証券ビジネスを中心に、アセットマネジメント、ネット銀行、不動産ビジネス、投資ビジネス、システムコンサルティングなど、複数の事業を展開する大和証券グループ。顧客ニーズが多様化し、新規参入企業の増加による競争が激化する中、同社はAIやブロックチェーンといった最新技術を取り込み、デジタル・イノベーションをさらに加速させている。既にデジタル金融サービスを新たに創出するなど、成果も現れつつある。こうした成功の背景には、全社員のマインドをデジタル変革の「当事者」として醸成してきた様々な取り組みがある。同社のDX戦略のコンセプトや具体策について話を聞いた。
インタビュアー:
日経BP 総合研究所 エグゼクティブフェロー 望月 洋介
最先端テクノロジーを用いた
新しい証券サービスを拡充
望月大和証券グループ本社が「DX銘柄2024」に指定されました。選出に至った要因をどう分析されますか。
植田旧名称の「攻めのIT経営銘柄」も含めると、選定されたのは今回で通算4度目となります。大和証券グループはビジネス変革に向けて総力を挙げており、このようなかたちで評価を受けることは、日々業務現場でDXに取り組む個々の社員のさらなるモチベーションアップにつながると考えています。
DX銘柄に選ばれた理由については、社内向けシステムを外部企業が使えるようにプラットフォーム化したことや、ブロックチェーン技術によって実現したデジタル証券「セキュリティ・トークン」を発行するなど、最先端のテクノロジーを積極的に用いて新しい証券サービスの在り方を模索していることや、DXを推進する組織体制の整備、人材育成の取り組みなどが評価されたのだと考えています。


望月組織や業務プロセスを改革して新たな事業領域にチャレンジしようとする動きは、金融業界全体で活発です。そうした中、大和証券グループはどのようなコンセプトでDX戦略を進めているのでしょうか。
植田私たちは自らのDX戦略を、「DX1.0」=業務プロセスのデジタライゼーション、「DX2.0」=先端技術を活用したビジネスの深化、「DX3.0」=AIをはじめとする最新テクノロジーによるデジタル・イノベーションと定義。その推進基盤となる「環境」「人材」「文化」のそれぞれの領域において、段階的に多様な施策を展開してきました。
2024年5月に発表した2024~2026年度の中期経営計画では、「最善・最適で質の高いソリューションを提供することで、中長期的なお客様の資産価値/企業価値の最大化に貢献する」をグループ経営基本方針に掲げています。その実現に向けて、いよいよこれから「DX3.0」の取り組みを本格化させようとしているところです。(図1)

社内業務効率化に始まったデジタル活用をデジタル・イノベーションへとステップアップさせ、最終的には顧客の資産価値と企業価値の最大化に結びつけようとしている
DXの展開に不可欠なのは
ビジネス部門の当事者意識
望月デジタルを活用する企業文化の醸成に際して苦労したことや配慮したポイントはありますか。
植田DX戦略の推進に先立って、RPAなど業務のデジタライゼーションを進めていた数年前までは、DXはIT部門が行うものと思い込んでいる社員も見られました。しかし業務改革は他人任せではなく、自分事としてとらえなければ意味がありません。そこでRPAに際してはビジネス部門の社員が自らの手で自動化の仕組みをつくれる環境を用意し、必要なスキルを身につけるための研修を実施。専用のサポートデスクまで設けて主体的な取り組みを促しました。
IT部門が構築する場合と比べて時間はかかりましたが、その後ノーコード・ローコードツールを使って業務を効率化するアプリケーションを作成するといったことが当たり前のように行われるようになりました。デジタライゼーションの段階でビジネス部門の社員がそうした姿勢を培ったのは、本格的なDXを推進する上で意義あることだったと思います。
望月大和証券は金融業界でいち早く、約9000人の全社員がChatGPTを利用できる環境を整えたと聞きます。このような試みも、デジタル活用の土壌がしっかり固められていたからこそ可能だったといえそうですね。
植田最新のテクノロジーはまずIT部門で導入したり、一部のチームで試用したりするのが普通だと思いますが、生成AIが秘める大きな可能性を感じた大和証券では最初から全社員が使えるようにしました。その結果、業務生産性の向上につながる多くのユースケースがすぐに現れました。
このように先進的な取り組みができる背景には、グループのトップによるDX推進に対する強いコミットメントがあります。実際、自らもデジタル活用の実践者として生成AIを積極的に利用しています。
望月業務現場での新しいテクノロジーの活用を支援するため、CoE(センター・オブ・エクセレンス)も組織しているそうですね。
植田凄まじい速度で進化するテクノロジーをキャッチアップする上で、CoEの存在は非常に重要です。CoEは技術的な知見を集積するだけではなく、案件推進のサポートを通じて人材の育成にも寄与しています。
高度なデジタルスキルを持つ人材を育成しつつ、
全社員のリテラシーも底上げ
望月人材教育についてはどのような施策を講じていますか。
植田大和証券ならではの育成プログラムの1つに、2019年に発足させた「デジタルITマスター認定制度」があります。これは部門を問わず幅広い社員に、デジタル技術を駆使してビジネスを変革できる人材として成長してもらうためのもの。外部の専門機関なども活用した研修を通じて高度な知識・スキルを身につけた人を社内制度の「デジタルITマスター」として認定しています。教育内容は「DX推進人材」と「AIデータサイエンス人材」の2コースに分かれ、認定を受けた社員はビジネス現場で革新的なサービス創出や業務プロセス改革などをリードすることになります。
望月希望すれば誰でもその育成プログラムに参加できるのですか。
植田職種やキャリア不問の公募制ですが、育成プログラムに参加できるのは選抜された人だけです。これまでに150人ほどが「デジタルITマスター」として認定され、様々な部門でDXのけん引役として活躍していますが、認定者の数はまだまだ少ないと感じており、将来的にはすべての部署に複数の「デジタルITマスター」がいて、仕事の進め方や考え方を変革する原動力となってくれることを望んでいます。
望月社員全体のスキルを底上げするような教育体系も整備されているのでしょうか。
植田DXの実現に求められるデジタルリテラシーを身につけるための全社員向け教育は、大和証券が2022年に開設した「Daiwa Digital College」で行っています。プログラムは3つの階層に分かれ、まず「全社員必修課程」で基本的なITスキルや情報分析スキルを習得。次に「部門別専門課程」で、各部門の業務高度化やサービス創出につながるような、より専門性の高いスキルを磨きます。それに加えて「選択科目」を用意し、Python、プロジェクトマネジメント、ローコード、アジャイル、クラウド、APIなど、必要に応じてさらに高度な学びができるようにしています。
重要なのは業務を単にデジタル化することではなく、ビジネスモデルや組織、企業文化を変革することです。変革をする主体は技術やツールではなく社員自身ですから、DXは人材育成とセットでなければ実現しないと考えています。
法人GIBの営業データを
速やかに可視化してマネージャー層に報告
望月先ほど各部門に複数の「デジタルITマスター」を配置し、様々なDXを進めているとの話がありました。礒瀬さんもデジタルITマスターの1人だそうですが、どのような取り組みを行っているのでしょうか。
礒瀬私が所属する法人企画部の法人部門・GIB(グローバル・インベストメント・バンキング)部門では、法人部門のカバレッジ(顧客営業)担当者による訪問履歴や提案内容などのデータを営業支援ツール「Salesforce」に登録しています。そこに蓄積されたデータをより多角的な見地で把握するため、Salesforceとの連携機能を備えた「MotionBoard」を併用するようになりました。プロダクトごとのデータをグラフ化したり、カスタマイズ機能で必要なボタンを設置して検索機能を拡充したりといった使い方をしています。


