循環型経済の世界に向けてIT機器リユースが提供できる価値とは

企業経営の重要命題となっているCO2排出量削減。これまでCSRの一環として受け取られてきた脱炭素化への取り組みが、企業価値向上に向けて不可欠なものへ変化しつつある。環境保全を「コスト」ではなく、社会の維持・継続に不可欠な「投資」ととらえる。このような意識の転換を図り、一層の脱炭素化を進める上で必要なことは何だろうか。産学のキーパーソンが議論を交わした。
諸富氏/廣田氏/山根氏

デカップリングで経済成長と環境保全を両立する

持続可能な社会の実現に向けた取り組みが世界中で進んでいます。はじめに、その現状について教えてください。

諸富私たちの経済活動は、自然環境や社会の仕組み、それを正しく動かすための制度など複数の共通資本の上で行われています。しかし、2023年3月にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、このうち自然資本が崩壊して社会経済システムを維持できなくなる可能性を指摘しました※1。世界平均気温の上昇に歯止めがかかっておらず、それが大気、海洋や雪氷圏、生態系に急速なインパクトをもたらしている。この状況を打開し、持続可能な社会を実現するには、あらゆる産業セクターで大幅なCO2(二酸化炭素)の排出量削減を図ることが不可欠です。2050年のカーボンニュートラル達成が人類共通の目標となっており、そのために企業は重要な役目を担っています。

目標達成に向けて、企業・組織はどのような課題をクリアする必要があるのでしょうか。

京都大学大学院 経済学研究科 教授 諸富 徹氏
京都大学大学院 経済学研究科 教授
諸富 徹

諸富課題解決に向けてはイノベーションが不可欠ですが、その実現にはテクノロジーや人への一層の資金投入が必要になります。これを単なるコスト増ととらえず、必要な投資だと考えることが重要です。
それにより目指すのは、経済成長と環境負荷低減を両立する経済モデルです。これは「デカップリング経済」と呼ばれ、持続可能な社会を実現するための基本的な考え方の1つになっています。

山根既に欧州ではデカップリングを実現する国が多数登場していますね。

諸富そうですね。例えばスウェーデンは、1990年から2017年の間にGDPと賃金水準を共に1.5倍以上にしましたが、同時にCO2排出量を3割削減しています。これにより、グローバルの目標を5年前倒しした2045年のカーボンニュートラル実現を独自目標に設定しています。

廣田スウェーデンは、日本にとってのロールモデルになるのでしょうか。

諸富そう思います。炭素税率の大幅引き上げ、再生エネルギー投資、産業構造の転換、サステナブルな取り組みへの補助金など、同様の取り組みを実施することで、経済成長とCO2排出量削減を両立することは可能だと思います。
そのために必要なのは、「脱炭素こそが経済成長につながる」と、国が戦略を明確に打ち出して企業の取り組みを促すことです。自動車、鉄鋼、電気、ITなど業界の主要プレーヤーがサステナブルな取り組みを強化することで、日本の持続的成長への道が開けていくはずです。

サステナビリティを事業活動にビルトインする

IT業界大手のNTTデータグループは、サステナビリティ経営を掲げて様々な取り組みを実践しています。基本方針や取り組みの内容を教えてください。

株式会社NTTデータグループ コーポレート統括本部 サステナビリティ経営推進部 グリーンイノベーション推進室長 山根 知樹氏
株式会社NTTデータグループ
コーポレート統括本部 サステナビリティ経営推進部
グリーンイノベーション推進室長
山根 知樹

山根IT業界では、データセンターなどでの電力使用量やCO2排出量、および機器に使われるレアメタルの削減などが重要ミッションになっています。昨今注目されているのはダークデータの保存にかかる機器の稼働削減です。ダークデータとは日常的に使われておらず死蔵された状態にあるデータのことであり、一説には世界に存在するデータの半分以上が該当するといわれます。この状況の改善に率先して取り組むことが、国内最大級のIT企業である当社の使命だと考えています。

どのような体制で取り組みを進めているのですか。

山根サステナビリティ経営推進委員会を設置してグループ全体のガバナンスを利かせるとともに、グリーンイノベーション推進室が司令塔となってお客様や社会全体に向けた環境に関する取り組みを展開しています。
重視しているのは、従来のようなCSRの一環としてではなく、事業活動にビルトインする「ビジネスwithサステナビリティ」という考え方です。電力効率を追求したグリーンデータセンターやクラウドへのシステムの移行促進、消費電力を抑制したソフトウエアの設計・実装、機器のグリーン調達といった取り組みはその一例。お客様向けサービスにおいても、サステナビリティ戦略の策定から情報開示までをご支援するグリーンコンサルティングや、温室効果ガス排出量可視化プラットフォームなどを提供しています。

