今や人びとの暮らしに不可欠となったコンビニATM。先駆者のセブン銀行はさらなる顧客満足度の向上を掲げ、「誰一人取り残さないデジタルチャネル」を目指している。その挑戦を支えるのが重要なテクノロジーパートナーである日本マイクロソフト(以下、マイクロソフト)だ。今回、ATM事業を推進する両社の常務執行役員による対談が実現。リアルとデジタルの交差がもたらす可能性について語り合った。

ATMを「社会で最もやさしいデジタルチャネル」に

セブン銀行はコンビニATMの先駆けとして、人々の生活になくてはならない存在となりました。改めて概要を教えていただけますか。

セブン銀行
常務執行役員
ATMソリューション部、ATM+企画部担当
深澤 孝治氏

深澤孝治氏(以下、深澤) セブン銀行は2001年に創業し、今年で24年目を迎えました。「セブン‐イレブンにATMがあったらいいのに」との声に応えて誕生した銀行です。その意志を受け継ぎ、現在は「お客さまの『あったらいいな』を超えて、日常の未来を生みだし続ける。」をパーパスに掲げています。

セブン銀行
常務執行役員
ATMソリューション部、ATM+企画部担当
深澤 孝治氏

おかげさまで、セブン銀行ATMは国内で1日230万人が利用するチャネルにまで成長しました。セブン‐イレブンをはじめ、ショッピングモール、駅、スーパー、空港、高速のサービスエリアなど日本全国に約2万7000台を設置済みです。日々ATMの台数は増えており、単なる現金入出金の機械ではなく、生活に欠かせない社会インフラへと成長しています。リアルの場にユーザーとの接点があるのは大きなポイントであり、セブン&アイ・ホールディングスの一員として「小売×金融」の特徴を生かした事業を展開しています。

一方で昨今はお客さまのニーズ変化の激しさを実感しているのも事実です。そのため、お客さまのニーズに合ったサービス展開をしていくことに注力し、様々な取り組みを進めているところです。

具体的にはどんなサービスでしょうか。

深澤 2023年9月からは「+Connect(プラスコネクト)」を開始しました。メインサービスの「ATM窓口」では、口座開設や住所・電話番号などの変更届、ローン申し込みといった銀行窓口の手続きをセブン銀行のATMで代替できます。今後は保険やチケット、行政サービスなどの手続きも予定しています。

我々はセブン銀行のATMを「社会で最もやさしいデジタルチャネル」と位置づけ、リアルの場でありながら、デジタルで安心・安全かつ簡単にいろいろな手続きができる世界を目指しています。これからもユースケースをどんどん増やしていき、お客さまのATM利用体験も続々とアップデートしていくつもりです。

積極的に新領域に挑んでいる印象がありますが、そうした姿勢はどのように培われてきたのでしょうか。

深澤 セブン銀行は創業時からテクノロジーをフル活用した新しいATM事業運営に取り組んでおります。全ATMをネットワークで接続してデータを蓄積し、データドリブンで事業を高度化、効率化する運用体制を築いてきております。一例ですがATMに装てんする現金の需給予測に機械学習を採用しています。ATMが2万7000台もあると現金管理が非常に複雑になるため、AIで個台予測を正確に行い、現金不足、溢れを防いでおります。さらに、海外ATMの事業展開においてはAIを活用したATM設置場所の予測にも取組み、成果をあげています。こうした事例は豊富なデータをAIに活用している好例です。

当社には、何にでも挑戦してみようという考え方が根底にあります。つまり、お客さまのために新しいテクノロジーを貪欲に採用するマインドは開業来ずっと受け継がれてきたものなのです。この取組み、ノウハウが、ほぼ止まることのないATMの運用に活かされています。

ATMでの顧客体験を高めるために生成AIを活用

テクノロジーのパートナーとして、マイクロソフトとは長い関係ですよね。

深澤 はい。マイクロソフトとは以前から強固なパートナーシップを結んでいます。現在はセンター基盤の大半をクラウドサービスの Microsoft Azure に移行していることもあり、プラットフォーム全般を支えてもらっていると言っても過言ではありません。

今後取り組む生成AIに関しても、当然これからの標準になるだろうとの思いから研究をスタートしています。ただ、新しい取り組みにはやはり課題が生じます。ですから、密にコミュニケーションを重ねながら一緒に課題解決に取り組んだり、新たな価値創造にチャレンジしたりしています。

日本マイクロソフト
執行役員 常務
エンタープライズサービス事業本部長
三上 智子氏

三上智子氏(以下、三上) とくにここ数年は最先端の取り組みをご一緒しています。Microsoft Azure の採用も、次世代のFinTechを実現するうえで最適なソリューションと評価いただいたからです。そうした背景もあり、生成AIの波が来た際にいち早くセブン銀行の松橋(正明)社長がマイクロソフトの米国本社を訪れました。その場で最新技術を体験いただきましたが、「どのようにセブン銀行のサービスに落とし込むか」といった本気の視点でたくさん質問をされていました。

