「サービス先端企業」を経営理念に掲げ、「GLOBAL NEO FINANCE COMPANY ~金融をコアとしたグローバルな総合生活サービスグループ~」を目指し、クレジットカードを中心としたペイメントビジネスのほかファイナンス事業、グローバル事業など多角的な金融サービスを展開しているクレディセゾン。同社のDXを支えているのが、事業にかかわるシステムを内製する「本気のエンジニアリングチーム」だ。デジタル人材不足に苦しむ企業・組織が多い中、なぜ同社は内製化を加速できているのか。DX戦略「CSDX VISION」のもと、小野 和俊CTOがリードする独創的な取り組みからビジネス変革を成功へ導くための勘所を読み解く。
インタビュアー:
日経BP 総合研究所 エグゼクティブフェロー 望月 洋介
自らの手でシステムを開発できる
企業へ転換する
望月クレディセゾンは、2023年から2年連続で「DX銘柄」に選定されています。まずは率直な感想を聞かせてください。
小野2019年に私がCTOに着任し、DX戦略「CSDX VISION」をスタートさせてから、成果が着実に上がっていることは感じていました。そんな中、第三者の目にどう映っているのかが徐々に気になりはじめて、初めてエントリーしたのが2022年です。残念ながらその年は選出されませんでしたが、客観的に評価を受けるには何が不足しているかを考えるよい機会になりました。
その後、2年続けて選出されたことは社員にとって大きな励みになっていますし、多くの方にクレディセゾンに注目していただくきっかけにもなっています。エントリーしているかどうかは別として、DX銘柄選出企業の数は日本の上場企業全体の1%程度ですから、光栄なことだと感じています。


望月CSDX VISIONの大きな特徴が、「システム開発を内製できる体制づくり」を骨子にしている点だと思います。その狙いを教えてください。
小野日本企業のIT部門は長らく、業務の簡便化を支援するコーポレート部門の1つという位置付けでした。しかし、ITはいまや企業の競争力そのものを左右するものになっています。それほど重要なIT・デジタル環境の構築を、従来のように外部のベンダーに任せきりでよいのでしょうか。
米国ではデジタル人材の7割が事業会社に、3割がITベンダーにいるといわれています。一方、日本では事業会社にいるデジタル人材は3割にも満たないでしょう。外注している限り、技術力やノウハウが社内に蓄積されていかないほか、めまぐるしく変化する市場ニーズに迅速に対応することも難しくなります。
そこで当社はこの状況を覆すべく、十分な数のエンジニアを社内に抱えることで事業の中核部分のシステムを内製できる組織モデルの実現を目指しました。もちろん最初から潤沢な人材を集められたわけではありません。内製化を担うテクノロジーセンターを発足させた2019年当初のメンバーはわずか8人。そこから小さな実績を積み重ねることで、徐々にスケールアップさせていきました。
「お月玉」アプリをはじめ、
実績を重ねて評価につなげた
望月手掛けた内製開発の例をいくつか教えてください。
小野最初の案件は、セゾンカードで決済したお客様に「お年玉」ならぬ「お月玉」として毎月抽選で現金をプレゼントするスマートフォンアプリ内の仕組みです。これがSNSで話題になって、当社のアプリの認知度向上にもつながりました。
テクノロジーセンターに対する社内の評価が高まると、事業部門から様々な要望が寄せられるようになっていきます。続々と案件を手掛けるようになり、現在までの5年間で社内向け、お客様向けを合わせて約60のアプリ/システムを内製しています。社内の業務については、2024年度中に累計100万時間分の業務を自動化できる見込みです。
望月また、「DX銘柄2024」の選評では、クレジットカード関連の基幹系システムと周辺システムを連携させるAPI基盤を内製したことも評価ポイントに挙げられています。ビジネスの心臓といえるシステムも内製しているのですね。
小野その通りです。実はクレディセゾンは、私がジョインする前の年まで、長期にわたって基幹系システムの更改に四苦八苦していました。
当初の予定では、API基盤は更改のタイミングでオンプレミスのメインフレームシステムに集約していくことを想定していたのですが、それだとエンジニア人材の確保や運用負荷の問題が残ってしまいます。そこで私は、方針を大きく転換して、様々なクラウドサービスを連携させる仕組みへ移行することを決断しました。クラウド上にAPI基盤を構築し、新しいサービスの開発や機能追加をスピーディに行えるようにする。非常に難しいプロジェクトでしたが、これを内製で、かつ当初のカットオーバー予定日を遅らせることなく完遂しました。このことが、テクノロジーセンターのメンバーの大きな自信になったと思います。
望月テクノロジーセンターの陣容は、現在どのくらいになっているのですか。
小野2024年3月時点で140人を超えています。テクノロジーセンターが内製開発で成果を出し、その役割が全社に認知されてからは、メンバーを社内公募するようになりました。元の業務との兼務ではなく、リスキリングしてIT部門へ異動することになるので、応募してくる社員は皆本気です。
また、CSDX VISIONでは部門間の垣根を越え、ITサイドが事業サイドに寄り添って必要なシステム開発をする「伴走型内製開発」にも力を入れています。事業部門のシステムづくりにはビジネスに関する理解と知見が不可欠ですが、事業部門からテクノロジーセンターに転身した人であれば、自ずとその条件を満たしていることになると考えています。
モード2の文化をいかに馴染ませるかが
人材定着のカギ
望月CSDX VISIONでは、2024年度中に社内のデジタル人材を1000人にするという目標を掲げています。デジタル人材の定義や、育成方法についても教えてください。
