


関 1.5℃目標の達成に向け、日本でも脱炭素への取り組みが進んでいます。ただ、この動きを企業や人々の行動変容にまでつなげていくには、「環境にいい」だけにとどまらない価値が必要です。「安い」「便利」、あるいは「コスト削減」「人手不足の解消」といった実利や便益を実感することで、脱炭素化は一気に広まっていくのではないでしょうか。
田村 IGESが「1.5℃ロードマップ」を作成した狙いも、まさにそこにあります。本ロードマップでは、1.5℃目標に整合する大規模な削減を目指しつつ、そこで起こり得る社会変化と新たなビジネスチャンスを提示しています。
関 削減のためのロードマップではなく、社会課題の解決や企業の成長に向けたヒントも盛り込まれているわけですね。
田村 少子高齢化や人手不足、地域格差など、日本が今抱えている課題を解決するには、社会そのものを変革しなければなりません。それにはデジタライゼーションやエネルギーの転換が必須であり、需要側の行動変容も重要です。その過程で脱炭素化も進み、より良い社会を実現していくというストーリーを描いています。作成にあたっては、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)との議論やワークショップを重ね、企業の相場観もふんだんに採り入れています。
関 循環型の経済や消費が進む社会で、新たなビジネスチャンスを模索している企業やスタートアップは多く、私たちもよくご相談を頂いています。「1.5℃ロードマップ」では、どのようなチャンスが示唆されているのでしょうか。
田村 企業の行動変容を促すために、「5つの変化」と「20の好機」を提示しました。「生産性が変わる」「エネルギーのつくりかたが変わる」「素材利用が変わる」「ルール・インフラが変わる」「マーケット・マインドが変わる」の5つの変化に対して、それぞれ4つの事業機会を想定しています。
関 具体的にはどんな事例がありますか。
田村 まず電化やデジタライゼーションによって「生産性が変わる」と、高付加価値サービスへの転換や品質・効率の向上が生まれます。東京製鐵では、電気炉における鉄スクラップの溶解プロセスなどに再エネを用いることで、脱炭素化と電力コストの削減を実現。電力会社との連携で日中の再エネ余剰電力を積極的に受け入れ、稼働時間帯の調整による従業員の負担軽減や、AI自動解析を用いた鉄スクラップの安定調達に取り組んでいます。
関 不安定な再エネ電力をフル活用するには、AIや予測の技術が不可欠ですね。
田村 アイ・グリッド・ソリューションズは、各地で自治体や地元企業、金融機関等と連携し、余剰電力を地域で循環させる事業を展開しています。分散電源を束ねていくことで、それが1つの大きな発電所となり、アグリゲーションビジネスへと発展、電力の地産地消の実現につながります。「エネルギーのつくりかたが変わる」ことで、再エネは身近で欠かせない存在になり、そこで生まれるビジネスチャンスも多い。そのためにも、配電網の仕組みやルールを変えていくことが急務です。
関 ルールやインフラを変えるには、自治体や行政との協業が不可欠です。脱炭素を社会全体に広げていくにはやはり便益性が必要で、それを実現するためにも早急な技術革新が望まれます。
田村 イノベーションも大切ですが、今ある様々な技術を組み合わせるだけでも解決できる課題は多くあると思っています。企業の皆様が現在取り組んでいる事業の中にも、その種は必ずあるはずです。まずは長期的な戦略を持って事業価値を高め、新しい社会やルールの中での好機に結び付けていただきたいですね。
関 ESG投資においても、単に非財務情報を開示するだけでなく、その非財務投資がどれだけ本業の売り上げや生産性に寄与したかが問われる時代。「1.5℃ロードマップ」は、今後のESG経営の道先案内役ともなってくれそうです。
田村 環境や社会にいい行動を起こすことが本業のインパクトにもつながると信じて、私たちはこのロードマップを作成しました。温暖化対策は、待ったなしの課題です。それをより良い社会に向かうための変化と捉え、事業成長のチャンスをつかんでいただきたいと願っています。
関 多くの企業は温暖化に対する危機感よりも、本業が直面する目の前の課題に焦っているのが現状です。でも実は、こうした企業の喫緊の課題を解決していくことが脱炭素社会を加速し、その課題や変化が大きいほどビジネスチャンスも多い、ということがよく分かりました。
田村 変化の時代はチャンスの宝庫です。その芽を見つけるためにも、ぜひ「1.5℃ロードマップ」をご活用ください。