――目指すべきは、あらゆる契約の「脱ハンコ」化 高リスク契約DXに適した高いレベルの信頼性を実現する方式も登場!電子契約の最新動向と、選ぶべき仕組みとは

非対面・非接触を強いられたコロナ禍をきっかけに、企業での利用が加速した電子契約。デジタル庁の調査によれば、何らかの電子契約システムを導入している企業は全体の56.3%、利用したことがある企業は74.5%に上った。紙の契約書類の作成・転送・保管に伴う業務負荷や印紙コストを軽減できるメリットが企業に評価され、電子契約サービスが相次ぎ登場する中、企業・組織はどのような観点でサービスを選ぶべきなのか。信頼性や使い勝手、法的な位置付けなどのポイントについて、弁護士事務所、電子契約サービスのベンダー、日経BP総研のキーパーソンが語り合った。
※「電子契約の普及状況等について」2023年9月27日、デジタル庁 デジタル社会共通機能グループ

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アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 弁護士 宮川 賢司氏

井出 まず、電子契約の法的な位置付けを教えてください。

宮川 民法522条2項にある通り、一定の要式行為が必要なものを除けば、契約の形式に決まりはなく、電子契約でも契約は有効に成立します。ここで一定の要式行為とは、法律上、公正証書によることが明記されている遺言などのことをいいます。こうしたケースでは、現在政府が進めている公正証書DXが完了するまでは電子契約の対象外と考える必要があります。

井出 基本的には電子契約もほかの契約手法と同じように使えるということですね。

宮川 その通りです。ただ、契約は相手方がある話であり、契約締結後に相手方が契約の有効性などを争ってきてビジネス上の交渉などで解決できない場合、民事裁判で解決する必要がある場合があります。そのような場合、電子契約の有効性などを裁判所に認めてもらう必要があります。電子契約においては、電子署名済みのPDFなどのデータが裁判所で証拠として認められるかどうかという、「証拠力」が論点になるでしょう。

井出 「契約したが意図が違った」「担当者が勝手に判断したもので、法人として契約意思はなかった」など、契約にはいろいろなトラブル原因があり得ます。電子契約がどのくらいの証拠力を持つのか、過去の判例はありますか。

宮川 電子契約が本格的に普及したのは2020年のコロナ禍以降であり、普及から日が浅いため、電子契約のトラブルに関する裁判例は地裁レベルのもののみであるという認識です。ただし、電子契約などの電磁的記録が真正に成立したことに関する推定効を定めた電子署名法第3条があり、この電子署名法第3条の解釈について2020年9月に法務省などがQ&Aを公表していますので、これが参考になります。

 例えば紙の契約の場合、契約書に会社の代表印(実印)が押されていれば、いわゆる二段の推定が働くことになり契約書の真正な成立の立証が容易になります。電子署名においては、電子署名法第3条の適用が認められれば、安心感が高いということになります。

井出 現在提供されている電子契約サービスには、「当事者型」と「立会人型(事業者型)」の2種類があります。それぞれ電子署名法第3条との関係ではどう位置付けられているのですか。

宮川 まず当事者型は、電子署名のユーザーごとに発行される個々のユーザー固有の電子証明書を使って電子署名を行うので、基本的に電子署名法第3条が適用されると考えられます。

 もう1つの立会人型は、ユーザーではなく電子署名サービス提供事業者の電子証明書等を使って電子署名を行うものです。立会人型に関する電子署名法の適用については、先ほどお話しした「電子署名法第3条に関するQ&A」に加えて、「電子署名法第2条第1項に関するQ&A」が公表されていますので、これらを踏まえて検討する必要があります。これらのQ&Aを踏まえると、事業者の意思が介在しないでユーザーの意思のみに基づいて電子署名が行われること、十分な暗号化の強度があること、いわゆる2要素認証などによりユーザーの本人確認が行われることなどの要件を満たしていれば、電子署名法第3条の適用が認められると考えられます。

 当事者型のほうが本人確認レベルが高いといえますが、契約の当事者双方がそれぞれ当事者型を利用できる環境が整っている必要があるため、ユーザーの利便性に課題があると思われます。その点、立会人型はユーザー固有の電子証明書が不要であるため、利便性が高いといえます。

株式会社 スカイコム 執行役員 営業本部長 梶原 寛氏

井出 現在は様々な事業者が電子契約サービスを提供していますが、主流は立会人型です。その点、スカイコムの「SkySign(スカイサイン)」は、立会人型にも対応してはいますが、当事者型のクラウドサービスである点を強調しています。理由を教えてください。

梶原 先ほど宮川先生がおっしゃった通り、当事者型と立会人型はそれぞれ特徴が異なるため、ユーザーの利用実態もそれを踏まえた形になっています。具体的には、数十億~数百億円規模の高額契約や、多くの個人情報を含む契約、初めて取引する企業との契約など、いわゆる高リスク契約には当事者型を用い、それ以外には立会人型を用いるという形です。

