トップダウンとボトムアップを融合し
プラットフォーム指向
グループ全体DX推進

株式会社IDホールディングス 代表取締役社長 グループ最高経営責任者 舩越 真樹氏
富士フイルムホールディングス株式会社
執行役員 CDO
ICT戦略部長兼イメージング・インフォマティクスラボ長
杉本 征剛
設立90周年を迎えた富士フイルムグループのDXに向けた動きが加速している。技術力や人材などイノベーションの源泉を、DXによってパワーアップし変革を加速する――その取り組みを通じて、同グループは持続可能な社会の実現を目指している。そのカギを握るのがデジタルプラットフォームであり、その代表例が経営情報分析システム「One-Data」だ。コーポレートスローガンである「Value from Innovation」実現に向けた同社のDXの取り組みを紹介する。

5つのイノベーションの源泉を
DXによってパワーアップする

 富士フイルムホールディングスは2024年で設立90周年を迎えた。これを機にグループパーパス「地球上の笑顔の回数を増やしていく。」を新たに制定し、成長戦略を加速。この成長戦略においてDXを重要な柱と位置づけている。

 祖業である写真フィルム事業は、2000年代初めにアナログからデジタルへの大きな環境変化に直面した。需要の激減という現実に向き合い、荒波を乗り越えて変革を成し遂げた経験は、DXをはじめとする現在進行中の変革プロセスに生かされている。

 富士フイルムグループは自らのイノベーションの源泉を5つに分類している。「技術力」「企業風土」「人材」「ブランド」「グローバルネットワーク」である。富士フイルムホールディングスの杉本 征剛氏は「これらの強みをデジタルでパワーアップする。これが当社のDXの方向性です」と語る。

 グループ全体でDXを推進するための指針として、「DXロードマップ」を策定(図1)。2030年度を視野に、DXを通じてより多くの製品・サービスが、持続可能な社会を支える基盤として定着することを目指す。その道筋には大きく3つの段階がある。
図1
富士フイルムグループのDXロードマップ
富士フイルムグループのDXロードマップ
ステージⅠではオペレーショナルエクセレンスを徹底追求。さらにビジネスを進化させてステージⅡ、ステージⅢへと進む。各ステージを支えるデジタルプラットフォームも高度化する。ステージⅢでは「トラスト」を実装し、ステークホルダーが安心して利用できる環境を提供。将来的には、幅広い産業分野の多くの企業との共創を目指している
 「ステージⅠは従来型のビジネスで、オペレーショナルエクセレンスを徹底します。ステージⅡではリカーリングビジネスの進化を通じて、お客様に対する価値の継続的な最適化を図ります。ステージⅢでは、様々なステークホルダーと新たなエコシステムを構築し、持続可能な社会づくりに貢献したいと考えています」(杉本氏)

トップダウンとボトムアップで
全社的なDX推進体制を構築

 DXロードマップの実現に向けて、トップマネジメントは投資優先度など大きな意思決定やガバナンスを担い、現場では部門ごとに任命されたデジタルオフィサーがDX推進をリードする。さらに、杉本氏がリードするICT戦略部が両者のハブとして機能し、全社で最適化されたDXの推進を目指す。

 DX推進体制は人事や経営企画、各事業部門などが参画する全社的なものである。例えば、DX戦略には経営企画部門、DX人材育成には人事部門の協力が欠かせない。また、グループ全体のDXビジョンは、より具体化されて各事業のDXビジョンに落とし込まれている。

 「ボトムアップや“ツールありき”のやり方では、DXはうまく進みません。トップダウンとボトムアップを融合させた体制は、当社のプロジェクト推進における大きな特徴といえるでしょう」と杉本氏。

 DX推進でもう1つ同グループの特徴となっているのが、プラットフォーム指向だ。従来、多くの日本企業は事業ごとに最適化した業務システムを構築してきた。事業間連携は容易ではなく、運用コストが膨らむ要因ともなった。さらに、抜本的変革が求められるDXでは、単一のITツールでは対応が困難だ。そこで同グループは、自社/他社開発の共通機能を柔軟に組み合わせて多様な用途を実現するプラットフォーム型開発への変革を目指し、全体最適のシステム整備を進めてきた。

 富士フイルムグループは、ヘルスケア、マテリアルズ、ビジネスイノベーション、イメージングの4つの領域で事業を展開している。各事業が置かれた環境は様々で、DXに投じられるリソースにも違いがある。現状のステージも異なり、DXロードマップを同じスピードで駆け上がることはできない。

 「各事業の現状のステージを把握した上で、事業ごとにステージ内でのスケールアップとステージアップを目指しています」と杉本氏。各事業を下支えし、3つの各ステージを支えるために必要なグループ共通のデジタルプラットフォームの構築を進めている。

事実認識の完全一致により
現場連携と生産性に好影響

 富士フイルムグループのDXを支えるデジタルプラットフォームはデータ・アプリケーション・インフラ・セキュリティーの要素で構成され、データプラットフォームとして経営情報分析システム「One-Data」がある(図2)。
図2
経営情報分析システム「One-Data」
経営情報分析システム「One-Data」
グローバルなシステム統合ではなく、データ統合によって事業活動の可視化・共有を実現。多種多様かつ大量のデータはクラウド上に集約され、ユーザーが権限と必要に応じて活用する。生産性の大幅な向上とともに、経営KPI を達成する上でも大きな効果があった。数字に関する事実認識が完全に一致するので、現場間の連携も促進されたという
 「グローバルで見ると、M&Aなどで多様なグループ会社を受け入れてきたため、グループ全体で90近い業務システムが動いています。ERPにもいくつかの種類があり、ビジネスの現状把握の観点で課題を抱えていました。ERP統合という解決アプローチもありますが、現場オペレーションへの影響が懸念されました。私たちが選択したのはデータの統合です」と杉本氏は振り返る。

 グループ各社のマスターデータ統一などを推進し、現在、クラウド環境のデータベースに、ERPをはじめ各種業務システムから送られるデータが日々蓄積されている。ユーザーは、知りたい情報に即座にアクセスすることができる。

 「One-Dataにより、数字に関する事実認識を完全一致させることができ、現場間連携や生産性向上に大きなインパクトがありました」と杉本氏。売り上げや生産、入出荷、在庫などの情報をリアルタイムで可視化・共有することで、キャッシュコンバージョンサイクルの改善など、目に見える効果が生まれているという。

 ステージⅠ~Ⅲに対応するデジタルプラットフォームは活用段階にあり、同時に機能拡張も進められている。特に、ステージⅢのビジネスモデルを支える基盤強化は今後の焦点となる。

 「ステージⅢでは様々なステークホルダーとの協業によって新たなエコシステムを形成します。個人情報を含め多様なデータがプラットフォームを行き交うだけに、信頼性は必須要件。キーワードは『トラストファースト』です。データの真正性を確保し、改ざんなどの悪意ある行為が介在しないよう、ブロックチェーン技術も活用しています。現在はサプライヤーを中心にご利用いただいていますが、将来的には、様々な業界の企業から共創機会をいただくことで、当社だけでは成し得ない価値提供によって社会課題に貢献していきたいと考えています」と杉本氏は言う。

 その歩みの先にあるのは、いわばビジネス活動のデジタルツインの構築である。こうした取り組みを通じて、富士フイルムグループは事業構造と産業構造の変革を目指している。
お問い合わせ
富士フイルムホールディングス株式会社 ICT戦略部 〒107-0052 東京都港区赤坂9-7-3
E-mail:fh-dx_program_office@fujifilm.com