NTTデータはBCE戦略の一環として、行政や民間企業への金融機能埋め込みであるEmbedded Finance(エンベデッドファイナンス)による新しいビジネス創造に取り組んでいる。行政や民間企業の様々なサービス(アプリ)に金融を埋め込んでいくことで、ユーザーの体験が著しく向上するだけでなく、得られたデータによって社会全体のDXが一層推進できるためだ。京都北部ではそれらの取り組みの一環として、民間の地域商社と地域金融機関と連携した観光地域通貨取り組みがスタートした。それが「Tango Pay(タンゴペイ)」である。金融の地域社会への埋め込みで地域DXはどの様に進展するのか。Tango Payの取り組みとその将来像について、サービス提供元の丹後王国ブルワリーの中川 正樹氏と、NTTデータの青柳 雄一氏に話を聞いた。

株式会社丹後王国ブルワリー
代表取締役
中川 正樹氏
―地銀と連携した民間初の地域通貨という全国でも珍しい取り組みですが。その背景について教えてください。
中川京都北部地方は天橋立などの有名な観光スポットはあるもの、京都市街からの距離も離れており、更なる観光客誘致に向けて色々な施策に取り組んでいましたが、なかなか効果が見えにくい状況でした。一番の近道は一度ご来訪された観光客の方にリピーターになっていただくことなのですが、そもそも、来訪された方がどの様な行動をされているか全くつかめていませんでした。OTA(Online Travel Agent:オンラインで事業を展開する旅行代理店)などの情報でどこに宿泊いただいたかは分かるのですが、どこのアクティビティを楽しまれ、どこでアクティビティを楽しみ、お食事をし、お土産を買われているか…という情報がほとんどありませんでした。
また、QRコード決済などの情報も加盟店ごとの情報は分かるのですが、それぞれの行動の点と点をつなげて線として分析することができませんでした。そこで観光データを取得して、それを分析した上で来訪客増加につなげるマーケティング施策を実施するというPDCAのサイクルを回すために一番有効な施策として地域通貨が浮上しました。
しかし、地域通貨を自らで構築するのは容易ではなく、日頃からお付き合いのある京都銀行に相談したところ、NTTデータの地域向けBaaS(Banking As a Service:銀行機能をサービスとして提供すること)サービスと地域DXアプリを紹介されて、「これだ!」となった次第です。
―NTTデータではなぜ、地域通貨に取り組んでいるのでしょうか。
青柳当社ではBCE戦略を軸にして、金融を社会実装することで、多くの人の生活体験をより向上するEmbedded Financeのアプローチを強化しています。これまでは金融は金融機関に行かないと受けられなかった訳ですが、スマートフォン、アプリの発展により、サービスの中に金融が溶け込んでいき、気が付けば金融を使っているという世界が到来しています。そういう意味では、既に生活の至る所にBaaSのアプローチで金融機能を埋め込んできたわけです。そうしたユースケースの1つが地域通貨だと理解しており、単に地域通貨のソリューションをプロダクトアウト(作り手側の論理)で展開している訳ではありません。
また、地域通貨は地域の生活と密接にリンクしており、どういう属性の人がいつ、どこで、いくら決済したかのデータがリアルタイムに取得できます。金融を生活に埋め込むことで、これまで取りにくかったデータが取得できる様になるのも大きな特徴だと思います。
中川まさに私達がやりたかったのも、地域通貨の決済データから得られるインサイトによる新しい観光施策です。地域ではまだまだ自力でマーケティングが出来る企業は限られていますが、地域通貨によって自らのビジネスのデータが可視化されれば、それを生かした次の展開も色々と考えられると思いました。
図1 生活に溶け込む金融
従来の銀行Faceの金融に加えて、行政、流通・小売などのフロントサービスに金融が組み込まれることによって、生活者のユーザー体験が一層向上していく
―地域通貨「Tango Pay」のコンセプトについて教えてください。
中川私達はもちろん、京都北部の観光振興の先駆けになろうと思ってこのTango Payを立ち上げた訳ですが、このモデルを他の地域でも有効活用出来ればと思っています。そういう意味で私達はこのモデルを「ロー通貨モデル」と呼んでいます。ローとは「roll model(ロールモデル)」、「Local(ローカル)」、「low price(ロープライス)」にちなんでおり、地域が持続的に発展するためのお手本になれればと思っています。
またTango Payを観光目的だけではなく、京都北部にお住いの住民の方の生活体験向上にも活用できればと思っており、地元交通機関や近隣自治体との連携を考えています。既に、地元交通機関とは、交通情報をアプリのプッシュ配信で流すなどの連携を行っています。
図2 Tango Payの全体像
観光データの活用でインサイトを得て、新たなマーケティング施策を打つことにより来訪客を増加し、観光収入を増やしていく取り組み
―なぜ地元金融機関である京都銀行と連携しているのですか

株式会社NTTデータ
金融戦略本部
金融事業推進部 部長
青柳 雄一氏
