


松橋正明氏とイノベーティブな企業であるためのリーダーの役割などについて話し合った。
事業化の可能性があれば
発案者がやり抜く仕組み
松橋セブン銀行は、2016年に「セブン・ラボ」(以下、ラボ)を創設しました。これは新規事業や外部企業とのオープンイノベーション、社内の組織横断的なプロジェクトなどを推進するためのチームです。以来、このラボを軸に金融やATMの枠を超えたユニークなサービスを複数のスタートアップと共創しながら、事業化してきました。ラボ立ち上げの原点は、2014年の伊佐山さんとの出会いにあります。
伊佐山私がWiLを創業した翌年でした。当時の日本はいまよりも業種の壁が高く、異業種との交流は限られていました。そこでさまざまな業種の人が集える「学びの場」を作ろうと思い立ち、多くの企業にお声がけしました。セブン銀行はその中の1社でした。2015年には、経済産業省などが主催し、当社が運営するシリコンバレーと日本の架け橋プロジェクト「始動 Next Innovator」がスタートし、御社はそれにも参加していただきました。
松橋社会や産業の変化のスピードは速まっているのに、自分自身がアップデートできていない――そんな課題を持ち始めた時期でした。伊佐山さんを通じてたくさんの異業種の方やスタートアップと繋がりを持てたことは、大きな転機となりました。
伊佐山当社との取り組みを具体的な行動に移し、事業化につなげている点はすばらしいと思います。日本の経営者は圧倒的にThinker(考える人)が多い印象ですが、松橋社長はDoer(行動する人)です。イノベーションの担い手になるならDoerでいる必要があります。トップやリーダーが率先して行動するとともに、挑戦して失敗してもそれを評価する企業文化があれば、社員にもDoerが増えていきます。
松橋昨今では、社内でビジネスプランコンテストを実施した際に、事業化の芽がありそうなアイデアを提案した社員には、ラボと兼務しながら取り組んでもらうようにしています。元々当社では、業務の10%を本来の仕事以外の研究などに充てることを推奨していますが、例えば、市場調査を実施したり、モデルを作り込んだりするとなると、業務の10%では到底足りません。そこで本来の業務と並行して、新規事業にも注力してもらいます。やはり発案者が意思決定し、やり切る仕組みを作ることが肝心です。
伊佐山イノベーションには、意思決定の回数が大きく影響します。年功序列では、若手に重要な意思決定のチャンスが巡ってこないもの。一方、ベンチャーやスタートアップでは、年齢やキャリアにかかわらず、日々意思決定して挑戦し、失敗してもまた挑戦して……を繰り返します。何十年も在籍してようやく重要な意思決定を任された人とは、経験値に大きな差が出ます。挑戦と失敗の経験をたくさん持つ人ほど、結果的により良い意思決定ができるでしょうし、そういう機会を与えられる会社で働けることはとても幸せだと思います。
松橋具体的な事業の進め方など、発案者に意思決定の機会を与えた上で、定期的に私が進捗を確認し、改めて予算を付ける、もしくは撤退するというような判断をしていきます。
伊佐山恐らく同様の取り組みをしている企業は他にもあるでしょう。でも経営トップ自らアイデアをすくい上げて、事業化の可能性を探っていくケースは少ないと思います。社員の気づきやアイデアを顕在化させて、それを商品やサービスに昇華させることは、社内イノベーションに欠かせないリーダーの仕事だと私は思います。
松橋昨年実施したNFT(非代替性トークン)募金キャンペーンも社内アイデアから始まり、具現化した取り組みです。集まったお金はセブン‐イレブン記念財団を通じて「環境」をテーマとした社会貢献活動に使われます。先日は「eスポーツのチームを作りたい」と言ってきた社員がいました。いまでは社会人リーグもありますから、参加すれば新たなコミュニティが社外にできそうです。
伊佐山その社員はセブン銀行とeスポーツの組み合わせに何らかの可能性を感じているのでしょう。そういうひらめきや直感はとても大切です。そしてそれを社内で気軽に話せたり、社長に相談できたりすることもまた重要です。イノベーションはそういうフラットな組織から生まれてくるものです。
多様性に身を置くことで
企業や個人は鍛えられる
松橋「居心地の悪いところに行くべき」という伊佐山さんからのアドバイスも大切にしています。
伊佐山同業や既知のコミュニティといった居心地のいい場所を抜け出してこそ、新たな発見や成長があるという意味です。企業文化の違いに戸惑ったり、専門用語が飛び交ったりして、ストレスに感じることもあるでしょう。でもそうした多様性に身を置くことによって、企業や個人は鍛えられます。シリコンバレーで多くのスタートアップが育ち、イノベーションが生まれるのは、多様性そのものだから。私は彼の地に拠点を構えて25年近く経ちますが、いまだに毎日がストレスだらけです(笑)。
松橋実はいま、ATMとは直接関係のない自動車や航空など異業種との連携を強化しています。そうした業界の方々がこれからの社会変化やテクノロジーの進化をどう考えているかを知ることは、我々の発想を広げる上でとても刺激になりますね。
伊佐山金融はまだまだ進化する余地があると思います。セブン銀行はどのような将来像を描いていますか。
松橋ATMをさまざまなサービスの拠点として進化させることで「セブン銀行のATMに行けば、金融サービスから行政手続き全般までワンストップ解決する」という世界観を作りたいですね。すでに第4世代 ATMを活用したサービス「+Connect(プラスコネクト)」では、銀行の窓口業務の代替や、各種手続き・認証サービスを提供しています。また今年の2月からセブン&アイグループ共通の会員IDである「7iD」をセブン銀行に登録できるようになり、ATMで口座開設してすぐスマホ取引できたり、他の金融サービスに連携するなど、新しい体験価値を作り始めています。海外展開にも力を入れており、世界各地に点在するラボをシンクロさせる取り組みも模索中です。
伊佐山金融はデジタル化やグローバル化が進んでいると言われていますが、日常生活レベルだとまだまだ不便なことがたくさんあります。今後のセブン銀行の取り組みに期待しています。
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