
2021年10月に始動した富士通の新たな事業モデル「Fujitsu Uvance(以下Uvance)」。富士通は、どのように企業や社会の変革をリードしているのか。Uvanceの事業戦略責任者、富士通グローバルソリューションビジネスグループ Strategic Planning本部長, SVPの藤井剛氏に話を聞いた。
藤井さんのこれまでの経歴やUvanceでの役割を教えてください。
2024年2月まで経営コンサルティングファームに二十数年勤め、同年3月に富士通にジョインしました。前職では、約10年間パートナーとしてファームの経営に携わり、同時に戦略コンサル部門を約6年間率いていました。富士通に移ってからは、Uvanceの事業戦略責任者を任されています。
藤井 剛 氏
富士通
グローバルソリューション ビジネスグループ Strategic Planning本部長 SVP
二十数年勤めてきたコンサル会社から富士通へ転職するきっかけは何だったのですか。
コンサルは「企業の医者」と言われますが、一方で、「患者」にあたる日本の企業や経済はずっと伸び悩んでいるという「不都合な真実」があります。
コンサル業界は過去20年、毎年二桁以上成長し、いまや非常に巨大な産業に育ちました。医者は増える一方なのに、日本の企業や経済はなかなか元気や活力を取り戻せていません。なぜか?と自問する日々でした。多くのコンサル経験者は同じだと思いますが、コンサルとして得た知見を活かして、経営の現場に飛び込むことで、より経済社会にインパクトを出せるのではないかという考えは以前からありました。
そんな中、以前から親交があった富士通グループの方に誘われたのがきっかけで、今の富士通には、大企業が大きく変革するための機運と土壌があると感じ、転身を決めました。
実業に飛び込むことで、何を起こそうと考えていらっしゃいますか。
私がコンサルタント時代に活用していたフレームワークで説明します。経営者が企業変革を構想し実行する際には、常に5つの要素を統合的に、1つのストーリーとして整合させ続けることが重要です。まず起点となる1つ目は、企業としての「Aspiration」。パーパスやビジョンのようなものです。次に「Where to Play」と「How to Win」。どの戦場で戦い、どうやって勝つか、いわゆる事業戦略の骨格に当たります。そして4つ目と5つ目は、戦略を着実に実行するためにどのような「Capabilities」(企業としての能力や人材など)と「Management System」(経営管理の仕組みやIT基盤など)を獲得・整備するのが必要か。社内外の環境が変わり続ける中で、これら5つの要素を常に統合的に捉えながら、意思決定をしていくのです。
戦略コンサルの立場では、あるタイミングで1つ目から5つ目までの全体の構想に関わることができますが、その後数年に渡り、状況が変わり続ける変革実行の現場で意思決定に関わり続ける機会は多くありません。また、最初の3つには深く関わることができる一方で、ほとんどの日本企業が、変革実行において躓くポイントは、CapabilitiesとManagement Systemにあることを見てきました。特に、組織文化を構成するヒト(人的資本)の改革と、デジタルテクノロジーを起点とした抜本的な変革(≒デジタルトランスフォーメーション(以下DX))です。
富士通には、この変革が一気通貫でできる稀有な土壌があると感じています。富士通は私が入る以前から、社長の時田(隆仁)がリーダーシップを取って、パーパスを見直し、ヒトと組織文化の変革にかなり大胆に動いていました。私の他にも多くの外部人材が登用されているのはその証左の1つです。また、単にDXを標榜するだけでなく、デジタルテクノロジーを自社の変革でも積極的に活用し、社内実践を通して得た知見を顧客にも積極的に提供しています。
そのような富士通の変革の中核を担い、事業構造そのものを変えていくのがUvanceです。Uvanceはビジネスを通して社会課題解決を実現していく事業モデルであり、まさに私がコンサル時代に専門としていたCSV(Creating Shared Value)に通じていたことも、富士通に高い共感を持った点です。
Uvanceが始動して3年が経ちました。今は、これまで得た知見を踏まえ、さらに大きな変革を仕掛けていく段階です。足元では、M&Aも含めてUvanceのポートフォリオを今後さらにどう変えていくか、戦略やオペレーティングモデルをどうアップデートしていくか、といった取り組みに着手しています。