小野当社はデジタル人材を3つのレイヤーに分けて定義しています。レイヤー1はプログラマーやデータサイエンティストなどの「コアデジタル人材」。現在は外部から招いた人が中心ですが、将来的には社内でも育てるつもりです。
レイヤー2は事業部門から転身して、プログラミングやデータ分析、情報セキュリティーなどのスキルを習得した「ビジネスデジタル人材」です。業務とデジタルの知見を併せ持つ人材といえるでしょう。
そしてレイヤー3が「デジタルIT人材」。ローコード・ノーコードツールなどを活用して自ら業務を改善できる、いわゆる市民開発者です。テクノロジーセンターが提供するコンテンツを学習することで認定される方式を採っています。
先の1000人という目標数字は全レイヤーの合計です。現在はレイヤー3の人材を増やすことに力を注いでいます。
望月多くの企業がシステム開発の内製化に挑戦していますが、残念ながら成功例は多くないようです。なぜクレディセゾンは成功できているのでしょうか。
小野ITシステムには、安定性が重要視される「モード1」と、イノベーションの基礎になる「モード2」の2種類があります。どちらも重要ですが、特にDXに不可欠なのがモード2で、その開発に当たっては「組織の力より個人の技」「とりあえずやってみる」といった組織文化が必要です。これが伝統的な日本企業にはなじみが薄いため、優秀なデジタル人材がなかなか定着しないのではないでしょうか。
その点当社は、私自身がエンジニアであると同時に、IT企業と伝統的な日本企業の両方を経験しています。その上で、組織文化の醸成に当たっては1 on 1などを通じてエンジニア一人ひとりの思いに丁寧に向き合おうと努めています。1 on 1はごく一般的な、多くの企業がやっているようなものですが、最終的にはそこに尽きると私は考えています。
扱いの容易なBIツールを
データ活用促進の糸口に
望月DXの中核的取り組みの1つであるデータ活用については、どのように取り組んでいますか。
小野データの重要性が日増しに高まる中、グループ全社でデータ活用に取り組んでいます。クレジットカード不正利用の防止をはじめ、様々な施策が動いていますが、中でもテクノロジーの専門会社であるセゾンテクノロジーは先駆的な取り組みを展開しています。
具体的には、営業支援ツールのSalesforceや販売管理システムとウイングアークの「MotionBoard(モーションボード)」を連携して、営業のパイプライン管理を実現しています(図)。そもそもは「地域、部門、商品などの様々な軸で最新の数値を一覧化したい」という要望が営業部門から寄せられたのがきっかけでした。複数のBIツールを比較したところ、Salesforceとの連携性の高さやダッシュボード作成の簡単さを評価して選定しました。
図 セゾンテクノロジーにおけるMortionBoardの活用例

商品ごとの売上や合計の売上、計画比、前年比の数字など、営業部門が必要とする多彩な情報を分かりやすく可視化している
望月どのような効果が得られているのでしょうか。
小野案件ごとの現状を表形式で速やかに確認できるようになったほか、多角的に分析した結果を経営会議資料として活用しています。もともとデータ自体は存在していましたが、それをすぐ見られるか、見られないかは現場にとって大きな違いです。直感的に理解できる形で可視化できたことは、まさにDXの実践にほかなりません。
なお、高度なIT知識がなくても扱えるMotionBoardは、いわゆるローコードツールに位置付けられます。グループ内のレイヤー3の人材がデータに親しむための糸口になってくれることにも期待しています。
As isからの予測と、
To beからの逆算のバランスが重要
望月現在までの取り組みを改めて振り返って、クレディセゾンのDXのポイントはどこにあったと考えますか。
小野現状(As is)の延長で未来を予測する「フォアキャスティング」と、将来のあるべき姿(To be)から逆算する「バックキャスティング」のバランスがカギだったと思います。例えば、テクノロジーセンター立ち上げ当初のような小さな実績の積み上げではフォアキャスティングの考え方を、全社規模のDXのような大きな変革に挑む際にはバックキャスティングの考え方をより重視する、そんなイメージですね。
望月その2つのバランスが重要な理由を教えてください。
小野As isからの予測は、見えている範囲の改善に有効な半面、飛躍したアイデアが出てきにくい面があります。そのため、大きな取り組みではいったん現実を横に置き、To beを描くことがとても重要です。
テクノロジーセンターを組織したのもまさにバックキャスティングによるもので、「デジタル活用をあるべき姿に近づけるためにはシステムを内製できる体制が不可欠だ」という考えからの逆算に基づくものでした。ゴールまでの詳細なロードマップはあえて描いていません。To be実現への道筋は、ときどきの状況を見て柔軟に切り替えるべきだと考えています。
望月CSDX VISIONは今後どのように進展していくのでしょうか。
小野取り組みの規模が大きくなると、どうしても計画に引っ張られがちになりますが、初心を忘れず常に臨機応変に動けるDXを推進していきたいですね。本気のエンジニアリングチームを中心とした「内製化」と「クラウド化」をキーワードとして、必要な機能やサービスをスピーディに開発しながらビジネスを支えていきたいと思います。
特に、注力領域の1つに位置付けているのが生成AIです。既に文章の要約や企画アイデアの検討を支援するAIアシスタント、社内情報回答チャットボット、議事録作成システムなどを開発・活用していますが、生成AIを適用できる業務はまだたくさんあります。内製開発によって、そのような取り組みも強力に推し進めていければと思います。


