我が国のGX施策

世界初の国によるGX経済移行債で
金融面から産業界強力支援

龍崎孝嗣
Takatsugu Ryuzaki
経済産業省
GXグループ長

我が国のGX(グリーントランスフォーメーション)施策が大きく動き出している。その核となるのが、官民で150兆円超の投資実現に向けた「GX経済移行債」の発行だ。その目的はどこにあるのか。官民連携が目指す未来とは。経済産業省の龍崎孝嗣GXグループ長に話を聞いた。

10年間で150兆円超を支援
GXで経済競争力を強化

―グローバルでのカーボンニュートラルへの取り組み状況と、我が国の対応について教えてください。

龍崎 米国やEUを中心に、世界各国で脱炭素の動きが加速しています。GDP(国内総生産)ベースで9割の国がカーボンニュートラルを表明し、カーボンニュートラルを産業政策のドライバーとして支援策を打ち出しています。まさに産業政策の大競争時代が始まっているのです。

 米国では再生可能エネルギーやEV(電気自動車)、水素エネルギーなどに日本円で60兆円の支援策を打ち出し、EUでも官民合わせて180兆円の投資目標を表明しています。日本も2022年5月に官民合わせて今後10年間で150兆円超の投資目標を打ち出しています。

 日本の特徴は、社会や産業の構造をグリーンエネルギー中心の構造に変えていくGX(グリーントランスフォーメーション)を梃子に産業競争力を強化していくという、成長志向型の方針をとっていることです。2023年5月にはGX推進法が成立し、世界で初めて国によるトランジション・ボンド「GX経済移行債」の発行を決定しました。

 トランジション・ボンドは排出削減に資する技術革新などに対する、先行的な移行を支援するファイナンスで、より現実的なアプローチだと考えています。債券の国際機関から認証を得ており、国際エネルギー機関(IEA)からは「画期的な金融手法」として高く評価されています。

 「GX経済移行債」は今年度4回の発行を予定しています。これまでに約2兆3000億円を調達し、幅広い投資家から理解と支持を受けていると考えています。国が率先してGXのトランジション・ボンドを発行することで、民間企業も発行しやすくなり、GX投資が促進されると期待しています。

―国がGXに意欲的に取り組む背景はどこにあるのでしょうか。

龍崎 各国はネットゼロに向けた目標年度を掲げていますが、日本は2050年のネットゼロの目標に向けて、現在までまさにオントラック(順調な進展)で来ています。これは企業や家庭の努力や再生可能エネルギーの導入、省エネルギー推進などの活動がその成果に結びついたものです。

 例えば、カーボンニュートラルへの移行に向けて自発的に挑戦しようという野心的な企業の集合体である「GXリーグ」には、2024年3月時点で、日本の排出量の5割超を占める700社超が参画しています。参画企業は2030年度に加え、2025年度までの排出削減目標を自ら掲げて削減に挑戦するとともに、試行的に開始する排出量取引にも参画しています。また、サプライチェーン上での排出削減やGX製品の投入に関して個社の取り組みでは難しいルール形成等についても積極的な議論を行っています。

 もっとも、2050年の目標を達成するためには、CO2排出量を抑える技術開発や、産業プロセスの変革で発生するコストを吸収できる市場創造が必要です。先行的な投資を支援するためのファイナンスの素地を国が率先して作ろうと考えました。

●GX経済移行債による官民のGX投資のイメージ

20兆円規模の先行投資を行ない、今後10年間で150兆円超のGX投資を官民協調で実現する

図 カーボンプライシング・化石燃料賦課金(28年度~)・発電事業者への有償オークション(33年度~)→GX経済移行債→20兆円規模の投資促進※150兆円超のGX投資の実現

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産業構造の変化への対応と
エネルギーの安定供給へ

―政府はどのようにカーボンニュートラルを進めていくのでしょうか。

龍崎 2030年頃までの10年間を展望した各種政府方針に沿ってこれまで取り組んできました。さらに2040年までを見据えて、GXによる産業構造の変化を前提としたビジョンの策定に取り組んでいます。

 そこで重要になるのがエネルギーの供給です。DXの進展やAI(人工知能)の進化などによって電力需要の増加の可能性が指摘されています。そのような中、エネルギーの安定供給を確保していくためにどうすればよいのか。そのための将来像をわかりやすく示していきたいと考えています。

 そこには解決すべき課題が数多くあります。GXによる産業構造の変化でエネルギーがどれくらい必要になるのか、GXにおける産業立地はどうあるべきか、そしてエネルギー供給をどう確保するのかなどです。

 特に、安定的な脱炭素エネルギーの確保が重要です。脱炭素電源を将来に向けて確保していくには、事業者の予見性を高めなければなりません。事業者のリスク負担を含め、投資拡大に向けた事業環境をどのように整備していくのかという課題も出てきます。

 2040年に向けて、こうした課題に対して一つひとつ解決の方向性を出していくことが必要です。学識者、産業界、技術者など各方面の有識者できちんと議論し、方向性を打ち出していこうと考えています。

―目指すゴールはどこにあるのでしょうか。

龍崎 先行投資をしていくには、勝ち筋の見極めが重要です。新しい技術やプロジェクトが続々と生まれてきます。その中でどれが重要なのか、世界のマーケットの動向、国民の所得や雇用への影響などを踏まえて、慎重に見極めていく必要があります。

 また世界各国、特にアジア諸国との連携も重要です。日本はアジア諸国の実情を踏まえた取り組みを推進する役割を担っています。日本が先行してGXに取り組み、そのノウハウをきちんと他国に伝えることで、成長するアジア諸国のGXをリードしていきます。

 企業にとってGXは単独では取り組めない重要なテーマであり、国の支援への期待もあると思います。それをしっかり受け止め、日本企業の世界での競争優位につながるように、一緒に取り組んでいきます。

*経済産業省 『脱炭素への移行に向けたトランジション・ファイナンス』
(https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/transition_finance.html)

龍崎孝嗣
Takatsugu Ryuzaki
経済産業省
GXグループ長

1993年(平成5年)東京大学法学部卒、通商産業省(現・経済産業省)入省。米ケロッグビジネススクール留学、経済産業政策局総務課長、資源エネルギー庁長官官房総務課長、大臣官房審議官(経済産業政策局担当)を歴任。2023年(令和5年)7月から首席GX機構設立準備政策統括調整官を務め、24年(令和6年)7月より現職

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