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人手不足を乗り越える 日本の産業界成長のシナリオ 2024 Review

限られたリソースで
企業価値を最大化する
「デジタル×人」
の実践法とは?

生成AIは目覚ましい速度で進化を続けており、ビジネスシーンへの適用が広がっている。生産性の向上が人手不足解消につながることに大きな期待が寄せられるが、生成AIに作業を代替させる程度では、旧来の効率化の域を出ない。重要なのは「『デジタルの力』と『人の力』を掛け合わせ、人だけでは生み出し得なかった価値を創造すること」とB&DXの安部慶喜氏は指摘する。同社の講演ではそうした価値創造に向けた、生成AIの活用方法が解説された。

生成AIの活用能力が
今後の企業の競争力を左右する

B&DX株式会社 代表取締役社長 安部 慶喜氏
B&DX株式会社
代表取締役社長
安部 慶喜
 生成AIの急速な技術革新が続いている。いまや世界中の企業がビジネスでの活用を模索しており、その需要額は2030年に30兆円規模に達するとの予測もある。

 日本でも様々な業務の生産性向上に活用することで、人手不足という深刻な社会課題を克服する切り札にできるのではないかと期待されている。しかしB&DXの安部慶喜氏は、「大多数の企業がこの生成AIを、従来のITツールと同じような捉え方をしているように見えてなりません」と懸念を示す。

 これまでのITはもっぱら「人の仕事を自動化する」という観点で用いられ、その価値は「足し算」で計られた。デジタル化によって業務時間が3割削減されるとしたら、その時間を使って人が別の作業をすることで生産性が3割増すと考えられたわけだ。

 「生成AIもデジタル技術の1つには違いありませんが、それがもたらすインパクトの大きさは既存のツールと比較になりません。どの領域に適用できるかを探すのではなく、あらゆる業務に使う前提で考えるべき。PCの黎明期には『何に使えるか』が盛んに議論されましたが、現在はその用途が特別に語られることはありません。生成AIも同様の道を歩むはずです」(安部氏)

 社内の誰もがあらゆる業務に使うのだとすれば、その利用価値は「足し算」ではなく「掛け算」、すなわち「(進化し続ける)生成AIの能力×使う人の能力」によって生み出される価値で計られることになる(図1)。このことから安部氏は、「今後の企業の競争力は、生成AIを活用するリテラシーをどう高めるかに左右されるといっても過言ではありません」と強調する。

デジタルと共創すれば
人が生む以上の価値を創出できる

 多くの企業でよく見られるのが、生成AIへの指示の仕方を定型化したプロンプトを用意し、メールの文案や議事録の作成、翻訳をさせるといった使い方だ。しかしそれでは、人が行う作業を表面的に省力化することにすぎない。

 「ぜひ実践していただきたいのは、これまで人がしてきたシステム操作、制度やルールの順守、業務プロセス管理といった作業をデジタルに一任してしまうことです。人が主の“ヒューマンオリエンテッド”からデジタルが主の“デジタルオリエンテッド”に移行し、デジタルと対話しながら業務を遂行する環境を整備すれば、人は非生産的な作業からすっかり解放され、抜本的な効率化が進みます」と安部氏は説く。

 同氏が例として挙げたのが、生成AIと連携させたMicrosoftTeamsによる勤怠登録の仕組みだ。「今日の勤務時間を9時から20時で登録して」と音声やテキストで告げると、生成AIが内容を読み取り、デジタルがガバナンスを利かせ、事前申請なしで残業する理由を確認してくる。「突発的に起きたシステム障害に対応するため」と答えると、デジタルがその社員の残業承認を自動的に責任者に依頼する。これなら社員がいちいち勤怠システムにログインしてデータを入れる必要がなく、情報を誤入力したことで担当部門に確認や修正を強いることもない。

 肝心なのはこの先だ。従来のデジタル化では、それによって得られた「余力」で、人にしかできない高度な仕事をすることが重要だとされてきた。しかし生成AIが出現した今は、「デジタルに任せる領域」と「人が担う領域」を分けずに、デジタルと人が共創しながら新しい価値を創出するべきだ、と安部氏は提言する。

 例えば生成AIに「事業戦略家」「ファイナンスのプロ」「リスクマネジメントの専門家」の3 つの人格を設定し、事業戦略家に事業アイデアを出させ、ファイナンスのプロに財務面での考慮点を検討させる。その上でリスクマネジメントの専門家にリスクと対応策を練らせれば、人が自力で生み出せる以上の価値を創出することが期待できるだろう。こうした使い方こそが、まさに「掛け算」の活用なのである。

業務でのトライアル&エラーを通じて
生成AI活用の習慣化を

 それでは、どうすれば効果的な活用ができるようになるのか。生成AIを使える環境だけ用意して、活用は社員の自由な意思に任せた場合、残念ながら導入後の利用率はどんどん低下し、やがてほとんど使われなくなるという。「社内に定着させるには、個々の社員に『活用方法が分かる』『擬似的な成功体験を得る』『業務でトライアル&エラーする』『習慣化する』という行動変容のステップを踏ませることが不可欠です」と安部氏はアドバイスする。

 ある企業では、生成AIを導入したにも関わらず、利用を習慣化させた社員がわずか1割にとどまっていた。そこでB&DXの支援を受けて生成AIの活用ノウハウを学習するeラーニングを全社員で受講。その結果、業務に日常的に使う社員が4割に増加した。さらに、会議を開く前に生成AIを使ってアジェンダ案を作成することをルール化したり、成果とは関係なく積極的に活用したことを評価したりすることで行動変容を促したところ、「毎週1回は生成AIを使う」という社員が7割5分にまで増えたという(図2)。  「特に重要なのは実務でのトライアル&エラーです。議事録の作成や単純な翻訳などをさせるだけでは、生成AIを使うスキルが伸びることはありません。“エラー”といっても問いかけに対しておかしな答えが返ってくる程度のことで、業務に重大な支障をきたす恐れもありません。失敗と成功を重ねるうちに社員が業務に即した有用な使い方を自ら見いだし、やがて生成AIを活用することが文化として会社に根づくでしょう。そうなればその企業の価値もおのずと向上するはずです」(安部氏)

 DXの必要性が叫ばれて久しいが、大切なのは現状業務をそのままデジタル化することではなく、社員がデジタルを使いこなす能力を高め、業務を変革して新しい価値を生み出すことである。生成AIの活用に組織を挙げて取り組むことは真のDXを遂行することにつながり、結果として人手不足への最良の対応策ともなりそうだ。