再注目されるシェアード化とDXのポイント
「固有の業務や制度は各社のアイデンティティ」

トヨタグループが見据える人事シェアードDXの方向性と、勘所とは?

トヨタグループが進める人事・福利厚生のシェアード化。その取り組みを支えているのがトヨタパーソナルサポートだ。2002年の設立以来、様々な取り組みを展開してきた同社が今、進めているのがシェアードサービスと、申請業務のクラウドサービスによるDX化である。まずは自らTechouseの「クラウドハウス」を導入して知見を蓄えた上で、トヨタグループに紹介してシェアードサービスにおけるクラウド活用を推進している。この積極的な取り組みの概要や、人事シェアード化の勘所についてキーパーソンに話を聞いた。

今、再注目される
人事労務のシェアードサービス化

トヨタパーソナルサポート株式会社 取締役 社長 河合 隆成氏
トヨタパーソナルサポート株式会社
取締役 社長
河合 隆成
 1980年代にアメリカのGE社が初めて導入し、2000年前後に日本の大手企業にも広まったと言われるシェアードサービス。当時の主な目的は給与計算や人事労務、福利厚生等のバックオフィス業務集約によるコスト削減と品質の向上であった。

 トヨタグループの人事・福利厚生サービスを担うトヨタパーソナルサポート(以下、TPSC)取締役 社長の河合 隆成氏は次のように話す。

 「当社は、トヨタ自動車の人事厚生部門を別会社化する形で2002年に設立された会社です。『人事・福利厚生業務において、高品質かつ効率的な事務サービスと充実した制度の提供により、トヨタグループ全体へ貢献すること』を使命としています」

 TPSCは、「管理・間接部門の効率化」「福利厚生制度の導入・運営コストの低減」「従業員サービスの向上」という3つの目標のもと、給与計算代行、トヨタグループ連合型DC(確定拠出年金)制度、選択型福利厚生制度(カフェテリアプラン)、海外駐在者管理サポートなども含む様々なサービスをトヨタ自動車およびグループ会社に提供している。

 今、このシェアードサービスが生産年齢人口の減少や優秀人材の確保、DXの推進といったトレンドを背景に再注目を集めており、大手企業によるシェアードサービスの強化や、中堅企業によるシェアード化の新たな取り組みが広がっているのだという。

シェアードサービスにも
DXが求められる時代

 シェアードサービス再注目の動きはトヨタグループでも例外ではなく、TPSCによるサービス提供先企業の拡大に期待が集まっている。しかし、シェアードサービスを拡大するには大きなハードルがある。その1つがITシステムであった。

 これまでTPSCはサービス提供にあたり、受託企業の運用に合わせ、紙やExcelを用いた申請に対応してきた。しかし、このような環境下では、サービス提供先の会社では申請や福利厚生業務の効率化が容易ではなく、TPSC側も個社に合わせた運用を余儀なくされる。そのため、双方にとって利便性や業務効率性を高めにくい状況だった。

 「入社手続きや、通勤申請などの人事申請業務は、従業員の働きやすさにも直結するものです。従業員エンゲージメントに貢献するためにも、申請ワークフローシステムを強化する必要があると考えていました」と河合氏は語る。

グループの標準化と各社の
個別最適を両立するクラウド

トヨタパーソナルサポート株式会社 経営企画部 DX業務改革G グループリーダー 増岡 孝之氏
トヨタパーソナルサポート株式会社
経営企画部 DX業務改革G
グループリーダー
増岡 孝之
 そこでTPSCは、シェアードサービスの提供先を拡大する取り組みと並行し、新たな申請ワークフローシステムの導入検討を開始した。新たなシステムに求めたことは大きく2つだ。

 1つ目は「パソコンやシステムに不慣れな従業員でもミスなく簡単に扱えること」。前提として同社は、手続きの効率化に向けては「セルフサービス化とチェックレス」の思想が重要と考えていた。従業員が自ら情報を入力することで、プロセスの簡素化・迅速化を図ると共に、入力ミスや誤申請をシステムが未然に防ぐ。

