日清製粉ウェルナは、日清製粉グループの中の加工食品事業を担う。その日清製粉ウェルナが今、海外展開を加速させている。1955年から「マ・マー」ブランドを展開し、業界の雄として日本のパスタ文化を創り上げてきた同社は、国内で培った技術を活かして、その食文化を今度はベトナムにも広めていくという。すでに1980年代より海外展開を進め、ベトナムにも2013年から進出しているが、そのほとんどがBtoB事業であり、海外での本格的なBtoCへの取り組みは、今回が初となる。根底にあるのは、「日本で培ったノウハウや技術で世界中のお客さまに直接おいしさをお届けしたい」という思いだ。2024年9月、ベトナムのBtoC市場への参入でその第一歩を踏み出した、同社取締役社長の岩橋恭彦氏の狙いと意気込みを、日経ビジネス発行人・松井健が訊く。
小麦粉やお好み焼粉、パスタ、パスタソース、冷凍パスタなど多くのカテゴリーで高い国内シェアを誇る日清製粉ウェルナ。さらなる事業成長に向けて、海外展開にもより一層の力を入れていく。これまでもアジア、アメリカ、ヨーロッパの各国に生産拠点を置き、日本向け製品の製造や現地でのBtoB事業を展開していたが、今後は生活者へ直接届けるBtoC市場も視野に入れる。その第1弾となったのが、ベトナムでのBtoC市場への参入だ。
なぜ、ベトナムなのか。その理由を、同社取締役社長の岩橋氏は次のように語る。「当社とベトナムとの出会いは11年前に遡ります。2013年にパスタソースの生産拠点である『ベトナム日清製粉』を設立。2018年にはから揚げ粉、天ぷら粉、ベーカリーミックスといったプレミックスの生産拠点として『ベトナム日清テクノミック』を立ち上げ、主にベトナム国内向けの業務用プレミックス、日本向けの輸出製品を生産していました。その経験から、ベトナムにおけるものづくりの知見を蓄積できていたことが、第一の理由です」

日清製粉ウェルナ
取締役社長
岩橋 恭彦 氏
「この11年の間に、ベトナムは目覚ましい経済発展を遂げていった。2022年のGDP成長率は8.0%とASEANの中でも群を抜き、2023年には人口が1億人を突破。日本に迫る勢いの人口ボリュームを形成しながら、平均年齢は33.1歳と若く、将来も有望な市場だ。これが、第二の理由となる。
「海外事業を重点施策と位置づけ、本格的なグローバル進出を狙っていた当社にとって、ベトナムはマーケットとしても非常に魅力のある国。その地に2つの製造拠点を有していることと、この10年間の経験値は、我々のアドバンテージといえます。そこで、これまでの知見を十分に活かせる、ベトナムでのBtoC市場への参入を決断しました」(岩橋氏)
だが、日本とベトナムでは生活習慣や食の嗜好も異なり、既存ビジネスをそのまま展開できるとは限らない。そこで、同社は現地にマーケターを派遣し、入念な市場調査を実施。その結果、ベトナム家庭の98%が共働きで、なおかつ週5日以上自宅で調理する世帯が74%にも上ることがわかった。
「ベトナムは、東南アジアの他の国々と比べ、自炊の頻度が突出して高い。ここに、忙しい生活者の簡便調理をサポートする当社製品の活躍の場があると直感しました。日本と同様、ベトナムの時短・簡便ニーズは今後ますます増えていくはずです。そこに着目して、家庭料理をより早く、便利に、おいしく革命するパスタソース、炊き込みご飯の素、プレミックス製品の投入を決めました」(岩橋氏)

