日本一小さな村から世界一へ 全体最適経営を実現

トップを含めた三位一体で導入プロジェクトを推進

プロジェクトに際して宮森氏は以下の方針を徹底したという。

「アドオン開発はしない。製造業以外の人には簡単と思われるかもしれないが、原価を正確に算出することは実は非常に難しい。当社の業務事情に合わせたアドオン開発を実施すれば、会計まで通貫するロジック構築やその検証が必要。それは当社規模のリソースでは不可能に近い」

ファインネクス
執行役員 支援本部 経営企画部長
宮森 誠

その点、業務プロセスの世界標準にして“教科書”ともいえるベストプラクティスが実装されるSAP ERPを導入する以上、その“教科書”にのっとって業務プロセス自体を組み替えたほうが効果が得られるとの判断だった。

また、全体最適に向けて業務プロセスを改変する以上、トップダウンで進めないと社内の合意形成は困難なことから、社長の松田氏、製造部門、情報システム部門の三位一体による体制でプロジェクトは進められることになった。

丁寧なコミュニケーションで社内に浸透

導入プロジェクトはほぼ1年をかけて進められた。その間、社内に対しては朝礼などを通じてSAP ERP導入の意義や全体最適による経営の見える化の必要性などについて、丁寧なコミュニケーションを重ねていった。また先行してSAP ERPを導入していた企業を、松田氏自らが訪問してヒアリングを重ねるなど、情報収集も積極的に行ったという。

そして18年4月1日、システムは稼働を開始する。直後には混乱もあったという。

「以前のシステムでは使ったことがない項目を入力しなければならなくなったのだから無理もないが、入力工数の増加による負荷は小さくはなかった」と宮森氏は説明する。だが、経理部門の女性社員からは「数字を突き合わせる仕事がなくなって業務効率が上がった」という声が早々から上がるなど、SAP ERPは徐々に効果を発揮していく。

経営の「型」をもたらしたSAP ERP

稼働開始から6年が過ぎた今、SAP ERPはファインネクスに次のような成果をもたらしている。

まず、品目別の実績原価計算により、黒字・赤字製品が把握できるようになった。これにより注力すべき製品や販路、価格などをデータで検討しながらの経営が実現した。松田氏が望んだ経営の見える化がまさに達成されたわけだ。また、製造工程のすべてを一気通貫で管理できるようになったことで、仕掛品、半製品や在庫など、進捗や在庫状況も部門横断で把握することが可能になった。個別最適の弊害だった電話連絡による確認作業も激減した。

さらに、かつては期末の棚卸業務のための工場計画停止が年に1〜2日あったものがゼロになり、SAP ERPによって業務が標準化されたため製造部門間でのローテーション、特に繁忙期の注力製品への応援増員などもやりやすくなった。執行役員会議などでは全役員がデータをベースにした会話をするようになるなど、導入検討時には予測していなかったような副次的効果も出ているという。

これらの積み重ねによって、PGAピン市場で世界トップシェアを築いていた時期と同じ規模の年商を維持している。それまで確たる経営の「型」がなかったファインネクスに、世界標準の経営の「型」をSAP ERPがもたらしたと言えるだろう。

さらなる付加価値、生産性の向上を目指して

今後の展望としてはクラウドERPへのスイッチを検討しているという。

「SAP ERPによって経理部門の仕事の中身も大きく変わった。これをより推進し、予実管理の精度を高めるようなものにしていきたい。最新のクラウドERPはAI(人工知能)の活用でその領域を強化できるのではないかという期待がある」と宮森氏は話す。ファインネクスは、SAP S/4HANA Cloud Public Editionと、SAP S/4HANA Cloud Private Editionのどちらが自社に適しているのか検討を進めている。

導入時の「Fit to Standard〜システムに業務を合わせる」という考え方は、すでにアドオン開発をせずにSAP ERP導入を成功させ、全体最適を果たしているファインネクスに適している。

「データに基づく全体最適の経営、その下地がSAP ERPで構築できたと考えている。次世代ERPにバージョンアップするなら、投資に対する効果としては時短や効率化だけでなく、さらなるリードタイム短縮や在庫の削減、業績の見える化の推進と業務への活用、並びに仕事の計画的廃棄と創造等、数字による科学的なものづくりを推進し、真の開発型企業へと成長していきたい。AIが我々の気づけていないインサイトを示し、会社全体の付加価値スループット向上や生産性である時間あたりの付加価値額の向上、働き方そのものの改善を行い、新システム投資額以上の会社利益やメリットにつながるようなものを期待している」と松田氏は語った。

高精度が求められる半導体や自動車用の圧造・複合パーツにおけるミクロン単位の製造加工技術はファインネクスの得意分野のひとつ
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2024年9月12日に取材したものです。
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