日本マイクロソフト
執行役員 常務
エンタープライズサービス事業本部長
三上 智子氏

今回のプロジェクトでは、強固なセキュリティーで守られた信頼できる Microsoft Azure 上のデータ基盤とシナジーが高いと想定される Azure OpenAI Service(AOAI)を採用いただきました。

セブン銀行が生成AIに着目した理由は。

深澤 生成AI自体は社内でも幅広くユースケースの検討を進めております。今回ATMにおいては、「+Connect」のように、ATMのユースケースを拡大していくにあたり、お客さまにとっても初めての体験が多くなり、操作や手続きに関するお問い合わせが必然的に増えてきます。そこにどうやって迅速に対応していくか。また近年ではチャットボットの様な問い合わせ対応の方法も広く広がっていく中、当社ATMでのお問い合わせの対応も、従来の有人対応以外のやり方も含めて、顧客体験の向上が出来ないかを検討している中で今回、課題解決の1つとして生成AIを有望視しています。

現時点で生成AIの取り組みは進んでいるのですか。

深澤 現在はATMでの顧客体験を高めるために活用できないかをマイクロソフトと一緒に研究している段階です。ATMをご利用いただくお客さまのデジタルリテラシーは均一ではないため、幅広いケースに対応できるように検討しています。

三上 素晴らしいのは、セブン銀行が顧客へ価値提供のために生成AIを活用している点です。ご存知のように、これまでの生成AI導入事例は自社業務の効率化が大半を占めています。もちろん効率化も大事なのですが、顧客価値の創造こそ事業にとって最も大きなインパクトをもたらすものであり、差別化要因になり得るもの。そこに最初から取り組んでいるのがセブン銀行らしいと思います。

例えばどんな研究を進めていますか。

三上 ATM上で動作するアバター(デジタルキャラクター)による接客AIの実証実験を行ないました。ある展示会でデモ披露して100人以上に体験していただきましたが、評判は上々でした。とはいえ研究フェーズですから、様々な意見、指摘が寄せられました。それらを集約しながら次のステップに生かしています。

深澤 我々としては、大きな構想の入口に立っているイメージ。ですからアバターを含めていろいろとトライアルを重ねていきます。いずれにしろ、ATMにおける接客AIは技術的にとてもハードルが高い取り組みになると覚悟しています。その要因は大きく2つあります。

1つは生成AIを使って、どこまで顧客体験が向上するのかということ。インターフォンを手にするお客さまは様々な状況でお問い合わせを行います。生成AIはさすがにお客さまの状況や感情を拾い上げて応対できるレベルにはまだ達していませんから、どこに焦点を当てて設定するかが鍵を握ります。それを踏まえ、顧客体験の適合性に関してはこれから慎重に検証していきます。

もう1つはハルシネーション(もっともらしい誤った情報)の問題です。今回は音声to音声で、生成AIだけで問い合わせに答える事にチャレンジしようとしています。ですのでハルシネーションの解決は避けては通れません。とくに方言も含めて日本語は難易度も高い。この課題解決にマイクロソフトと一緒にチャレンジできることを心強く思います。

新テクノロジーを事業に生かすには、何より「挑戦」が大事

プロジェクトの進め方について教えてください。

三上 推進にあたっては2023年の4月から毎月の定例会議を設け、プロジェクトの進捗や課題などをオープンに話し合える体制を構築しました。細かい実装や技術支援に関しては、現場が週次でミーティングを開いて意見交換しています。

生成AIは日進月歩であり、なおかつ従来のやり方を根本から変えてしまうポテンシャルを秘めています。ただし、どのようにチューニングしてお客さまのニーズに合わせていくのか。そのラストワンマイルが大きな壁だと認識しています。

そこでは、セブン銀行が保有するデータを有効活用していくことが不可欠です。データの分析に生成AIを利用してサービスの精度を高めることも考えられるでしょう。理想の解答に今すぐたどり着けるわけではありませんが、試行錯誤を繰り返しながら学びを蓄積し、よりよいソリューションを一緒に作っていきたいですね。

最後に今後の展望をお願いいたします。

深澤 進化を続けるテクノロジーを事業に生かすためには、何より挑戦することが重要です。とりわけ今の日本にとっては、業務効率化だけではなく、顧客価値の創造に取り組むことが求められていると思います。

しかし、社会を良くしていくテクノロジーの活用は事業会社だけではなし得ず、専門のIT企業とパートナーシップを組むことが有効だと考えてます。お客さまのニーズも刻々と変化していくので、常にアップデートしていくのが我々の務めだからです。あまりに変数が多く何が起きるかわかりませんが、一方でワクワクしています。より魅力ある顧客体験を提供するためにも、まずは生成AIの実装を成功させることが目標です。

三上 マイクロソフトはグローバルの各産業界に技術を提供していますが、セブン銀行の取り組みは日本を代表する事例としても注目されています。2万7000台ものタッチポイントがあり、それが人々の生活に根づいている点がユニークですし、しかも金融と小売が結びつくことでさらなる可能性を示しているからです。

マイクロソフトにとっても非常にやりがいのあるお客さまであり、世界に先駆けた事例として日本から発信していきたいとの思いがあります。これからも真のパートナーになれるように、IT企業の枠を超えたビジネス変革の部分でご一緒していきたいと考えています。

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