社会のデジタル化が進展するにつれ、サイバー攻撃が急増。とりわけランサムウエア攻撃は、凶悪化が著しい。この脅威に立ち向かうための情報を共有すべく、日経BPは2024年7月22日『経営課題解決シンポジウム セキュリティー編 ランサムウエアの脅威に克つサイバーセキュリティー戦略』を開催した。警察庁の阿部氏による講演及び、長年サイバーセキュリティーに取り組んできた神戸大学の森井名誉教授と日経BP 総合研究所 フェロー 桔梗原の対談を紹介する。

主催者講演

ランサムウエアをはじめとするサイバー空間をめぐる脅威とその対策について

ますます巧妙化するサイバー攻撃

警察庁
長官官房審議官(サイバー警察局担当)
阿部 文彦

近年企業活動に深刻な影響をもたらしているランサムウエア攻撃は、ファイルを暗号化した上で、ファイルの復元と引き換えに金銭を要求する。警察庁の阿部氏は、「警察への被害申告状況から見ても企業規模や業種に関係なく、ランサムウエア被害に遭っています。感染経路はVPN機器からの侵入が過半を占めており、最新のソフトウエアへの更新や認証情報の適切な管理が重要です」と指摘する。

世界50の国・機関が参加する「カウンターランサムウエア・イニシアティブ会合」でも、ランサムウエアの脅威に対する国際連携の強化について協議されている。その中で、政府関係機関がランサムウエア攻撃者の金銭支払い要求には応じるべきでないと意見が一致し、声明を発表した。

もう一つ近年問題となっているのが、政策・外交、先端技術、研究等の機密情報の窃取を目的とするサイバーエスピオナージである。「現実空間でのテロの準備行為として、重要インフラ事業者等の警備体制といった機密情報を窃取する可能性も指摘されています」(阿部氏)。

サイバーエスピオナージは、主に標的型攻撃、脆弱性攻撃、海外拠点等からの侵入によって行われる。「最近の脆弱性攻撃はシステム運用のマネージドサービスプロバイダーやクラウドサービスが狙われ、そこからユーザー企業が侵害されるケースが増えています。海外拠点と本社が内部ネットワークで接続されていなくても、例えば同じクラウドサービスを利用していれば、そのアカウントを利用して本社システムに侵入されることもあります」(阿部氏)。

サイバー攻撃に多角的に取り組む警察組織

サイバー攻撃の激化に伴い、警察も体制を強化。令和4年4月、警察庁にサイバー警察局を設置すると共に、重大サイバー事案における捜査権限を持つサイバー特別捜査隊も設置した(令和6年4月よりサイバー特別捜査部に昇格)。さらに、技術支援を行うサイバーフォースセンターを警察庁に設置し、24時間体制でサイバー攻撃の予兆・実態の把握、マルウエアの分析、被害発生時には被害状況の把握、証拠保全などを行う。

人材の確保や育成も強化している。阿部氏は、「検定制度を運用するなど職員全体のサイバー能力の向上に努めています。その結果、現在一定以上の知見を有するサイバー人材が全国で約45000人となりました」と語る。高度な研究や研修を行う専門の組織を設置し、実事案を元にした演習や国内外の学術研究機関への派遣による人材育成も行っている。

国際共同捜査にも積極的に取り組んでいる。世界各国の企業に大きな被害を与えたランサムウエア攻撃グループLockBitの事件でも、日本警察として国際共同捜査に参画しており、本年2月、関係国の捜査機関が同グループの一員とみられる被疑者2名を逮捕、同グループの使用するサーバー等の犯罪インフラを閉鎖した。一方で国家を背景とするサイバー事案については、被疑者の検挙が困難だ。そのため、解明した攻撃者像や手口を公表し非難するパブリックアトリビューションを実施している。

民間事業者との連携も強化。全都道府県に重要インフラ15分野の事業者と連携する「サイバーテロ対策協議会」と、攻撃の標的となり得る先端技術を有する全国約8600事業者が参画する「サイバーインテリジェンス情報共有ネットワーク」を構築した。

サイバー事案が潜在化しないために重要なのが、被害者による警察への通報や相談だ。そのため、被害者が通報・相談しやすい環境整備にも取り組んでいる。その1つとして、警察庁のウェブサイトにサイバー事案に関する統一的な受付窓口を設置した。「万一被害に遭われた場合は、必要な配慮はいたしますので、ぜひ通報ください」(阿部氏)。

最後に阿部氏は、「この分野では情報共有が非常に重要です。警察としても、民間事業者や研究機関など関係者との連携を積極的に進め、デジタル社会の安心・安全の実現に貢献していきます」と語った。

※:情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス、医療、水道、物流、化学、クレジット、石油、港湾

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