

栗山 1.5℃目標の達成に向け、脱炭素化を経済成長戦略につなげるGX(グリーン・トランスフォーメーション)の機運が高まっています。
伊藤 GXで重要なのはX、つまり変革です。気候変動問題に対応するイノベーション創出が経済成長を促す一方で、この問題に背を向ける企業は生き残れない。経営者はその認識を持つべきでしょう。
栗山 気候変動問題と密接に関わるエネルギー政策についてはどうお考えですか。
伊藤 エネルギーの需給状況は、日々刻々と変化しています。1.5℃目標に向かうトランジションの過程においても、使うエネルギーや需給バランスは段階的に変わっていきます。そして新しいエネルギーの導入には、当然コストがかかります。そのコストに見合ったリターンを得られるよう、固定費を社会全体で配分するなどの政策も必要になると考えます。
栗山 気候変動に対応するには、まずコストの問題を解決しなければいけないと。
伊藤 地球温暖化は、経済的には「市場の失敗」とも言えます。これを是正するには、市場のパワーを使うしかありません。経済活動そのもので脱炭素を促し、それが企業価値につながるような市場を形成するという発想です。非財務情報の開示やグリーンファイナンスなども、その流れの一つと言えるでしょう。いずれにしても、市場のメカニズムを活用して、CO₂削減が企業のコストではなく、メリットとなる仕組みを作ることが重要だと考えています。
栗山 そうした中、企業はどのような取り組みを進めていけばいいのでしょう。「1.5℃ロードマップ」では、短期的な視点としてDXの活用や再エネ推進、長期的には創造的破壊とも言える組織やビジネスモデルの変革が必要だと考えています。
伊藤 今おっしゃった通り、目標を達成するためにやるべきことは見えています。それをやり遂げるには、脱炭素を目指すことが企業にとって当たり前となるモメンタムを醸成しなければなりません。カーボンプライシング、すなわちCO₂排出量に応じた金額負担を求める炭素税や排出量取引などは、そのための仕掛けと言えます。こうした市場の圧力に加え、世界で成長するには排出量の削減が必要、という認識が広がる仕掛けも大事で、グリーンファイナンスはその点で重要です。
栗山 新たなビジネスモデル構築の基盤を整えるにあたって、経営者は何を意識すべきでしょうか。
伊藤 経営者だけでなく、中間層や現場の意識も変えていく必要があります。その点、若い人たちの環境意識は非常に高く、CO₂削減や資源循環につながるものづくりや研究開発は様々な現場で生まれています。経営者の仕事は、それを支援し、マネタイズにつながる仕組みを考えることです。さらに、この意識変容を社内で共有し、企業文化としていくことで、事業活動や人材育成にもポジティブな影響がもたらされるはずです。
栗山 そうした企業が増えることで、社会全体の意識も変わるかもしれません。
伊藤 新しい取り組みは、企業間連携で始まるケースが多くあります。大手から中小まで多彩なプレイヤーが関わって様々なビジネスモデルが生まれる中で、社会の意識や行動の変容も進むでしょう。また、その連携において企業や経営者がどの立場で取り組むかも大事なポイントです。環境への貢献度合いが大きいほど、企業価値にも影響してくるからです。
栗山 取り組みを進めるためには、企業間だけでなく、それを支援する国や自治体との連携も必要となります。
伊藤 気候変動問題解決の鍵は、ローカルアクションにあると考えています。企業や自治体、地方銀行も含めたローカルネットワークの高度化と活用を推進し、相互に知見を高めていくことが重要です。その中で、必要に応じた補助金などの政策的支援もおのずと生まれてくるでしょう。
栗山 今後、日本でも導入が検討されているカーボンプライシングについて、お考えをお聞かせください。
伊藤 企業にとっては、予見可能性が重要です。カーボンプライシングは、じわじわと、しかし確実に上げていくべきもので、政府が掲げる「成長志向型カーボンプライシング」でも、どう実行するか、まさに今議論が進んでいます。企業は近い将来のカーボンプライシングの義務化を見据え、今からしっかり準備をしておく必要があります。
栗山 将来への備えと解決のための道標として、「1.5℃ロードマップ」はどのような意義をもたらすと思われますか。
伊藤 脱炭素社会における変化とチャンスを示した「1.5℃ロードマップ」は、企業が気候変動問題を自分ごととして考えるきっかけとなるツール。IGESさんには、今後も様々な分野に向けたレポートを発表してくれることを期待しています。