SaaSが拓く証券ビジネスの未来

強力なリーダーシップでDXを加速
ITとBPOを組み合わせて効果を拡大

80年の歴史を持つ証券会社の挑戦を支えるパートナーシップ
今年、証券ジャパンは設立80周年を迎えた。長い歴史を持つ同社はいま、DXに注力している。そのパートナーとして伴走するのがJIPである。JIPの提供するシステムとBPOサービスを活用し、証券ジャパンはペーパーレス化、業務の標準化と効率化を進めている。証券ジャパンの綿川昌明社長と、JIP証券事業部担当の野村容啓前取締役、須藤孝幸証券事業部長の3人に両社のパートナーシップ、DXの進め方などを聞いた。(聞き手は大和田 尚孝=日経BP 総合研究所 イノベーションICTラボ所長)
vol.3

長期的な視点でデジタル化、ペーパーレス化を推進

証券ジャパンの事業概要から教えてください。

綿川 昌明氏
株式会社証券ジャパン
取締役社長 綿川 昌明氏

綿川: 当社はちょうど80年前、1944年に設立されました。現在、岡三証券グループの証券会社として、4つのチャネルで事業を展開しています。支店での対面チャネル、ネット取引、東証会員ではない地方の地場証券向けの取り次ぎ、そしてIFA(Independent Financial Advisor=金融商品仲介業、後に詳述)です。最近、従来の証券会社からIFAへの業態転換が増えています。当社はIFA事業の一環として、こうした地場証券の取り組みへの支援も行っています。国内ではこれまで5社がIFAに業態転換し、2024年10月には6社目が予定されていますが、すべて当社がサポートしています。

証券事業において、ITは欠かせない存在ですね。

綿川: 確かに、いまやITなしではビジネスが成り立たない時代になりました。例えば、新規のお客様の口座開設です。かつては、お客様が申込用紙に必要事項を記入し、複写された紙を各部門に送付していました。郵送費だけでも相当かかります。現在、当社におけるこの業務はJIPの口座管理システムに移行しています。デジタル化には費用がかかりますが、長い目で見れば業務の効率化、コストの最適化につながると考えています。

営業担当者は口座開設の際、iPadを使っていますが、iPadは他の様々な業務でも活用しています。フロント業務で紙が残っていれば、それを受け取るミドルオフィスやバックオフィスの業務も紙を扱うことになり、大きな効率化は期待できません。また、紙ベースの業務はBPOなどアウトソーシングサービスとの相性もよくない。当社はデジタル化を進めて業務効率化を進めるとともに、JIPのBPOも活用しています。デジタル化しているので、当社とJIPのBPO拠点がシームレスにつながり、連携して業務を進めることができます。

JIPの野村さんに伺います。証券ジャパンはJIPのシステムとBPOサービスをともに活用しているとのことですが、同じような事例は多いのですか。

野村: ITとサービスの両方に対応できることが、お客様が当社を選ぶ決め手になったという事例は非常に多いですね。私たちは以前から、ITプラットフォームと業務プラットフォームを提供しようと考えてきました。というのは、業務の中にデジタル化できない部分が残ることも多いからです。いまでは、証券業界以外のお客様からBPOを引き受けることもあります。

プロジェクトの方向を修正したトップのリーダーシップ

証券ジャパンのデジタル化、ペーパーレス化について、JIPはどのような形でサポートしてきたのでしょうか。

野村 容啓氏
日本電子計算株式会社 前取締役 兼 常務執行役員
証券事業部・BPO事業部担当 野村 容啓氏

野村: 先ほど4つのチャネルの話がありましたが、当初、私たちはチャネルごと、4つの担当部門ごとにデジタル化を検討していました。デジタル化の対象範囲には、口座開設など様々な業務が含まれます。これに対して、綿川社長から「これでは不十分」との“ダメだし”がありました。

チャネルごとに検討するだけでは、全体としてのまとまりに欠けるとのことでした。つまり、全体最適の視点を持つようにという意味だと思います。そこで、対面チャネルとネットチャネルを統合するプロセスを検討し、これを実現することができました。その結果、ペーパーレス化は大きく進展。JIPとしては、システムと業務フロー(BPO)の両方でこの取り組みを支えています。

JIPの口座開設ペーパーレスソリューションの概要
各金融機関の業態・ビジネスモデル・顧客チャネルに合わせ、柔軟にサービスを選択することが可能
“選べる”JIPの口座開設ペーパーレスソリューション「標準的な業務フロー」を合わせて提供し、金融機関のDX推進をリード

須藤: 大きな変革が可能になったのは、トップのリーダーシップと決断があったからでしょう。プロジェクトの現場にとってありがたかったのは、証券ジャパンの窓口が一本化されたことです。統合的な仕組みづくりに向け、こうした組織体制面の打ち手も非常に有効だったと思います。

全体最適化の方向にかじを切ったことについて、綿川社長にその真意を伺います。

綿川: 各担当部門が「こうやってほしい」といえば、結果として、4つのチャネルごとに4つの業務フローができてしまいます。コストがかさみますし、業務の属人化を招きやすい。ガバナンスの観点からも問題があるでしょう。そうではなく、できるだけ標準的な業務フローを取り入れ、統合的な仕組みにする必要があると考えました。

一般に、従来の業務を変えることに対して、現場は消極的です。DXにおいても、よくそうした話を聞きます。

綿川: 確かに、いままでのやり方を変えることに抵抗感はあったと思いますが、それが混乱につながったわけではありません。私は窓口となる専門部署と密にコミュニケーションをとりつつ、チャネルを横断するシステムづくりの方向性については何度もメッセージを発信しました。一部統一できなかった部分もあるのですが、そこは今後の課題です。

