
ベトナムIT最大手企業であるFPTソフトウェアは日本企業からデジタルトランスフォーメーション(DX)のパートナーとして選ばれる機会が増えている。同社の強みの1つが、専用施設や独自ツールによって顧客のアイデア創出を支援する「DXガレージ」だ。DXガレージの概要や成果、今後の展開について、FPTソフトウェアのグエン・ゴック・ソン氏に聞いた。
——DXガレージの概要を教えてください。
DXガレージは、イノベーションのアイデアを形にすることで顧客企業のDXを支援する当社独自のフレームワークです。顧客企業はDXガレージを利用することで、アイデア実現のスピードアップが図れます。
DXガレージは大きく3つの要素があります。1つ目はファシリティーです。オープンで独立した、イノベーションのための専用施設をご用意しています。毎日の仕事から離れ、ワークショップでイノベーションに集中することで、アイデアが出やすくなります。日本においても、2022年に東京の六本木に施設を開設しました。
2つ目は人です。専門のトレーニングを受けた人材が顧客企業を支援します。ワークショップで顧客から出たアイデアを基に、専門人材がシステムの設計や構築、テスト、実行を支援し、MVP(Minimum Viable Product)と呼ぶ必要最小限のプロダクトを作ります。

MVPを使って、DXによるポジティブな効果があるか、課題は何かを検証し、MVPの修正を繰り返します。このサイクルを経て完成したMVPによって、DXがいかにインパクトがあるものかを顧客企業に理解していただきます。期間は2週間から3カ月ほどです。
3つ目はツールです。DXガレージで使用するツール群は完成度が高く、迅速な価値提供が可能です。ツールを総称して「DXスタジオ」と呼びます。DXスタジオはDXガレージで使用するだけでなく、顧客企業が自らイノベーションを進める際に利用することができます。
——DXガレージを実際に利用した顧客の事例を教えてください。
POS(販売時点情報管理)端末の製造を手掛けている日本のメーカー様にご利用いただいた事例があります。このお客様は従来、POS端末を決済だけに使っていましたが、将来的に消費者の需要予測にも使えるようにしたいと考えていました。
そこでまずアイデアをうかがい、その後ディスカッションを重ねて25のユースケースを創出しました。ここで言うユースケースは、小さなアイデアの固まりを指しています。
次にベトナムに来ていただき、2〜3日ワークショップを開いて25のユースケースから実行する1つを選びました。このユースケースは、近隣店舗における顧客の購入データを組み合わせることで、将来的な商品ニーズを探るというものでした。システムの構築を2週間で終え、2カ⽉ほど試験運用しました。
この取り組みはメーカー様から高くご評価いただくことができました。今後このシステムを大規模に実装するお考えだとうかがっています。
——DXガレージのグローバルでの展開状況を教えてください。
2023年時点で、ワールドワイドでワークショップを累計100件実施しました。このうち20社がMVPの構築に進み、5社が実環境で導入するに至りました。5社のうち2社が日本企業で、建設会社様とガス会社様です。先ほどご紹介したPOSのメーカー様も、ここに加わる予定です。
——日本企業の割合が高いことには理由があるのでしょうか。

特に日本企業が積極的という印象はありません。強いて言えば、日本政府が企業のDX推進にハッパをかけているので、その効果が出ているのかもしれませんね。
当社としては日本市場をとても重視していますので、よりアピールしていきたいと考えています。日本のDXガレージのマネジャーに日本人を任命しており、日本語ができるベトナム人エンジニアも多数アサインしています。
——DXガレージの利用企業は、自ら希望したケースが多いのですか。
そういったお客様が全体の2割ほどで、8割は当社からご提案してご参加いただいています。
——「DXガレージを利用すると短期間でイノベーションを起こせる」というお話ですが、創造的であることと成果を急ぐことは相性が悪いようにも思えます。両立に向けた工夫があるのでしょうか。
イノベーションを起こす場合、重要なことは大きく2つあると考えています。1つはイノベーションにつながるほとんどのアイデアが、毎日の活動や業務の際に「ここを変えてみたらどうだろうか」といった形で発想されるということです。
——トヨタ自動車の「カイゼン」のようなケースですね。
その通りです。この場合のアイデアは、全く新しいものをゼロから発想したわけではありません。どこかしらで使ったことがあるものや、既に他の企業による前例がある取り組みが基になっていることがほとんどです。それらをうまく活用したり、複数組み合わせたりすることによってイノベーションが生まれます。
もう1つは、人や組織によって最適なイノベーションが何であるかが変わるということです。「A社で大きな成果を上げたあるイノベーションが、B社には全く不向きである」といったケースは多々あります。アイデアは顧客の業務内容だけでなく、カルチャーや組織風土なども理解したうえで形にすることが重要です。我々はこれまでの経験を通じて、このために必要なノウハウを豊富に持っています。
——競合他社もDX支援や、イノベーション支援を提供しています。違いは何でしょうか。
品質、価値、価格といった点がまずありますが、それ以外にもいくつか違いがあります。例えば、顧客企業と共にオープンにアイデアを共有する文化を醸成していることです。当社とお客様はサービスを提供する側と受け手という関係を超え、共に考え、リスペクトし合うことができていると感じます。
顧客企業同士をつなぎ、アイデアを生み出す活動にも注力しています。国を超えて顧客企業が議論する場を提供しており、この場をきっかけにある米国企業とドイツの企業が協業に向けた議論を開始しています。
——今後の計画を教えてください。
DXガレージのファシリティーをグローバルで増やす考えです。ベトナムはホーチミンに既に施設がありますが、ダナンにも建設します。米国、シンガポール、中東でも新施設を作る計画です。それぞれの拠点の人員も倍増し、生成AI(人工知能)やデータ関連ツールの活用を強化します。
日本においてはより良いサービス提供のため、2024年6月に六本木から東京都港区の三田エリアに拠点を移します。
