日立ソリューションズ

日立ソリューションズのSXプロジェクトが実際にどう進んでいったのかを見ていこう。大まかな流れでいうと、21年度に前段階として全体計画を検討、プロジェクト初年度の22年度に新MVVを策定し、23年度にはマテリアリティの策定と無形資産の整理と管理指標の設定を実施した。
「MVV策定で最も重視したのは、10年後や20年後の社会の姿を想定し、バックキャストでフィロソフィーを導き出すことでした。全社員を巻き込むために工夫したのは、インプットとアウトプットを意識したことです」(野田氏)
野田氏によると、PwCコンサルティング等から外部有識者を招いて、インプットとしての勉強会、アウトプットとしてオンラインでのパネルディスカッションを開催したという。これにより、知見の共有や活発な意見交換が進んだ。また、旗印であるMVV策定と同時に、既存事業の提供価値拡大のためのSX投資枠を設けたり、社会課題の解決に貢献するアイデアを全社的に募集するアイデアソンを実施したりと、SXを現場に浸透させるための具体的な施策も並行して進めた。
約半年をかけて検討し、最終的に確定した同社のMVVは以下の通りだ。
出典:日立ソリューションズ「サステナビリティ・アクションブック 2023」
未来からのバックキャストで検討を進めた日立ソリューションズのMVVは、未来を見据えた視点とともに、社内外の多様なステークホルダーとの「協創」がビジョンに掲げられている。社内の部署やポジションを超え、全社員を巻き込んで検討が進められたこのMVV自体が協創の象徴でもある
このMVVを基にしたマテリアリティの策定も、日立ソリューションズ独自の方法で進められた。
「マテリアリティは世の中で求められているESGのテーマから評価・選定していく手法が多いですが、当社が、どのような存在であるべきか、どのような価値を提供できるのかを考えるという意味で、国際イニシアチブを参考にしつつも、自分たちを中心に置くことがより重要であると考えました」(野田氏)
これは、マテリアリティの本来的な意味を考えたときに重要なポイントだと、髙梨氏は語る。
「マテリアリティは経営における重要課題を指すので、ビジョンと現在地とのギャップです。MVVの達成のために自分たちがどんな価値を提供していたいのかを解像度を上げて描き、それを実現するために何が足りないのか、そのギャップを埋めるためにはどんな言葉で表現すれば良いのかを考える作業が必要でした。また、その検討に際しては、顧客や協創パートナー、採用パートナー等の重要な外部のステークホルダーからの視点や期待値もしっかりとインプットとして取り込みました」(髙梨氏)
若手を中心としたワークショップを繰り返して出てきた膨大なマテリアリティ候補を、PwCコンサルティングが定義したフレームワークをもとに議論を重ねて収斂させ、ワーディングを研ぎ澄ましていった。
「若手中心の自由な議論により、多様な視点で数多くのテーマが創出されたため、まとまるかどうか心配でしたが、このフレームワークで構造化ができ、まとまりやすくなりました。最終的にマテリアリティは4分類11項目になりましたが、PwCコンサルティングから提案いただいた4分類は、単なるジャンル分けではなく、それぞれの相関関係が可視化されていたのでしっくりきました」(野田氏)
日立ソリューションズのマテリアリティの分類は、事業として社会に貢献する「提供価値」、そのために必要な手段としての「協創」と「技術」、これを支えるDEIも含めた「人・組織」、それらを実現する環境として国際イニシアチブの要請も考慮した「経営基盤」という位置づけとなっている。
日立ソリューションズのSXプロジェクトでもう1つ特徴的だったのが、若手社員から経営幹部へのプレゼンテーションだ。
「今回ボトムアップ型のアプローチを取っていますが、経営幹部や事業部長と何度も議論を重ね、経営幹部や事業部長の視点や思いをしっかりと入れ込んでいます。また、全社員アンケートも行い、社員一人ひとりの意見も参考にしました(回答率:約90%)。また、若手や中堅の次世代リーダーが形にしたMVVやマテリアリティを経営幹部に提言する際、通常なら我々のような事務局が間に入るのが一般的ですが、今回のプロジェクトでは、熱量を持って考えたメンバーが直接提案し、幹部との意見交換を実施する方式をとりました」(野田氏)
経営層や事務局だけで決めるのではなく、全社員を巻き込んで進めるという当初の考え方に最後までこだわった形だ。
ワークショップによるMVVとマテリアリティ策定の過程で、人的資本、社会関係資本、そして知的資本の3つが無形資産として重要であることも特定した。SXプロジェクトは現在、実行フェーズへと進む段階に来ていると野田氏は話す。
「現在、日立ソリューションズは27年度までの次期中計の策定に入っています。今回のSXプロジェクトの成果であるMVVやマテリアリティも当然ここに反映されることになります。これまでの中計は財務指標を中心とした3年間の計画でしたが、経営とサステナビリティがつながったことで長期視点と中期視点の相互の関係が可視化されたため、長期的なゴールを目指す中で非財務指標も含めてどのような3年間にすべきなのかを示した上で、企業活動、事業活動を通じてSXを推進することになると思います」(野田氏)
2021年度の全体計画からMVV策定、マテリアリティ策定、無形資産の特定と進んできたSXプロジェクトは、27年度までの中計に反映され実行フェーズに入る。「今後もサステナビリティ関連の海外動向や新たな潮流をキャッチアップし、適宜反映していきますので、PwCコンサルティングには引き続き期待しています」と野田氏。
今後は、指標や目標設定を現場に落とし込んだり、具体的な協創のスタイルを探ったりといったことが課題になってくると野田氏は語る。
「多くの日本企業にとって、サステナビリティを経営や事業とどう統合するかは大きな課題になっていると感じます。例えば中計策定においては、従来の実績ベースのフォーキャスト型アプローチに加えて、長期的な変化の仮説に基づくバックキャスト型アプローチで、今後身につけるべき強みを習得する活動(無形資産の蓄積)を取り入れることが重要になってきます。さらに、計画策定後には実現手段として、ビジョンの実現に向けた経営基盤の構築(非財務指標を含めた経営管理の仕組み化、人材採用・育成・評価制度の再構築など)も必要になります。
日立ソリューションズの取り組みでは、MVVからマテリアリティ、無形資産まで一貫して策定を行い、それらを中計に組み込むといった一連の流れを通じて、経営層のコミットメントと現場の熱い思いをつないだことが成功要因だったと思います。また、自分たちの思いが具現化したMVVやマテリアリティを外部に発信し、共感を得ることで、有望な人材の獲得や協創パートナーとのつながりも生まれると思います。今後、価値創造経営へのトランスフォーメーションを目指す企業にとっても重要なヒントになるのではないでしょうか」(髙梨氏)