待されるでしょうか。

両国は、科学技術とイノベーションの分野で世界をリードする存在になれる可能性があります。AIの時代だからこそ、両国の企業はさらに連携を深め、イノベーションを創出し、両国共通の成長と繁栄に貢献していくべきだと考えています。現在の地政学的な状況を考えても、両国のパートナーシップをより強固にしていくべきです。

実際にそういった動きは始まっています。2026年5月に高市早苗首相がベトナムを訪問した際、両国首脳は科学技術、イノベーション、経済安全保障を重視し、AI(人工知能)、半導体、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)、エネルギー、サイバーセキュリティ、宇宙技術、高度人材育成などの分野で協力を進めることで一致しました。

こうしたビジョンを実現するためには、企業が政府の方針と市場ニーズをつなぐ架け橋となる必要があります。AIや半導体、デジタル変革、新技術研究、技術移転、人材育成、戦略的サプライチェーン構築といった領域における協力を、実際に推進するのは企業だからです。

今後はAIによる
産業構造変革が進む

——両国の関係を発展させるうえで、FPTはどんな役割を果たしていきますか。

当社は技術分野にとどまらず、日本企業の長期的な成長をベトナムおよび世界で支援していきたいと考えています。

例えばヤマト運輸との協業では、単なるITパートナーにとどまらず、日本の大型トラックドライバー不足という課題解決にも取り組んでいます。当社の教育システムとヤマト運輸の安全教育のノウハウを組み合わせ、特定技能制度(自動車運送業分野)を活用したベトナム人大型トラックドライバーの育成・採用プラットフォームを構築しています。

参加者はベトナムで半年間、日本で1年間の育成プログラムを受け、N4・N3レベルの日本語教育や大型自動車運転免許取得などを経て、ヤマト運輸に入社し、特定技能外国人として5年間、日本で勤務する予定です。

この取り組みは日本語教育、職業訓練、日本基準の運転免許取得支援、物流業界向け人材パイプラインの構築といったことまで含めて、FPTがお客様の事業成長を包括的に支援していることを示しています。今後もヤマト運輸をはじめ、多くのお客様企業のベトナムおよび地域での事業拡大を支援していく考えです。今回の取り組みが、両国間の人材育成の新たなモデルケースになることを期待しています。

物流業界だけでなく、日本では多くの産業で人材不足が深刻化しています。経済産業省の試算では、2030年時点のIT人材不足は、需要の伸びなどの前提によって約45万人から最大約79万人に達する可能性が示されています。今後は先端材料、再生可能エネルギーなど、両国の未来を左右する戦略分野でも協力を深めていきたいと考えています。

当社は両国政府・大学・企業が参加する「日越戦略技術委員会(Strategic Technology Committee)」の設立も提案しています。こうした協力が具体的な成果へと結び付いていくことを期待しています。

——現在、日本企業からのニーズが高いのはFPTのどのようなサービスですか。

具体的なプロジェクトで言えば、企業のレガシーシステムのモダナイゼーションやクラウド移行の支援が多いですね。

日本企業は現在「2025年の崖」と呼ばれるレガシーシステム問題に直面しており、金融機関の約60%が基幹システムの刷新を進めています。FPTはAIを活用したモダナイゼーション手法により、コストを従来より約30%削減し、プロジェクト期間を最大6カ月短縮します。刷新後は運用・保守の効率も大幅に高まり、より少ない人数で担当できるようになります。

日本企業が地政学的・経済的な不確実性への耐性を高め、より迅速かつ効率的で持続可能な経営を実現するための支援も提供しています。一例として、日本の大手鉄鋼メーカー様の基幹生産システムを、クラウド基盤へ移行するプロジェクトを支援しました。システム統合コストを従来よりも50%削減し、複数工場のシステムをまとめて効率的に運用できるようにもしました。

サイバーセキュリティ分野ではAIを活用し、脆弱性の事前検知、自動対応、設計段階からのガバナンス組み込みによって、包括的なリスク管理を実現しています。

私たちはいま、AIによって大きく時代が分かれる転換点に立っています。人類の歴史を二つに分けるなら、「人類の始まりから今日まで」と「今日から未来へ」です。その未来を決定づけるのがAIです。人間とAIが協働すれば、これまで想像できなかった進化が生まれます。過去の時代にとどまるのか、AIと共に新しい時代へ踏み出すのか。後者を選ぶのであれば、決断はできるだけ早くなければなりません。

そのための1つとして、組織や企業向けのAI成熟度評価フレームワーク「CASAN」*を開発しました。これにより、企業は自社のAI活用水準を把握し、実験段階から実際のビジネス価値創出へ移行するためのロードマップを描くことができます。

ほかにも大規模AI活用に向けたデータ基盤やガバナンスの構築、AIエージェントの導入、人とAIが協働する業務モデルへの再設計にも取り組んでいきます。企業が自律的かつ安全にAIを活用できる体制づくりも支援していきます。

米マイクロソフト、米エヌビディア、独SAP、米アンソロピック、米Amazon Web Services、米OpenAIなどの戦略的パートナーと連携し、最先端技術と大規模導入能力をお客様に提供しています。

加えて半導体、量子コンピューティング、サイバーセキュリティといった今後数十年にわたり国際競争力を左右する分野においても、日本企業と連携していきます。日本が再び世界の技術リーダーとしての地位を確立するための一助になりたいと考えています。

*AI成熟度評価フレームワーク「CASAN」

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