 ただ、契約内容ごとに別々の電子契約サービスを使い分けるのはコストがかさむ上、管理も煩雑化するため好ましくありません。そこで、当事者型と立会人型の両方に対応したクラウドサービスとして開発したのがSkySignです。

井出 そもそも当事者型のクラウドサービスはこれまでほとんどなかったと聞いています。SkySignではどのように実現したのですか。

梶原 ポイントは、利用者双方がそれぞれ保有している電子証明書を使って、クラウド上にある契約書PDFに署名する独自の仕組みを開発したことです。当社は、この仕組みを「クライアントリモート署名」と名付けています。

 クライアントリモート署名によって、これまでの当事者型で必要だったメール添付による契約書PDFのやりとりが不要になります。これにより、メール送付の手間だけでなく、契約書の送信ミスなどのリスクも低減できます。

井出 クラウドサービスであっても、利用者の電子証明書はクラウドに預ける必要はなく、それぞれがローカルに保有していればよいわけですね。

梶原 例えば、法務省の商業登記電子証明書は非常に信頼性の高い電子証明書の1つです。この商業登記電子証明書は電子の実印に相当するため、代表印と同様に組織内できちんと管理する必要がありますが、クライアントリモート署名によりクラウド型の電子契約でも利用が可能になりました。

 また、SkySignは、民間事業者が発行する電子証明書や、政府認証基盤(GPKI)で発行された官職証明書、地方公共団体組織認証基盤(LGPKI)で発行された職責証明書などにも対応しています。これにより、例えば自治体の公共調達でも当事者型での電子契約が可能です。さらに今後はマイナンバーカードのJPKI(公的個人認証サービス)にも対応する予定で、実現すれば個人事業主や住民との電子契約にも使えるようになります。

井出 そのほかに特徴的なポイントがあれば教えてください。

梶原 当事者型、立会人型の電子契約に加えて、登録・変更手続の処理が可能です。例えば「申込・変更手続」では、銀行・保険・証券などの金融機関における各種申込や契約内容の変更・解約手続きを担うものとして、フォームへのデータ入力、写真や画像の取り込み、手書きサインが行えます。これらは、窓口業務での手続きに適用することも可能です。そのほか、既存システムと連携するためのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)も提供しています。

日経BP総合研究所 イノベーションICTラボ 主席研究員 井出 一仁

井出 ここまでの話を踏まえると、リスクの低い一般的な契約から高リスク契約まで、すべてに対応できる電子契約サービスを選ぶことが、企業にとって望ましいと思えます。中でも高リスク契約に安心して使うための留意点を挙げると、何でしょうか。

宮川 「代表印を用いた場合と同程度の厳格なリスク管理ができているか」がポイントだと思います。例えば、過去の取引関係がない相手方と契約する場合などは、特に厳格な本人確認・身元確認を行う必要があると思われますが、商業登記電子証明書やマイナンバー電子証明書などの公的な電子証明書を使えるサービスであれば、確かな身元確認に基づく安全性を評価できるでしょう。その意味で、SkySignは高リスク契約のデジタル化に適していると言えるでしょう。

 ただ、1つ注意していただきたいのは、特にBtoB取引(企業間取引)に利用する際は相手方企業の担当者の権限確認が欠かせないということです。紙の契約書に代表印を押印する場合、企業は社内規程に基づく内部承認手続が完了してから代表印を押印することが通常と思われますので、代表印押印の安心感は高いといえます。それと同様に、電子契約の場合も、自社のみならず相手方においても社内規程に基づく内部承認手続が完了した上で電子署名を行うことが重要となります。

井出 契約書には偽造、改ざんなどのリスクもあります。個人的には、運転免許証や印影など物理的なものよりも、強固に暗号化された電子署名を使うほうが偽造リスクは低いように思えますが、その点はどうですか。

梶原 おっしゃる通りだと思います。しかし、現実には多くのお客様はそう感じていないのではないでしょうか。実際、「紙+ハンコ」の文化には長い歴史があるため、特に高リスク契約では、どうしても歴史の浅い電子契約が敬遠される傾向があります。このイメージをどう払しょくし、当事者型電子署名の高い信頼性を理解していただくかが、当社にとって今後の課題だと考えています。

井出 法律の専門家である宮川先生からも、電子契約の普及に向けた展望をお聞かせください。

宮川 梶原さんの言う通り、当事者型と立会人型の電子契約サービスを使い分ける、あるいは電子契約サービス(デジタル対応)と紙+ハンコ(アナログ対応)を使い分けるハイブリッド型の運用が、企業にはまだ多く残っているように見受けられます。しかし、DXの観点で見れば、このような状態は非効率です。SkySignのように契約のリスクレベルに応じて適切なリスク管理ができるサービスを活用することで、日本企業のDXがより進展することを期待しています。

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