製造系の中堅中小企業では稼ぎ頭である主力製品に集中するあまり、個別最適のワナに陥ることがある。特に成功体験を持つ企業ほど、そこからの脱却に苦労している。絶え間ない変革が求められる時代の中でビジネス基盤をアップデートしていくことは簡単ではない。主力製品の将来性が絶たれ、会社存続のピンチを迎えたファインネクスは、SAPのERP(統合基幹業務システム)を導入し経営の変革につなげた。同社の取り組みは多くの企業に役立つはずだ。

富山県舟橋村は、日本でもっとも面積の小さな基礎自治体。ここに本拠を置くファインネクスは、金属線材加工、電子部品製造を手掛ける中堅中小企業だ。冷間鍛造加工に高い技術力を備え、2010年代前半にはパソコンのCPU(中央演算処理装置)などに多用されたPGAピンの生産で世界シェアトップを獲得した実績を持つ。
だが、高性能化と高効率化への要求が厳しいIT業界では、技術や規格の変遷も激しい。CPUメーカーがPGAに変わる新たな規格への移行を表明したのに伴い、PGAピンの需要は減少し続け、現社長の松田竜彦氏が就任した15年には、PGAピンの売上高は全盛時の1/10程度にまで落ち込んでいた。もっとも、主力製品の市場が消滅するというピンチを迎える以前から、ファインネクスでは経営を改善するための模索はスタートしていた。
「社長就任以前から経営を見える化したい、という思いは強かった。各種システムの老朽化という課題もあり、仮にPGAピンの問題がなかったとしても、抜本的な改革は不可避だと考えていた」と松田氏は当時を振り返る。
ファインネクス 代表取締役社長
松田 竜彦 氏
松田氏が経営の見える化を望んでいた背景には次のような課題があった。当時のファインネクスは、製造はもとより、購買や営業など各部門の運営方針を重視する個別最適が過ぎるあまり、会社全体の状況を正しく把握できていない状態だった。個別最適による弊害の一例を挙げると、バリューチェーン間の情報がデータとして共有されていなかったため、製品原価や注力すべき製品がわからない状態になっていたのだ。こうした課題に加え、主力製品の市場消滅は、経営改革を急ぐモチベーションとなっていた。

個別最適の弊害はシステム面にも顕在化していた。情報システム課課長の西山伸広氏は次のように話す。
「同じ製造部門でも圧造工程とメッキ工程で異なるシステムが稼働していたなど、各部門単位でシステムが完結しており、データ連携どころか分断されていたに等しかった」
ファインネクス
経営企画部 情報システム課 課長
西山 伸広 氏
これでは製造原価や販売価格の妥当性も疑わしく、経営判断の材料にはなり得ない。他にも現場での工程管理には有用だったが原価管理機能が貧弱であること、最新のOSに対応できず機能拡張が困難など、基幹システム老朽化も含めて様々な課題を抱えていた。
では、単なるシステム刷新という視点で、松田氏が目論んでいたような経営に資する効果を得ることができるのか。松田氏が望んでいたのは、データという横串で全社を通貫させること、つまりデータドリブンによる全体最適の経営だ。この点について、当時、ユーザー部門代表の立場からプロジェクトに関与した執行役員支援本部経営企画部長の宮森 誠氏は次のように話す。
「生産管理パッケージや統合業務パッケージも検討したが、いずれも原価計算、会計の機能が不十分だった。それでは個別最適からの脱却は難しい。原価の見える化を中心に、製造から会計まで一気通貫の全体最適を実現するという視点から見れば、選択肢はSAPのERPしかなかった」
松田氏の社長就任から約2年。SAP ERPの導入が決定し、17年3月に導入プロジェクトがスタートした。