 「簡単でミスが起きにくいことはもちろんですが、働き方が多様化した現在、場所に関係なく使えることはもはや必須条件といえます。そのため新システムは、社外からもスマートフォンによるアクセスが可能で、操作も簡単なクラウドサービスが望ましいと考えました」と同社の増岡 孝之氏は説明する。

 そして2つ目が、各社の固有の制度や新たなニーズにも柔軟に対応できる「カスタマイズ性」である。一口にトヨタグループといっても構成する各社は歴史や風土が異なるからだ。

 「トヨタグループ各社の共有理念に『人間性尊重』があります。従業員の幸せと会社の発展を両立するベースとなるこの理念に沿って、これまでグループ各社は人事労務・福利厚生制度を整備してきました。設立経緯をはじめ事業課題や保有するリソースも異なる各社が、これまで制度や運用の一つひとつを考え抜き、労使で話し合ってきたものだと思っています。したがって、シェアード化のためだからと無暗に標準化するのではなく、今の環境において、各社のアイデンティティや競争力の差別化要因でもある固有の制度として残すべきものかどうかも各社と相談しながら、標準化やシェアード化の検討を進め、より充実した人事労務サービスを提供していく必要があります」と河合氏は強調する。

 さらに河合氏は続ける。「シェアード業務が『標準化』と『各社固有の制度尊重』のバランスを求められる以上、それを実現するITシステムにも『標準化力』と『カスタマイズ性』という、相反するニーズに応えてくれることを求めました」

 しかし一般的なクラウド製品は、業務を標準機能に合わせてもらうことを前提としているため、カスタマイズを苦手とするものが多い。様々なサービスを比較検討した結果、2つのポイントを満たせるTechouseの「クラウドハウス労務」(以下、クラウドハウス)が最適という結論に至った。

マイカー申請における
車種や排気量のマスター登録まで対応

トヨタパーソナルサポート株式会社 経営企画部 シェアード運用G 主任 井上 千恵美氏
トヨタパーソナルサポート株式会社
経営企画部 シェアード運用G
主任
井上 千恵美
 シェアードサービスにおけるクラウドサービスの活用に先んじて、TPSC自身がユーザーとなりクラウドハウスを導入した。

 「シェアードサービスプロバイダーとして、まずは主要なワークフローの経験・ノウハウを自ら蓄積する必要があると考えました。実際、ポータル画面の見た目やレイアウトなどを自ら確かめて、固有の業務にも合うようにカスタマイズする経験を積んだことで、グループ各社へ展開する際にもしっかり提案できるようになったと考えています」と同社の井上 千恵美氏は話す。

 各社固有の業務要件への対応は、クラウドハウスのカスタマーサクセスチームが専任伴走型で支援している。各社の担当者とTPSCで定例の打ち合わせを行い、一緒にクラウドハウスの画面や、元となる紙の申請書類を確認しながら、業務にフィットする申請ワークフローシステムを作り上げていくのだという。

 カスタマイズで実現する機能の一例が、通勤申請の際の車名選択だ。一部のトヨタグループでは、通勤に使う自動車の車種・車名の申請を求める場合がある。これは自動車メーカーならではの申請項目であり一般的なクラウドサービスであれば対応できない。そのため申請方法は自由記入欄を設けて車名を手入力することになっただろう。まさに、これがミスや表記ゆれを誘発することになる。しかしクラウドハウスにはカスタムマスタ機能があるため、自動車メーカー特有の車名のマスターを取り込むことにより、従業員が車名を選択するだけで済むように作り上げようとしている。

 「専任の担当者が付いて、用途に応じたカスタマイズを含む様々な方法をメリット/デメリットを交えて提案してくれたのも心強かったです。ここまで我々の業務を理解し、寄り添った提案をしてくれるクラウドサービスはほかにないと思います」と増岡氏は述べる。

