革新を迫られる日本企業のカギとは リーダー自らが先頭に立ちカーボンニュートラル実現に向けた組織変革に取り組み始めた東京電力の事例に迫る

  • IMD教授 
    一橋大学名誉教授

    一條 和生

  • 東京電力ホールディングス株式会社
    常務執行役/最高情報責任者(CIO)
    最高情報セキュリティ責任者(CISO)

    関 知道

  • Scaled Agile-Japan合同会社
    ストラテジックアドバイザー、SPCT

    中谷 浩晃

バブル以降株価が最高値を上げつつも、国際競争力が著しく低下している日本。日本企業はこの事態にどう対処すべきか。リーダーシップ論の権威であるIMD教授・一橋大学名誉教授 一條 和生氏と、組織変革に挑む東京電力ホールディングスCIOの関 知道氏、同社が導入した革新的なフレームワーク「SAFe®」を提唱するScaled Agile-Japan合同会社の中谷 浩晃氏の3者が企業の組織改革をテーマに鼎談した。

予測不能な現代で、
国際競争力強化に必要なことは

一條 和生 氏

IMD教授 一橋大学名誉教授

一條 和生

一條 企業が想定外の変化に遭遇した際に、アジャイルに企業全体を転換できるかが問われます。アジャイルとは、単にスピードの問題ではなく、戦略の転換や軌道修正を伴います。組織全体を変えねばなりません。日本企業の多くは業務プロセスはリーンであっても、組織を変える変革力に問題を抱えています。リーンなプロセスがアジャイルさを伴った時、組織はレジリエント(危機に直面しても粘り強く変革し、それを克服する)になれます。そこが国際競争力強化の鍵を握ると思います。

ITテクノロジーの急激な進展に日本は追従できていない。欧米と比較して日本はキャッチアップが遅い。日本では新たな提案をすると「国内事例は?」と聞かれたりしますが、それを待っていたら間に合いません。日本の世界競争力が著しく低下し、IMDのランキングで35位になってしまったのは俊敏性の欠如が要因。そのようなマインドセットの問題に、経営としてどう対応するかがまさに重要なのです。

中谷 20世紀は大量生産大量消費型の社会で、ルーティンワークが多かったので、人を駒のように動かして、同じものを作っていけばビジネスが回る時代でした。21世紀は不確実性の時代で、自律性が必要ですが、働く側は管理されて仕事をするのに慣れてしまっています。しかし、本来人間は生まれながらに必ず自主性をもっています。幼児は自分の意思で勝手に動き回るのに、いつしか「指示されないと動きません」となる…。変化が激しい現代には指示待ちではなく、人間本来の自律性を重要視すべきです。仕事のやり方を変え、本来持ち得ている自主性を呼び起こす必要があると考えます。

一條 IMDで「先端のAIを研究している講師がワークショップをやります」とお知らせすると、欧米企業なら「面白そう。参加します」となりますが、日本企業だと「誰が出るのか、どの会社が参加するの?」など、周囲を気にします。本来は面白ければ参加すればよいのです。横並び主義で世間を気にしている以上、独自の競争力は磨かれません。自主性、独自性の追求が求められます。

第2次大戦後の平和が長く、それに慣れてしまったところも大きいと思います。かつて薩摩藩では何かが起きたら、どう行動するかというシナリオプランニング的訓練をしていたそうです。いわゆる反実仮想です。東京電力では、例えば大地震が起きた時にトップの指示を待って行動していては間に合いません。急激な状況変化に対し、誰が判断してどう動くか。ある程度は権限移譲しながら動く仕組みが必要です。リーダーは明確な目的意識と熱い思いを持って行動するのがよいです。変化に対応する鍵は行動だと思います。日本人は言われたことは忠実にやるが、自分で考えて行動することが苦手です。マインドセットと組織の変革が重要で、従来の階層型組織と機敏に動くネットワーク型組織の両方を持つべきです。

一條 かつては「既存の正しい解答にスピーディーにたどり着ける人」が優秀とされました。しかし今は「正しい答えを自ら作る」、もしくは「問いそのものを作る」時代です。優秀さの基準を変えるべきです。日本の経営者はIMDの教室でも「正解」を我々に求めがちです。しかしこのような発想や行動は時代遅れです。大きな変化によって、従来の正解が通用しなくなっているのですから。

生成AIの使い方にしても日本人は「答えを教えて」なのですが、欧米だとあくまで「壁打ち」。生成AIの使い方が日本と世界では全然違うという話を聞いて、なるほどと思いました。

中谷 日本人は周りを気にして失敗するのが怖いというマインドが根底にあると思います。失敗は新たな学びの機会だと捉えればいいのに、失敗がペナルティになるから、リスクを取らない方向にいきがちです。日本はずっと暗記教育を行ってきて、先例をなぞるパターンの方が多い。新しいところを切り開くのは欧米の方が圧倒的に強い。生成AIでも正解を求めて壁打ちができない…。やはり、リスクを取ってチャレンジするマインドにならない限りは「事例はありますか」になってしまいますね。

エジソンは「失敗などしていない。この方法でうまくいかないことを学んだのだ」と言いました。そういう考えでないと大発明はできないですよ。正解ばかりを追い求めず、最終的に成功すればいい。どんどん行動しないと。