青柳私達は地域DXを推進するに当たっては、地域で非常に大きなプレゼンスを持つ自治体や地域金融機関の参画が必要不可欠だと考えています。自治体/地域金融機関/住民/地元企業の四者の持つデータの活用が促進されることで、地域DXが加速していくからです。このようなForesight(未来への展望)を掲げて、色々な地域金融機関を回らせていただきましたが、京都銀行様にはこのForesightにとりわけ強く賛同いただきました。単に自治体にセールスに回っていただくだけでなく、地域通貨サービス基盤の提供主体としても対応いただいており、地元の支店網も生かした形で地元企業様とFace to Faceでの地域金融機関ならではのきめ細かなサポートをいただいています。
中川地元の多くの企業が融資など何らかの形で京都銀行と関係があります。また、支店が地元にありますので、困った時にはいつでも足を運べるというメリットがあります。また、細かい課題についても直接相談を受けていただけるという信頼感は大きなものがあります。加盟店開拓や加盟店契約も京都銀行が提供する仕組みを活用させていただいている上、メインの決済では銀行口座チャージ、クレジットカードチャージについても京都銀行、京銀カードなどの京銀FGの関連企業に全面的にサポートいただいています。
―サービス開始から半年がたちましたが、手ごたえはどうでしょうか。
中川昨年度は実証実験という建付けで実施しており、本年度(2024年4月)から本格的に展開しています。参加する加盟店、ユーザー共に高齢者も多いので、アプリ型の地域通貨が受け入れられるかどうか非常に心配だったのですが、現在の所は大きな問題は発生していません。夏の海水浴シーズンに向けて、観光客の皆さんに幅広くご活用いただける様に様々なキャンペーン施策を検討しています。例えば、駐車場料金の支払いでTango Payを活用すれば、地元企業側は来訪データ、観光客はキャッシュレスでの支払いで双方にメリットがあるのではないかと思っています。
そうやって得られたデータを上手く活用して、冬の観光シーズンに向けて、色々なマーケティング施策を考え、PDCAを回していくというアプローチを地元横断でできればと思っています。
青柳徐々に色々なデータが取れており、これをどの様に分析して新しいインサイトを得るか、社内でも色々と議論している所です。また、決済以外も観光・交通情報などの配信、クーポン配信などもかなり活発に実施されており、メディアとしての利用が伸びている印象です。自分自身もTango Payの1ユーザーとして利用していますが、イベントを含む色々な情報が得られて、京都北部地方に関する自らの興味関心がこれまで以上に高まったと感じています。
―地域通貨の先にある未来像について教えてください。
中川今回のTango Payについては、先程お話した通り最初のスタートは観光客をターゲットにした観光地域通貨となっています。しかし、色々とNTTデータと議論していくと、これが単なる観光地域通貨に留まらず、地域のDX推進を実現するインフラであることが良く分かってきました。地域における決済データの一元把握だけでなく、情報配信やマーケティングにも活用できる訳です。Tango Payを軸に地域全体のDXが推進出来るように、近隣自治体の皆さんとは色々なディスカッションを重ねている所です。
青柳よく言われている話ではありますが、高度経済成長期の人口増加期と現在の様な人口減少期についてはインフラの立ち位置が異なります。人口増加期は多少の無駄があっても、自助でインフラを構築できていた訳ですが、人口減少期はそうではありません。道路などの公助のインフラに加えて、様々なプレイヤーが協力して作り上げていく“共助”のインフラによって、「供給が需要に合わせる」社会=Smarter Societyを作っていくことが重要だと思います。地域通貨のインフラは正にこの入り口になり得ると私は思っています。
図3 Tango Payを活用した地域DXプラットフォーム
旅行者が利用する地域マネーだけでなく、自治体/地域金融機関/住民/事業法人が利用する地域DXプラットフォームとして活用することで、地域のデータを活用した行動変容につなげていく
―このインフラは誰でも参加出来るのですか。
中川もちろんです。京都北部の二市二町がメインターゲットではありますが、事業者、自治体、金融機関など、垣根無く参加いただくことができます。それ以外の地域については、Tango Payのノウハウを連携させていただく、京都銀行、NTTデータのサービス基盤を提供いただくなどの対応も可能だと思います。
青柳既に多くの地域で自治体や地域金融機関からお問い合わせをいただいています。単一の自治体で導入するパターンもありますし、複数の行政区域に跨るサービスを地域金融機関様自らがサービス提供されるパターンなど色々なお話があります。ビジネススキームは色々な形がありますが、重要なのは地域の主要なステークホルダーが手を取り合って、地域の未来を考えていくことだと思っています。NTTデータとしては、金融機能の社会への埋め込みを起点に、地域の未来を考えていく伴走ができればと思っています。
―最後に今後の展望を教えてください。
中川「ロー通貨モデル」で京都北部エリアの地域のDXを推進することに加え、同じ様に地域の未来を考えている各地のプレイヤーと連携を進めていければと思っています。Tango Pay自身のレベルアップはもちろんですが、パソナグループのネットワークも生かして、この仕組みを幅広い地域で使っていただける様になっていければと思っています。
青柳NTTデータは金融機能の埋め込み=Embedded Financeを起点にして、当社の顧客である地域金融機関と連携して、日本全国における各地域のDXを推進していきたいと思っています。今後もBCE戦略を踏まえつつ、行政や事業法人と金融の掛け合わせによるクロスインダストリーな金融の姿を広げ、みらいの社会をつくる一翼を担えればと思っています。