2050年カーボンニュートラル実現に向け挑戦する企業や事業者の一助に

省エネ・再エネの成果を取引できる「カーボン・クレジット市場」とは?

あなたの会社が、太陽光をはじめとする再生可能エネルギーやLED照明の導入で創出した「CO2排出削減量」を売却できる市場があることをご存じだろうか? 2050年のカーボンニュートラル実現を目指す政府の肝いりで開設された「東証カーボン・クレジット市場」だ。社会的意義が高く、大手企業のみならず、中小企業や農林業者など、あらゆる事業者に門戸を開くオープンな同市場の魅力に迫った。

carbon credit market

カーボン・クレジット市場

CO2(二酸化炭素)など温室効果ガスの排出削減量(カーボン・クレジット)を取引する市場のこと。東京証券取引所が2022年度に実証事業を行い、その成果を受けて2023年10月、日本初の取引所市場である「東証カーボン・クレジット市場」が開設された。

市場開設から約1年参加者は約300者に

菅義偉首相(当時)が2020年に行った「カーボンニュートラル宣言」を受け、国全体のCO2排出量を50年までに実質ゼロとする国際公約を掲げた日本。

その実現のためには、官民や業種、事業規模を問わず、あらゆる事業体がCO2削減のために努力する必要がある。

太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーや、LED照明などの省エネ設備の導入。CO2を吸収する樹木を生育させるため、適切な森林管理を行うことなども、そうした努力の一端だ。

東京証券取引所 カーボン・クレジット市場整備室長 松尾 琢己 氏

東京証券取引所
カーボン・クレジット市場整備室長

松尾 琢己

だが、中堅・中小事業者がどんなに頑張っても、大量にCO2を排出する大規模事業者の削減が進まなければ、カーボンニュートラルは実現しない。

そこで国は、事業者が省エネ・再エネなどによって創出したCO2等の排出削減量を“クレジット”として認証して売買できる制度を08年度に導入し、このとき開始された2つの制度を13年度に「J-クレジット」として一本化した。

「省エネ・再エネを比較的容易に進めやすい大手企業のみならず、中小企業が創出した排出削減量を、進めにくい大規模事業者に売却することで、国全体としてのCO2排出量削減を加速させようというのが『J-クレジット』の狙いです」と説明するのは、東京証券取引所 カーボン・クレジット市場整備室長の松尾琢己氏である。

その「J-クレジット」を取引できる場として、東京証券取引所が23年10月に開設したのが、「東証カーボン・クレジット市場」だ。

市場開設から約1年とまだ歴史は浅いが、市場参加者は、地方公共団体から、各業種の民間事業者まで、計297者にも上っている(24年10月時点)。

これほど多くの参加者が集まったのは、基本的に個人以外であれば、業種や規模の大小を問わず、どんな事業者でも参加できる非常にオープンな市場だからだ。

「政府が運営するクレジット登録簿システムにおいて、取引の決済に必要なクレジット口座を開設できれば、どなたでもご参加できます。クレジットの売却によって、地球温暖化対策への取り組みの収益化や取り組み自体のアピールをしたいと考える事業者の方々は、ぜひ参加をご検討いただければ」と松尾氏は呼び掛ける。

図 東証カーボン・クレジット市場制度概要

2023年10月に開設された「東証カーボン・クレジット市場」。当初の売買対象は「J-クレジット」のみだったが、24年11月に「超過削減枠」が追加された

図 市場参加者の内訳

「東証カーボン・クレジット市場」の市場参加者数は、2024年10月時点で297者。地方公共団体から、各業種、事業規模の民間企業まで、様々な事業者が参加している

マーケットメイカー制度などの流動性向上策を実施

「東証カーボン・クレジット市場」は、22年2月に経済産業省が公表した「GXリーグ基本構想」で、CO2排出権などの「カーボン・クレジット」を取引する市場の必要性が示されたことを受けて開設された。

「GXリーグ」とは、50年のカーボンニュートラル実現に向け、排出量削減のためのGX(グリーントランスフォーメーション)に挑む企業群と官・学が協働する場のこと。24年度時点で、大企業を中心に747者が参加している。

「26年には、GXリーグ参加者による排出量取引制度『GX-ETS』が本格化します。その取引の場を整備する目的で『東証カーボン・クレジット市場』が誕生しました」と、松尾氏は市場開設の経緯について説明する。

同市場を開設した23年時点では、国内で流通する主要なカーボン・クレジットである「J-クレジット」を売買対象として市場取引をスタートさせた。

市場取引により、①取引の流動性向上および②価格公示の機能が期待される。

「市場を介さない相対取引(直接取引)は、売りたい事業者と買いたい事業者のマッチングが難しく、取引が成立しにくいのが難点です。相場が分からないので、提示された価格が高いのか、安いのかも判断しにくい。その点、市場取引なら注文受付時間内であればほぼ常時、売り注文と買い注文が出ているのでいつでも売買可能ですし、相場が分かるので安心して取引ができます」(松尾氏)

これらの機能を高めるため、「東証カーボン・クレジット市場」では、マーケットメイカー制度を採用している。

マーケットメイカーとは、売り手と買い手の間に立ち、一定の値幅で常に売り注文と買い注文を出してくれる市場参加者のこと。その介在によって、他の市場参加者が、より安心して取引できる環境が整うのである。

超過削減枠の取引を開始 2026年の制度本格化に備える

「東証カーボン・クレジット市場」は今後、「J-クレジット」以外にも売買対象を広げ、日本における排出量取引のさらなる活性化に貢献することを目指している。

「GXリーグ参画企業はGX-ETSが本格稼働する26年以降、CO2目標削減量の達成を義務付けられることが想定されていますが、現在、その前段階としてGX-ETSは23年度から25年度は第1フェーズとして試行的に実施されております。この期間中に、目標を上回って削減した参加者が特別に創出する超過分の削減枠を、目標を下回る参加者が買って穴埋めする取引需要が生まれる可能性があります」(松尾氏)

このように、東証では、26年度以降、GX-ETSが第2フェーズである本格稼働を迎えるにあたり、あらかじめ市場を整備するため、24年11月1日にGX-ETSの第1フェーズ(試行)段階の取り組みとして、「東証カーボン・クレジット市場」において「超過削減枠」の取引を開始した。

「当初は毎週金曜日の午後1回の立会のみと、毎営業日の午前・午後に立会がある『J-クレジット』と比べて取引機会は少ないですが、いずれは市場を代表する売買対象になるのではないかと期待しています」と松尾氏は語る。

最後に松尾氏は、「日本のカーボンニュートラルの実現に貢献するため、これからも市場整備に力を入れていきます」と抱負を語った。

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