カーボンニュートラル達成に向けた
東京電力の変革

関 知道 氏

東京電力ホールディングス株式会社
常務執行役/最高情報責任者(CIO)
最高情報セキュリティ責任者(CISO)

関 知道

大きなポイントは、カーボンニュートラル社会の実現を牽引するという、従来とは異なるビジネスモデルです。東京電力単独では無理ですので協力企業と一緒にお客様に提案し、お客様の設備をお客様と一緒に変革してゆく、トランジションパートナーになることを目指しています。電力事業という我々のケイパビリティを使い、社会の変容に挑んでいます。最終的にお客様に喜んでいただけるものを提案し、地方自治体ともタッグを組んで取り組んでいるところです。リーンな取り組みを、試行錯誤しながらやっています。カーボンニュートラルの技術はまだ成熟していないし、コストも高い。この状況でも共感していただけるお客様を探し、社会のために一緒にやろうというアライアンスを組んでいます。政府や地方自治体と一緒に取り組んでいますが、どこかで社会の動きの潮目が大きく変わる時が来るので、ここは諦めずに挑戦し続けます。「社会を変えたい。会社を変えたい」という思いで組織変革を成し遂げ、カーボンニュートラルな社会も実現したいです。エネルギー企業として社会変革を牽引しなければいけないと社員には話しています。

一條 時代の変化を掴み、自分たちのカルチャーをも変えようという東京電力の姿勢は素晴らしいですね。東京電力のお仕事は人々の命に関わりますから、リスク回避は必須です。その中で組織を変革するのは並大抵のことではありません。人々の安全を守るという使命を持ちつつも、組織をアジャイルに変えようとする東京電力の取り組みをもっと広く伝えるべきだと思います。変革に向けて日本企業の肩を押すことになると思います。そして東京電力の変革が進めば、カーボンニュートラルの実現も近づき、世界も救われます。その変革の意義は大きいです。

変革成功のカギは
「リーン」と「アジャイル」

中谷 浩晃 氏

Scaled Agile-Japan合同会社
ストラテジックアドバイザー、SPCT

中谷 浩晃

技術や規制の急激な変化に、東京電力は規模が大きいのでシステムの開発スピードが追いつかないと感じていました。その時Scaled Agile, Inc. CEO クリス・ジェームスさんに出会い話を聞くと、これはシステム開発というよりは経営戦略や組織マネジメントだと感じました。戦略からリソース配分、プロジェクト間の調整とか、SAFeのフレームワークの中に一通りの解がありました。そこでSAFeでも推奨されているようにまず私を含め経営陣がSAFeの資格を取得し、フレームワークを十分に理解した上で変革を推進しています。今はまずシステム開発からですが、最終的には経営のサイクル全体を変革できると確信しています。すでに結果は出ていて、人材育成のスピードに合わせて規模拡大、案件を増やそうと思います。

中谷 実はリーンもアジャイルも日本がルーツで、トヨタの生産方式の考え方が欧米で体系化されて逆輸入されました。つまり、日本にとっては親和性が高いのです。そんなリーンとアジリティという考えをもとにSAFeを作り、企業が自分たちで変革してビジネス成果を最大化するための考え方をコンピューターのOSのようにそのまま使える形で提供しています。働き方を変えることは、考え方を変えるだけです。その上でお客様に価値あるプロダクトソリューションを出すところに注力していただければいい。東京電力さんが変わったとなれば、「ウチにはできない」とは言えなくなるのではないか。日本を代表する企業が実践することこそが、最高の事例になります。

一條 まさにモデルケースですね。電力会社のトップマネジメントである関さんが、先ほど「試行錯誤」という言葉を使われました。この発言こそ、新しい考え方が東京電力に根付いていることの証です。また、カーボンニュートラルのような社会全体に関わる問題は、一社だけでは解決できません。だから、東京電力が中心になりながら、エコシステムを構築しようとされている。東京電力そのものが大きく変わることが、新しい日本の姿を世界に知らしめることになります。組織自体を根本的に変えるという、関さんのようなトップマネジメントの事例から、変革にとって何が本質かということを学びたいですね。

日本のビジネスリーダーへの
メッセージ

中谷 この30年の間、日本は世界から取り残されたといわれましたが、リーンとアジャイルという二つの考え方は、日本人にとってはすごく馴染みがあります。この考え方で日本を変え、やがて世界も変えていけば、未来は決して暗くないと思っています。

「失われた30年」というキーワードが使われない世界を作りたいです。日本企業はなぜ自信をなくしているのかなと思うのです。技術力も素晴らしいサービスもあるのに。自信を持つためには目的感と熱い思いを持ち、やってみようという小さな勇気と小さく行動するというリーンの考え方で挑んでほしいです。同志を募ればひとつの動きがやがて大きなうねりとなり、経済も活性化するはずです。

一條 組織づくり成功の鍵はリーダーシップに尽きます。関さんのお話を伺うに、改めてリーダーシップとは何かを考えました。リーダーシップとは上に立つことではなく、先頭に立つことです。トップに立っても先頭に立たない人はリーダーではありません。先頭に立つ真のリーダーシップを関さんから学び、トップマネジメントのみならず、あらゆる人々にリーダーシップを発揮してもらいたいです。

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