現場の納得感を得ながら改革を進めていくために、経営トップとして心がけていることはありますか。

綿川: 例えば、ペーパーレス化を不便と感じ、「紙のほうがいい」と思っている人もいるでしょう。しかし、会社全体としてペーパーレス化を目指す以上は、まず経営陣が率先して取り組むことが重要です。役員会などの場を含めて、当社ではペーパーレス化を徹底しています。紙はゼロにはなりませんが、できる限りゼロを目指したいと考えています。

DX推進のポイント
経営層、業務統括部門(営業部門/IFA部門/事務部門/コンプライアンス部門/etc.)

JIPはシステムとBPOで証券ジャパンを支援していますが、その伴走の形はどのようなものですか。

須藤 孝幸氏
日本電子計算株式会社 執行役員
証券事業部長 須藤 孝幸氏

野村: 現場レベルでは2週間に1回、綿川社長も出席するステアリングコミッティーを2カ月に1回開催しています。ここで証券ジャパンとJIPの参加者が、方向感や意識、様々な案件の重要度などを擦り合わせます。2年ほど前から、こうしたミーティングを定期的に行ってきました。

須藤: こうした場を通じて、トップの判断とコミットメントが明確に示されます。プロジェクトを推進する上で、このことは大きな効果につながっていると感じます。

人材不足、業務標準化の観点から高まるBPOの魅力

今後、証券業界のDXを加速する上で重要なこと、ポイントはどのようなものでしょうか。

綿川: 特に中堅中小の証券会社にとっては、やはりコストの問題が大きい。いかに低コストでDXを実現するか、DX投資をどのように回収するか。どの証券会社も悩んでいると思います。大手証券は別ですが、それ以外の証券会社はできるだけ共通プラットフォームを活用するという方向が望ましいというのが私の考えです。低コストで使いやすい共通プラットフォームがあれば、それを活用してDXを目指す証券会社は少なくないでしょう。いまでもかなり手作業が残っている証券会社は多いので、DXの効果は大きいのではないかと思います。

これとは別の観点ですが、規制改革への期待もあります。例えば、現状では口座管理の責任は証券会社にあります。JIPのような口座管理システムを運用する事業者がこの責任を持てるようになれば、大幅な効率化が可能になるでしょう。政策に関わる方々には一考を望みたいですね。

BPOについては、どのようにお考えですか。

綿川: 証券ジャパンの社員数は200人強ですが、当社規模の証券会社は積極的に活用すべきだと思います。いま、様々な業界で人材確保は大きな課題です。アウトソーシングではなくインハウスを選択する場合、退職を控えたシニア社員の後任を育てる必要があります。そこにリソースを費やすよりも、営業などの競争領域に注力したいと考えている経営者は多いのではないでしょうか。

野村: BPOは、属人化した業務を標準化するきっかけにもなります。また、人材確保の難しさからも、BPOを選ぶという動きは広がりつつあります。ただし、注意すべき点もあります。現状、BPOが硬直化するケースが散見されます。

例えば、環境変化や新たな技術の登場によって不要になったはずの業務が残っているといったケースです。BPOの委託先で行われていることなので、目が届きにくい面があるのかもしれません。そこで、当社は最近、「BPOをなくすためのBPO」というサービスを試行的に始めました。BPO業務を整理し直すことで、いろいろな非効率が見えてきます。

顧客のニーズに柔軟に対応できるのがJIPの強み

今後の成長に向けて、証券ジャパンとしてはどのような分野に注力していきたいとお考えですか。

綿川: 証券会社はどうしても、株の上がり下がりに一喜一憂してしまうところがあります。ただ、株の売買だけに頼っていたのでは、証券会社の将来は厳しいと思います。

最近は短期的な株の動きではなく、NISAの影響もあって特に20代、30代の若者層を中心に、長期的な視点で株を購入するお客様が増えています。そうしたお客様の長期的な資産形成をサポートする。こうした方向でのビジネスを、さらに強化したいと考えています。

同じような観点ですが、IFA事業はさらに拡充していきたいと考えています。IFA事業者は幅広い証券会社の商品から、お客様に最適なものを選んで提供することができます。お客様の代弁者であり、伴走者でもあります。そのような存在として、お客様との信頼関係をベースに事業を成長させていきたいですね。

IFAビジネスにおける顧客創造の主軸は紹介です。友人・知人を紹介してもらうためには、お客様にサービスなどを満足してもらう必要があります。従来型の証券会社の営業でも紹介はありますが、IFAではお客様満足を徹底させる必要があります。営業の意識変革も求められるでしょう。

JIPとしては今後、日本の証券会社をどのような形でサポートしていくのでしょうか。

野村: 当社は中堅中小の証券会社、フィンテック企業など様々なお客様にシステムやサービスを提供しています。「このサービスだけを使いたい」といったニーズに柔軟に対応できるのが、当社の強みです。フィンテック企業であれば、ケース・バイ・ケースですが「ユーザー接点は自分たちで開発するので、それ以外の部分をJIPに担ってほしい」といった要望が寄せられることもあります。お客様と当社のアセットやケイパビリティーを組み合わせることで、お客様はスピーディーに最適な仕組みを用意することができる。こうした取り組みを進めながら、お客様への提供価値をさらに高めていきたいと考えています。