また、社内の取り組みの1つとして業務PCのリユース・リサイクルも実施していると聞きました。その狙いも教えてください。

山根持続可能な社会の実現に向けては、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方が重要です。その実装に向けた第一歩として、ペットボトルのリサイクルや、PCをはじめとするハードウエアのリユース・リサイクル、寄付などを行っています。
IT機器のリユースに際しては、セキュリティー面でも慎重な取り扱いが求められます。そこで、ITAD(アイタッド:Information Technology Asset Disposition)の考え方に基づくゲットイットなどのIT機器買取サービス(図)を利用することで、適正なリユース・リサイクルを推進しています。

図 ゲットイットのIT機器買取サービス

図 ゲットイットのIT機器買取サービス

企業で使われなくなったITハードウエアを買い取り、安全かつ責任を持ってリユース・リサイクルする

脱炭素化を推進する手段としてのIT機器リユース

ITADの概要や、ゲットイットのサービスについて教えてください。

株式会社ゲットイット 代表取締役 廣田 優輝氏
株式会社ゲットイット
代表取締役
廣田 優輝

廣田ITADとは、使われなくなったITハードウエアを安全かつ責任を持ってリユース・リサイクルするプロセスのことです。
ITAD協会によると、企業におけるIT機器のリユース率は約10%※2ですが、ここ数年、資源保護の重要性や循環型経済の考え方が注目を集めるのに伴って、使わなくなったIT機器の扱いを見直す気運が高まっていると感じます。当社は、それらの機器を買い取って、適正にリユース・リサイクルするサービスを提供しています。

諸富多くの場合、業務で使用するIT機器には機密情報が保管されています。リユース時にはそこを心配する顧客が多いのではないですか。

廣田おっしゃる通りです。その点、当社はデータ消去の第三者証明機関であるADEC(データ適性消去実行証明協議会)の「消去プロセス認証」3つ星を取得するなど、セキュリティー面を非常に重視しています。また、2001年の設立から現在まで、PCやサーバー、ネットワーク機器などを累計で96万台以上扱ってきました。大手のお客様との取引実績も多く、不安なくご利用いただけるサービスだと自負しています。

機器の性能面はどうでしょう。リユースのIT機器を使うことで、業務の効率や生産性が下がることはありませんか。

山根そこは当社も検討しましたが、用途に合わせて使い分けることが大事だと思います。

廣田おっしゃる通りですね。毎日、高頻度に使うPCは、ハイスペックな最新機種がよいでしょう。ただ、そこまで性能が求められないPCやサーバーは、実は組織内にたくさんあります。それらをリユース製品に置き換えることは、循環型経済の観点で大切だと私たちは考えています。
加えて、当社のサービスでは、買取金額・回収した資金、データ消去の報告以外に、CO2削減量などをまとめたレポートも提供しています。この情報を環境経営報告書などの情報発信に役立てていただければ、さらなる企業価値向上につなげることもできるはずです。

山根デカップリングに向けてもITADは効果的だと思います。ゼロから作らずリユースすることで、IT機器の新規製造プロセスで発生するCO2排出量を削減できるからです。

諸富ゲットイットのビジネスは、「モノの使用をなるべく減らす」ということに、サービス/ソリューションによって挑戦するものだといえます。いわばモノからコトへの転換ですが、このような新しいビジネスモデルで企業が収益を上げられるようになることが、循環型経済の世界では非常に重要です。

廣田ありがとうございます。まさに当社は、このサービスを「循環型ITソリューション」と位置付けています。ビジネス現場におけるIT機器の重要性は今後も高まっていくはずですが、一方では脱炭素や循環型経済の視点で使い方を見直さなくてはいけないことに、多くの企業が気付いています。当社は創業から20年、この事業を継続してきましたが、現在はより一層お客様、社会、地球の役に立てるタイミングがやってきたと感じています。その思いを胸に、今後も様々な角度から貢献していければと思います。


※1
IPCC第6次評価 統合報告書
※2
日本ITAD協会による推計

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URL:https://www.get-it.ne.jp