 TPSCでの導入完了から8カ月が経過したが、社内の反応も上々だ。長年やってきた申請方法が変わるため、当初は従業員からの反発や問い合わせが発生することを覚悟していたが、対応はほぼ不要だったという。「総じて好意的に受け止められたと考えています。口には出さなくても、紙ベースの申請に不便さを感じていた人は多かったのではないでしょうか。手元のスマートフォンで作業を完結できる便利さを、感じていただけているものと思います」と同社の多治見 清久氏は言う。

 また、新たなシステムは2024年度の新入社員の入社手続きでも活躍した。前年度までは、入社式当日に紙の書類を配付して、記入するための時間を2時間程度とっていた。それをセルフサービス型の事前入力で済むようにして、プロセスや作業を大幅に簡素化。同時に、入社時点で必要な情報の回収・登録が完了している状態にできたという。

目指すはトヨタグループ全体への貢献

トヨタパーソナルサポート株式会社 経営企画部 シェアード運用G グループリーダー 多治見 清久氏
トヨタパーソナルサポート株式会社
経営企画部 シェアード運用G
グループリーダー
多治見 清久
 TPSC社内でのクラウドハウス利用が軌道にのり、さらに2024年7月からはグループ会社でも利用が始まっている。

 「利用開始したグループ会社では、特に機密性の高い情報を扱っているため、セキュリティーの観点で社外から社内システムへのアクセスは禁止されていました。しかし働き方改革の観点から、身上変更に関する申請については、セキュリティーを確保した上で社外からもスマートフォンで実施できるようにしました」と井上氏は紹介する。TPSCでの対応事例を基にひな形をつくりサービス化するとともに、申請書類の作成方法などは一層のカスタマイズも行った。ここで得たノウハウも、今後のグループへのサービス展開時に組み込んでいく予定だ。同社でも従業員からの問い合わせはほぼなく、スムーズに利用されているという。

 「もっとも、当社や利用開始したグループ会社はデスクワークが中心のため、グループ内では比較的ITシステムに慣れている組織といえます。工場拠点などに展開していく過程では、まだ想定していない要望や課題が出てくるはずですが、クラウドハウスのカスタマーサクセス担当の協力も得ながら、一層使いやすい仕組みを提供していけると考えています」と多治見氏は期待を込める。

 また、トヨタ自動車のクルマづくりには、サプライチェーンを構成する多くの取引先の協力が不可欠だ。しかし、取引先の中には人事労務・福利厚生業務が大きな負担になっている企業が少なくない。「50-100名規模の会社では人事担当者を1名置くことも難しい時代になってきています。そのような取引先様の課題解決に我々は貢献していきたいと考えています」と河合氏は話す。クラウドハウスのカスタマイズ性は、グループ会社を支援する際にも一層生きるはずだ。

 グローバルに広がるトヨタ自動車のビジネスを、福利厚生サービスによって支えるトヨタパーソナルサポートと、Techouseのクラウドハウス労務が、トヨタグループの人事・福利厚生業務DXのカギを握ることになるだろう。
大手企業グループのDXを支える「クラウドハウス労務」
スクラッチを超えるクラウドを標榜するこのセミオーダー型サービスは、クラウドサービスでありながら、各社特有の業務フローや従業員ニーズに即したカスタマイズを行える点が最大の特長。チェックロジックを組み込んだUIで、現場の従業員は入力しやすく、人事部はチェックレスで済む。メーカー構築型なので、専任担当者が構築を主導してくれるのもうれしいポイントだ。トヨタグループ以外にも、NTTデータグループなどの企業グループが申請基盤として採用している。
トヨタグループ独自の申請をカスタムマスターやチェックロジックにより細部まで再現
トヨタグループ独自の申請をカスタムマスターやチェックロジックにより細部まで再現