
日本調剤は調剤薬局業界で初めて経済産業省から「DX認定取得事業者」の認定を受けるなど、DX(デジタルトランスフォーメーション)に積極的に取り組んでいる。現在は薬局で使う調剤システムのリニューアルを進めており、プロジェクトの体制構築にあたって、あるチャレンジに踏み切った。
日本政府は2022年5月に「医療DX令和ビジョン2030」を掲げて以降、医療費の抑制や医療人材の不足といった課題を解決するための「医療DX」に注力している。具体的には電子カルテ情報の標準化や電子カルテ共有のためのプラットフォームの構築、電子処方箋の普及などだ。
全国で約730の調剤薬局を展開する日本調剤は、政府による取り組みが始まる以前から、独自にDX戦略を進めてきた。現在は誰でもオンラインで診察や服薬指導などを受けられるようにする「スマート医療の提供」や、リアル店舗とオンラインの融合による「新たな顧客体験の創出」など、5つの方針に基づきDXに取り組んでいる。
日本調剤の栗原邦彦執行役員システム本部長兼DX推進室部長は自社のDXについて、「政府の方針を踏まえつつ、どうしたらお客様や従業員により有用なサービスを提供できるかを考えて進めている」と説明する。
日本調剤が同社のDX戦略に基づき運用しているサービスの1つが、患者向けのスマートフォンアプリ「お薬手帳プラス」だ。従来の紙のお薬手帳をデジタル化したことに加え、撮影した処方箋を薬局へデータ送信する機能などを備える。2014年から同アプリを提供している。
薬局への処方箋送信機能を利用すると、利用者は都合の良い時間に薬を取りに行くことができ、待ち時間を減らせる。栗原氏は「薬局での待ち時間が無くなった、と感謝の声をいただいている」と話す。
2022年にはチャットボットを使って患者が薬局に対し、薬に関する相談ができる機能を追加した。「今までは薬局から患者へ一方通行の発信だったが、双方向でコミュニケーションできるようにしたいと考えた」(栗原氏)。
お薬手帳プラスは、薬局を訪れる患者向けのサービスをデジタル技術によって改革する取り組みだ。このような顧客向けのDXとは別に、従業員向けシステムのDXにも臨んでいる。
その1つが、2021年に運用を開始した「JP-Dream」だ。店舗のオペレーションを支援するクラウドサービスであり、「本部と店舗の双方向でのやり取りを可能にした」(栗原氏)。各店舗の優良事例を全国の店舗へ共有する店舗間コミュニケーション機能も備えるという。
お薬手帳プラスとJP-Dreamは既にリリース済みのサービス・システムだ。これに対して、新たなDXとして現在進行中なのが調剤システムのリニューアルである。調剤システムは薬局で利用するもので、患者から受け取った処方箋の登録から会計、薬の受け渡しまで一連の業務をカバーする。
現行のシステムは2000年に稼働しており、「長く使うことでシステム管理上の課題がでてきた」(栗原氏)。具体的には、機能を追加・修正する際に時間がかかることや、担当者の退職などによって中身がブラックボックス化しつつあった。まさに、経産省が指摘する「2025年の崖」のリスクである。
日本調剤は課題解決のため、現行システムの構築を委託した国内ベンダーにリニューアルを持ちかけた。しかし「技術者不足や、担当者の退職によるノウハウ不足などを理由に断られてしまった」(栗原氏)。別の国内ベンダーにも打診したが、「ノウハウがなく難しい、という話だった」(同)。
そこで頼ったのが、海外への委託開発だ。委託先として、従来の主流であった中国やインドではなく、ベトナムを選んだ。「技術力とリソースの豊富さなどの観点を重視した」と栗原氏は明かす。

社内にはオフショア活用への抵抗感を示す社員もいた。だが「レガシーシステムの現状や、委託先の技術力、開発スピード、コストなどを鑑みて、正しい選択になるはずだと粘り強く説明した」(栗原氏)。
現在は2025年の稼働に向けてシステムを開発している真っ最中だ。栗原氏は「保守性に優れ、新サービスを素早くリリースできるシステムを完成させたい」と意気込む。
最近は人手不足とデジタル需要の高まりを受け、国内ベンダーは受注残が積み上がりつつある。いわば顧客や案件を選べる状況にあり、レガシーシステムの刷新案件は敬遠されがちだ。予算超過や工期延長といったリスクが高く、多数の人手がかかるからだ。発注先を見つけることができなければ、レガシーシステムを抱え続けることによる経営リスクは解消できない。2025年の崖を乗り越え切れていない日本企業は、新たな経営課題に直面していると言えそうだ。