パスタソース3種類、炊き込みご飯の素2種類、プレミックス製品4種類を9月より店頭販売。
今後は「早ゆでスパゲティ」も投入する予定だ
初期のラインアップとして、これら3つのカテゴリーを打ち出したのにも理由がある。まずプレミックス製品については、業務用での実績があったことから、家庭向け製品の展開はスムーズに決まった。残る2つのカテゴリーは、ベトナムでの新たな試みとなる。
パスタについては、喫食頻度はそこそこであるものの、都市部を中心に本格イタリアンの外食店展開が進み、パスタ文化に触れる機会も増えてその拡がりを見せている。これに伴い、従来はやわらかいパスタが好まれていたベトナムでも、本格イタリアンであるアルデンテの価値が認められつつあるという。
「ベトナムのパスタ文化は、まだ始まったばかり。かつて我々が日本にパスタを広めたように、今度はベトナムでその文化を育てていきたいという思いから、家庭で手軽に本格的な味わいをお楽しみいただける、3種のパスタソースを今年9月に発売しました。今後は、時短とアルデンテを両立し、日本でも圧倒的な人気を誇る『早ゆでスパゲティ』も展開する予定です」(岩橋氏)
また、炊飯器保有率99%を誇るベトナムの米飯習慣にヒントを得て開発したのが、炊き込みご飯の素だ。
「現地には炊き込みご飯によく似た混ぜご飯メニューがあり、SNSでも様々なレシピが投稿されています。そこで当社として初となる、炊き込みご飯というカテゴリーにチャレンジしました。今回の参入をきっかけに、ベトナムに新しい市場を創出していきたいと考えています」(岩橋氏)


現地の嗜好に合わせて、3種のレトルトパスタソースと2種の炊き込みご飯の素を開発した
日清製粉ウェルナ製品のベトナムでの店頭販売は、2024年9月6日から順次開始された。これを記念し、ホーチミン市内にあるイオンモールでは2日間にわたる販売開始イベントが開催され、フェスティバルのようなにぎわいを見せたという。会場では、新製品の試食や新CMの発表、日清製粉ウェルナの会社紹介などが行われ、2日間で延べ5000名以上が訪れる盛況ぶりだった。

販売開始イベントは、ホーチミン市内にあるイオンモール内催事コーナーに
特設会場を設置して行われた
パスタ、パスタソース、炊き込みご飯の素、プレミックスの各種展示製品は、ファミリー層をはじめ、多くの来場者の注目を集めていた。実際にその場で調理されたパスタや炊き込みご飯を試食した来場者からは、「簡単にできるのに、とってもおいしい!」「こんな製品を待っていた!」などの声も上がったという。

会場ではパスタソースや炊き込みご飯の素を使った調理実演も披露


試食を楽しむ来場者たち。おいしさに思わず笑みがこぼれる様は世界共通だ
また、イベント初日に実施されたプレス発表会には、小売店、卸店、銀行、商社など約40人のステークホルダー、9人のインフルエンサー、約25人のメディア関係者含む計約70人が参加。その様子は、ベトナム全国ネットのHTVのニュースでも取り上げられたほか、インフルエンサーを通じてSNSでも拡散されるなど、大きな話題を呼んだ。


現地のステークホルダーやインフルエンサー、メディア関係者たち約70名を集めたプレス発表会には、岩橋氏も登壇
現地で登壇した岩橋氏は、「ベトナムの方々の熱気に迎えられ、本当にワクワクした2日間でした」と振り返る。「ようやくスタートラインに立てたことを実感するとともに、我々が磨き上げてきたおいしさをベトナムのご家庭にお届けしたい、という思いを新たにしました」
ベトナムでのBtoC参入は、社長就任以来の念願だった。岩橋氏は海外事業を重点施策と位置づけ、2023年4月の就任直後にベトナム進出を決断。5月には現地にマーケターを派遣し、すぐ調査に取りかかった。岩橋氏自身も何度もベトナムを訪れ、マーケットの魅力を肌身で感じながら、急ピッチでプロジェクトを進めていったという。
「ベトナムは、当社にとっても可能性に満ち溢れた国。このチャンスを絶対に逃したくないという気持ちがあったのです」(岩橋氏)
ベトナムの市場に受け入れてもらうために、味づくりにも相当こだわった。マーケティングリサーチを行い、現地で好まれる「おいしさ」を徹底的に追求。生産工場で働く現地従業員の意見も取り入れ、自信をもって提供できるものづくりに努めた。その従業員たちには、発売直後から地元のポジティブな声が続々と届いているという。
「今後もマーケティングリサーチは定期的に実施していきます。それと並行して、現在は家庭訪問調査にも力を入れています。おいしさを提供するだけでなく、キッチンの困りごとを解決していくことも我々の大事なミッションだからです。当社のアイデアと技術力により、お客様の食生活を豊かにするお手伝いを、ベトナムでも展開してまいります」(岩橋氏)