望月営業活動をよりリッチな形で見える化・共有しているのですね。具体的にどのような導入効果を実感していますか。
礒瀬ダッシュボードの内容をExcel形式で出力して簡単に共有できるので、案件の全体像や個別の進捗状況、予想収益などをマネージャー層に報告する業務が、以前と比べて格段にスムーズになりました。このことは意思決定の迅速化にもつながっているのではないかと思います。以前はSalesforceへの情報の入力が100%ではなかったのですが、MotionBoardを使って可視化することで入力の重要性が部門内に浸透しました。
ユーザーは150人ほどいますが、分かりやすいインタフェースで直感的に操作できるため、使い方に関する問い合わせを受けることはほとんどなく、法人GIB部門で使われるシステム全般の運用管理をする私の業務負荷軽減にもつながっています。
望月データ活用を今後どう推進していきたいですか。
礒瀬例えば新規公開株式の価格想定値など、これまでSalesforceに入力してこなかった項目もあります。これからはそうした項目もGIB部門や法人部門の担当者に入力してもらい、MotionBoardで可視化することで法人部門・GIB部門全体のデータ活用をいっそう促したいと思っています。
デジタル・イノベーションで
サービスの付加価値を高めていく
望月これから「DX3.0」の取り組みを本格化させるにあたっての展望をお聞かせください。
植田前述したように今後のフェーズではお客様の資産価値を最大化するべく、様々なサービスにデジタルを積極的に活用していく方針です。これはDX戦略のみならず経営ビジョンのコア・コンセプトでもあり、デジタル・イノベーションを起こしてサービスの付加価値を高められなければ、当然企業としての競争力を高めることもできません。
2023年度までの旧中期経営計画では「デジタルIT人材200名以上」という目標を掲げていましたが、新しい中期経営計画では「デジタル案件トライアル50件」、「デジタル案件価値創出10件」といった取り組み目標が立てられました。その中から、お客様の資産価値向上に結びつくDX案件が必ず生まれてくるはずです。
望月「社内業務のDX」から「顧客サービスのDX」へとシフトチェンジするということですね。
植田新中期経営計画のスタートからまだ日が浅いものの、既に「AIオペレーター」という注目すべきサービスが創出されています。これはグループ会社のFintertechが運営するクラウド型応援金サービス「KASSAI」に対するお客様からのお問い合わせに、人間の姿や動作、感情表現をリアルに再現したデジタルキャラクターが対応するもので、「Webフォームによる問い合わせより取っ付きやすい」との反響を得ています。
発案したのはデジタルITマスターです。
望月まさに大和証券が力を注ぐ人材育成制度が実を結びつつあるわけですね。
植田業務効率化のためのデジタルツールを入れるだけなら、外部のベンダーに依頼すれば事足ります。「デジタルITマスター」を社内公募して人材育成から行っているのは、ビジネススキルとデジタルスキルの両方に通じた社員が業務変革を進めることで、会社全体のカルチャーを変えていきたいと考えているからです。私たちは今後もこのような姿勢でDXにまい進していきます。