「Fujitsu Uvance」の全体像
Uvanceの狙いについて教えてください。
Uvanceには、これまでのシステムインテグレーター(SIer)から抜本的に事業モデルを変え、本気でグローバルマーケットと戦っていくというメッセージが込められています。富士通が実践してきた、あるいは実践している変革のノウハウや課題、打ち手をもとにUvanceを磨き、お客様とのビジネス変革と成長を通じて社会の課題を解いていくことにこだわっています。
Uvanceの提供価値のカギとなるのは、富士通の強みであるデータインテリジェンスやAIといったテクノロジーの実装力です。例えば企業間のデータをつなぎ、従来はリーチできなかった課題への解決方法を探ったり、AIエージェントを組み込み企業の意思決定を高度化したり、といった取り組みを進めてきています。企業や社会全体がよりよい未来へ進化・成長するためにEnd to Endでお手伝いをさせていただくのがUvanceだと考えています。
経済や社会全体をよくしていくためには、企業間の連携も重要ですね。
現在、欧州を中心に「データスペース」という概念が広がってきています。ライバル関係にある企業間で大事な自社のデータを共有するのは非常に大変なことです。データスペースではまず、データの権限はデータを保有する企業にあるとし、そのうえで、どの範囲まで他社が見るのを認めるかなどのルールをきちんと整備し、各社が必要なデータを必要な時にやり取りできるインフラをつくろうとしているのです。
欧州には自動車の蓄電池や部品の情報を交換する「Catena-X」というデータスペースがあります。日本でも経済産業省が産業データ基盤「Ouranos Ecosystem(ウラノス エコシステム)」の活用を進めんとしています。実は富士通は、こうした企業間、あるいは国・地域間のデータを繋げる枠組みづくりをリードしています。
先日、当社では、欧州大手のSchnider Electricを始めとするグローバルサプライヤー12社と、グローバル標準にのっとった実データを活用した製品カーボンフットプリント算出とCO₂排出量のデータ連携を世界に先駆けて社会実装し、脱炭素に向けた実践を本格的に開始したことを発表しました。
Uvanceから生み出されたビジネスや事例などについて教えてください。
Uvanceでは今は、中核としているデータインテリジェンスを使ったビジネスが順調に広がりを見せています。
データドリブン経営という言葉は広く使われるようになっていますが、実際は、一生懸命データを整理して可視化するという段階で留まっているケースも少なくありません。一方で、データを集めて経営にとって意味あるものにするためのテクノロジー自体はどんどん進化しています。私たちが手掛ける「Fujitsu Data Intelligence PaaS(DI PaaS)」にもこれらの先端テクノロジーが幅広く搭載されています。
「Fujitsu Data Intelligence PaaS(DI PaaS)」。データ収集、クレンジング、統合、データモデル構築により、一度業務で利用できるデータモデルができあがると、それらデータモデルを再利用することで、隣接するユースケースのアプリケーションを次々と作っていくことができる
DI PaaSは、様々なシステムに散らばった大規模なデータを統合して組織の課題を解決する、一気通貫のプラットフォームです。データの統合から蓄積、可視化にとどまらず、その先の業務で使用するアプリケーションまでをオールインワンで開発できます。
このDI PaaSのパワーをお客様に提供することで、既存システムを止めずに、圧倒的なスピードでの経営変革が可能となりました。例えばあるグローバルメーカーでは、世界約20の生産拠点のSCMデータを数週間で統合し運用にのせることで、SCM業務量を5割削減し、社会課題でもある迫りくる労働人口不足に対して、先手を打つことが実現できています。
Uvanceによる取り組みは、社会課題解決にどうつながっていくのでしょうか。
Uvance自体は「社会貢献」をするための事業モデルではありません。あくまでビジネスの世界で社会課題を解決していきたいと考えています。