同社の海外進出は、タイにパスタソースの製造子会社として「タイ日清製粉」を設立した1988年からスタートした。その後も、1991年に業務用プレミックスの製造・販売を行う「タイ日清テクノミック」、1996年に米国でのパスタ製造・販売を手がける「メダリオン・フーズ」、2005年には中国で業務用プレミックスの製造・販売拠点として「新日清製粉食品(青島)有限公司」を設立。2013年には、インドネシアで業務用プレミックスの販売を行う「インドネシア日清製粉テクノミック」も本格稼働させている。

「マ・マー 早ゆでスパゲティ FineFast 1.6mm チャック付 結束タイプ」は、独自のFineFast製法により、
本格アルデンテ食感を残しながら1.6mmのパスタで3分のゆで時間を実現
グローバルに展開する日清製粉ウェルナの製品ラインアップは、各国に普及している「天ぷら粉」などのプレミックスを筆頭に、世界に誇る同社の技術力から生まれたものばかりだ。これらの製品群は、すべて「Welna」のブランド名で販売されていた。
「当社は、60周年を迎えた2022年1月1日に、社名を日清フーズから日清製粉ウェルナに変更しましたが、これも将来の積極的な海外進出を見据えてのこと。これまで国内外で蓄積してきたブランド力をもとに、今後はBtoCでも製品の魅力を各国にお届けしていきたいと考えています」(岩橋氏)
同社の次なる挑戦は、「早ゆでスパゲティ」の世界進出だ。これは、独自のFineFast製法により、ゆで時間の短縮とアルデンテの食感を同時にかなえた国内屈指のロングセラーシリーズ。パスタの太さやサイズ、用途ごとに幅広いバリエーションをラインアップし、なかでも「マ・マー 早ゆでスパゲティ FineFast 1.6mm チャック付 結束タイプ」は、日本で一番売れているスパゲティ※2として知られている。※2 出典:インテージSRI+推計販売規模(金額) 2023年4-2024年3月
日本で圧倒的な人気を誇るこの「早ゆでスパゲティ」を、海外にも展開する。海外7カ国の消費者を対象に行った調査でも、「調理の早さ」や「使い勝手のよさ」で高い評価を得ており、勝算は十分にあるという。
「この10月には、欧州最大級の総合食品見本市『SIAL Paris 2024』にも出展し、大きな反響を得られました。『早ゆでスパゲティ』は日本で生まれたユニークな製品です。当社の技術を結集した『早ゆで』を、アジアだけでなく、ヨーロッパやアメリカの市場でも広く展開し、世界の『HAYAYUDE』に育ててまいります」(岩橋氏)
日本からベトナムへ、そして世界へ。同社の挑戦は、日本の食品業界はもちろん、世界でも強いインパクトを与えることになりそうだ。
日経ビジネス発行人 松井 健
「日清製粉ウェルナ」のおいしさとブランドを世界中に広めていく。インタビューを通じて、その強い意気込みがダイレクトに伝わってきました。ベトナムへのBtoC進出は、いわば社長の肝煎り案件。自ら陣頭指揮を執るだけでなく、実際に何度も現地に足を運び、マーケットの手応えを肌で感じながら進めてきたというだけあって、自信の程がうかがえます。日本にパスタ文化を広めてきた同社が、ベトナムでどんな食文化を育んでいくのか。「HAYAYUDE」が世界のキッチンをどう変えていくのか。今後の展開に注目したいと思います。

株式会社日清製粉ウェルナ
https://www.nisshin-seifun-welna.com/