


河北ライティングソリューションズがSAP ERPの導入を決定したのは、フィリップスから独立して10年がたった2016年のことであった。
その2年前に就任した今野社長は、独立後も、社内のシステムがMRP(生産管理システム)のみであることに大きな課題を感じていた。
「フィリップスの工場だった時代は、必要なものを、必要なときに、必要なだけ購買・製造するためのMRPで十分でした。しかし、独立して工場から会社に生まれ変わったのですから、モノづくりだけでなく、経営全般を管理できるシステムに置き換えるべきなのは言うまでもありません。そこで、独立から10年経ったのを機に、長年使い続けたMRPをERPに刷新することを決めたのです」と、今野氏は導入の経緯について振り返る。
数十年使い続けてきたMRPには、いろいろと問題もあった。新しい製品を請け負うたびに機能の追加を重ねてきた結果、システムが複雑化し、負荷も重くなっていたのだ。
しかも、追加された機能の中には、特定の社員しか使い方がわからないものが多く、その社員の不在時には処理できないという“属人化”の弊害が顕著になっていた。
さらに、情報共有や意思決定のスピードにも大きな問題があった。開発や受注、購買、製造、品質管理、在庫、販売などの情報は、それぞれの部門がシステム上に登録していたが、すべての情報を一元的に収集して分析するのは難しく、経営判断や意思決定に遅れが生じることも珍しくなかったのだ。
「最たる例が月次決算でした。MRPを使っていたときは、各部門の決算データを収集して統合するまでに1週間近くかかっていました。これでは、お客様ごとの受注動向や材料の購買動向などを把握するタイミングが遅れるので、タイムリーな施策が打てません。市場ニーズの変化は時代とともに目まぐるしくなっているので、従来のシステムのままでは、どんどん時代に取り残されてしまうという危機感を抱いたのです」(今野氏)
そこで、新たなシステムの導入に当たっては、開発から販売に至るバリューチェーンのすべての情報が一元化され、会計システムともシームレスにデータ連携するものを採用することにした。いくつものERPシステム候補を比較検討した結果、同社の理想に最もかなっていたのがSAP ERPであった。
今野氏はSAP ERPの選定理由について、「フィリップスはSAPを使用していたので、同社の工場だった時代から、経営管理に最適なシステムであることは認識していました。しかも、SAP ERPは製造業においてグローバル、国内共に豊富な導入実績があり、ユーザーの約80%は中堅・中小企業だということを知って、当社にも導入できるのではないかと確信を持ったのです」と説明した。
丘の上にある本社からは石巻を一望できる

今野氏は、SAP ERPの導入に当たって、社内にプロジェクトチームを立ち上げた。IT部門のメンバーはもとより、各事業部門からも2人ずつプロジェクトメンバーを任命し、“全社プロジェクト”として活動を展開した。
各部門の社員も参画させたのは、「新システム導入を機に、部門における仕事のやり方を棚卸しし、効率化を推進してほしい」という思いがあったからだ。
「SAP ERPには、世界中の製造業における業務の知見を基に『Fit to Standard』、標準にかなった設計が施されています。従来の仕事のやり方に合わせてシステムをカスタマイズするよりも、SAP ERPの標準機能の中から必要なものを組み合わせて使うやり方に合わせたほうが、効率的な作業が実現すると考えたのです。慣れ親しんだやり方を捨て、新しいやり方を採り入れるのには何かと抵抗があるものなので、社員のチャレンジ意欲を高める“意識改革”の意味合いも持たせました」と今野氏は振り返る。
企業として成長を続けるには、無駄な業務を極力排除し、社員に最大限のパフォーマンスを発揮させることが不可欠である。河北ライティングソリューションズの直近の売上高が、SAP ERP導入前の約30億円から約50億円に急増しても業務に混乱や支障が出なかったのは、「Fit to Standard」に基づく業務効率化の効果も大きかったと言えよう。
もちろん、生産計画から会計に至るすべてのデータが一元化され、経営状況がリアルタイムに“見える化”したことも、同社の成長を大きく後押しした。
「以前は1週間かかっていた月次決算が、わずか数日で確認できるようになりました。経営判断や意思決定がスピードアップしたのはもちろん、各部門長や現場の社員たちも、権限に応じてリアルタイムな経営情報を確認し、自分たちの業務が販売実績やコストにどう影響しているのかといったことが分析できるようになりました。経営層も現場も、数字の変化を見ながら、すぐに手を打てるようになったことが画期的な進化だと思います」と今野氏は評価する。
「身の丈に合わないのでは?」と危惧されたSAP ERPの導入であったが、8年近くたった今となっては、事業規模も拡大し、スケールに見合った投資となっている。
「5年後、10年後の成長を見据えて、導入に踏み切ったのは正解でした。当社のお客様も大部分がSAP ERPを導入しているので、“共通言語”で対話ができるのも、導入して良かったと感じる点です。今後は、新たな製品の投入等によって増えるデータを効率よく処理し、BCP対策を図るため、システムのクラウド化を推進していきたい」(今野氏)
ちなみにSAPは、河北ライティングソリューションズのような中堅・中小企業がERPをより早く導入し、より効果的に活用できるように支援するクラウドERP「GROW with SAP」というソリューションも提供している。同社のように、将来を見据えて業務の効率化や経営情報の“見える化”を実現したいと考える企業は、利用を検討してみてはいかがだろうか。

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