例として、ヘルスケアが抱える課題の解決を目指す“Healthy Living”の分野において当社は、世界最先端の治験プラットフォームを提供する米国スタートアップ企業であるParadigm Health, Inc.※注1(以下Paradigm)と2024年7月に戦略的パートナーシップ契約を締結しました。Paradigmの治験プラットフォームと、当社の医療データ利活用基盤およびAIサービスであるHealthy Living Platformをつなぐことでエコシステムを構築し、国際共同治験の日本誘致数を大幅拡大するとともに、治験計画業務の効率化と期間短縮を実現することを目指すものです。
※注1 参考:https://pr.fujitsu.com/jp/news/2024/08/26.html#footnote1
医療機関と製薬企業を繋ぐプラットフォーム概要図
このエコシステムでのビジネスが拡大すればするほど、海外で承認されている薬を日本で投与できないドラッグ・ロスの問題の解消につながると期待しています。
Uvanceを通して、すべてのビジネスが社会課題解決につながることを目指しています。ビジネスと社会課題解決を両立させるのがUvanceだと考えています。
Uvanceは今後いかに進化し、企業を変革していくのでしょうか。
私が今注目している1つは「ディシジョンインテリジェンス(Decision Intelligence)」の分野です。データインテリジェンスやAIテクノロジーの圧倒的な進化により、単なるデータ活用の域を得なかったデータドリブン経営の概念を超え、いよいよ本格的に、デジタルテクノロジーにより企業経営の意思決定が進化する時代がやってきます。AIのパワー、社会への影響力はさらに高まり、企業の意思決定の根幹にUvanceのプラットフォームやAIエージェントが使われるようになると考えています。
このような世界では、デジタルテクノロジーを上手に使う企業ほど、様々な意思決定に対する「学習能力」が飛躍的に高まり、結果、指数関数的な成長を実現していくでしょう。逆に学習能力の高くない企業との差は今後大きく開いていきます。これはまるで、日本発で世界的な経営理論となったSECIモデル※注2が、ディシジョンインテリジェンスの推進を後押しし、デジタルの力で世界の企業の成長を支えるプラットフォームのようになる、ということかもしれません。また、個社ではできない課題解決のため、データスペースのような枠組みへの参加も、学習能力を高めたい企業ほど、積極的に拡大していくことでしょう。
このようにデジタルテクノロジーを活用して指数関数的に成長できる企業が、今後の経済の成長を牽引していくでしょう。Uvanceはそのような企業の変革を支援する存在でありたいですし、富士通自身が今後も率先して、そのような変革を実現していくべきだと考えています。
※注2 野中郁次郎教授が提唱した組織的知識創造理論。個人の有する暗黙知を形式知化し、それを共有実践することでまた他の個人の暗黙知としていくことを通じて組織としての知識想像力を高めていくという考え方
出典:対談 野中郁次郎教授が語る 富士通コミュニケーションサービスのビジネスモデルイノベーション
https://www.fujitsu.com/jp/group/csl/documents/about/resources/advertising/press20090622.pdf
今後のUvanceを象徴するキーワードは、Uvance発足当時からキーワードとしていた、社会や企業の変革を進める「Advance」に加え、新たなテクノロジーを着実に実装し実際に価値を実現する「Realize」の2つです。2024年にはコンサルティング事業ブランド「Uvance Wayfinders」も立ち上がりました。業種の知見とテクノロジーの専門性を融合し、富士通にしかできない「真に企業が必要なもの」を提案して変革を包括的に支援していきます。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
日本がDX周回遅れとなっていることは富士通としても大いに反省すべき点です。しかし、我々は前を向き、テクノロジーカンパニーとして、デジタルの力を最大限に活用して日本社会の進化に少しでも貢献していければと考えています。
従来は「大きすぎて」「遅い」印象だった日本の大企業にも、大きな変革を実践できる面白いフィールドが増えてきつつあると感じています。同じような問題意識を持っている人はその扉を叩いて、経済社会全体の変革に向けてどんどんチャレンジしてほしいですね。少なくとも富士通は、外部から大企業に入った際の、特有のやりづらさも全く感じませんでしたし、それが挑戦できる場所だと思います。
Fujitsu Uvance
WEBサイトはこちら