プラントの制御・運用技術で世界に市場を持つ横河電機は、売上高1兆円規模のグループ企業として社会に貢献していくことを目指し、全社一体となり成長戦略を果敢に推し進めている。その要となるDX戦略は、OTとITの統合を軸とする戦略を展開。データやビジネスプロセスのグローバル標準化を図るほか、生産現場はデジタルファクトリー化を進めることで生産性を飛躍的に向上させている。そして、その成果をDXソリューションサービスとして外販するという新規ビジネス創出にも結びつけている。本格的なAI活用にも着手した同社のDXは、これからどのような方向へ進もうとしているのか。
インタビュアー:
日経BP 総合研究所 エグゼクティブフェロー 望月 洋介
OTとITを統合させた
グローバルプラットフォームを構築
望月デジタル技術を活用してビジネスモデルの変革を進める横河電機は、「DX銘柄2024」に選出されました。デジタル戦略をリードするCIOとして、どんな思いを抱いていますか。
舩生2018年度にDX活動を本格化させた当社は、4年後の2022年に「DX注目企業」に選出され、その2年後に「DX銘柄」になることができました。ここまでに要した時間は決して短いものではありませんが、2018年度以前はデジタル化に余り着手出来ておらず、オンプレミスシステムをウォーターフォール型で開発して利用している状況でした。その意味では「遂に『DX銘柄』に選ばれるところまできたか」という感慨があります。


望月施策を推し進める上で特に苦労したのはどんな点ですか。
舩生12カ国16工場を擁する当社がDXを進めてデータドリブン経営を実現するには、OT(Operational Technology)とITを統合したグローバルプラットフォームを構築することが前提でした。また、付随してビジネスプロセスを標準化する必要もあり、その整備にかなりの労力を費やしました。
当社の場合、グループ約1万7000人の従業員の多くが海外人材で、国内は6000人ほどにすぎません。海外拠点では、ビジネスプロセスの標準化やデジタル化に対して敷居が低く、グローバル最適化に向けての意識改革は日本国内が主となりました。
望月ということは、海外のやり方に日本を合わせたのですか。
舩生いえ、反対です。特に製造現場におけるプロダクト開発や品質管理は日本のレベルが非常に高いため、日本で得たノウハウをグローバルスタンダード化しています。ただ、DXを進める上で不可欠なクラウド、AIなどのテクノロジーについてはグローバルのリソースを活用しなければなりません。このようなねじれ構造がある中で統合プラットフォームの構築を進めるのは、なかなか大変でしたが、ようやくグローバルで情報連携できるところまでこぎつけています。
DXの成果をサービス化し、
リカーリングビジネスを確立する
望月横河電機のDX戦略は、自社の生産性向上を目的とする「インターナルDX」と、顧客に付加価値の高いデジタルサービスを提供する「エクスターナルDX」の2本立てで構成されています。それぞれについて教えてください。
舩生横河電機は元々、計測、制御、情報技術などを軸にOT製品を販売してきた会社ですが、今後はOT分野で培ったノウハウを積極的にアプリケーション化し、リカーリングビジネスとして確立させる計画です。
つまり、インターナル DXによってECM(Engineering Chain Management)とSCM(Supply Chain Management)を統合し、取引先やお客様とデジタルでつながる基盤を構築したら、そこでの成功事例をエクスターナルDXとして外販していくのです。我々はこれを「ショールームアプローチ」と呼んでいますが、インターナルDXとエクスターナルDXは、互いに密接に連携しています。
望月「モノ売り」から「コト売り」へビジネスモデルを転換するのですね。現在までに生まれている事例はありますか。
舩生反響が大きいのがセキュリティーソリューションです。横河電機は世界のグループ企業のIT/OTインフラをカバーするSOC(Security Operation Center)を運用しており、日々集積される膨大なセキュリティーログを分析することで、高度なセキュリティー対策を実現してきました。その知見を投入した監視サービスを、主に製造業のお客様向けに販売しています。IT/OTのネットワークを包括的に保護するほか、最近は機械学習を活用した予兆分析も行っています。未知のサイバーリスクから、お客様のビジネスを守ります。
またエネルギー&サステナビリティの分野では、プロセス製造業向けのCO2排出量管理サービスを2024年2月にリリースしました。これは、計装システムや電力モニタなどから収集したデータに基づいてCO2排出量を算出するクラウドサービスです。併せて、CO2排出量の算出・削減の戦略策定を支援するコンサルティングサービスなども提供することで、お客様の社会課題解決に向けた取り組みを支援しています。
望月まさに、自社での成功事例を顧客の価値に還元したものといえそうです。
舩生私たちはこのような取り組みを通じて、OT/ITが統合された世界水準のソリューションサービスカンパニーへ変貌することを目指しています。
世界中の工場のデータを
データレイクに集約して利活用する
望月また、おそらく読者が最も参考にしたいと考えているのが、YOKOGAWAグループの工場のオペレーションにおけるデジタル変革だと思います。ここでは、どのようなDXを推進しているのですか。
藤原目下、推進しているのがデジタルファクトリーへの移行です。クラウドやAIなどのテクノロジーを活用することで、データドリブンな形で継続的な「カイゼン」を実現します。具体的には、OTデータレイクを構築し、世界中の工場拠点からオペレーションデータをデータベース、サーバーの連携、及びIIoTを活用してデータを集積しています。ここのデータをERPと結びつけ、オペレーションのリアルタイムな可視化や生産リードタイムの短縮化、SCMの最適化などを追求しているのです。


望月カイゼンは日本製造業の強みです。ここにグローバルの膨大なデータを生かすのですね。
藤原もちろん、カイゼンの取り組みそのものは昔から当社も実践してきました。しかし、従来は工場ごとに培った暗黙知やベテラン社員の勘に頼って行われることが多く、ノウハウを別の工場に適用させることが困難でした。私たちはこの活動もグローバルで標準化する必要があると考え、カイゼンにつながりそうな種々のデータを可視化して、分析することにしました。そのためのツールとして、ウイングアークの「MotionBoard(モーションボード)」を活用しています。
望月MotionBoardを選定した理由を教えてください。
藤原バックオフィスのデータ分析業務においては、以前から国内・海外拠点ともに海外製のBIツールを利用してきました。しかし、工場の場合、単にデータを見える化するだけではなく、そこに潜む課題を顕在化してカイゼンのトリガーにする必要があります。そこで、製造現場でよく使われている別のツールをいくつか検討したのですが、いずれも機能的に不十分で採用には至りませんでした。
その点MotionBoardであれば、工場のメンバーがIT部門に依頼することなく、セルフサービス型でダッシュボードを作成してデータを分析することが可能でした。ウイングアークがOTに明るいベンダーである点も心強いです。国内の多数の製造企業に採用されており、豊富なユースケースを参考にできるのも魅力でした。
データドリブンな「カイゼン」で
自律的な生産性向上を
望月工場でのデータ活用は、どんな成果に結びついていますか。
藤原OTデータとITデータをMotionBoard上で統合的に可視化して、双方の計画に対する実績の差異を明らかにしています。これにより、生産性を阻害する様々なボトルネックを発見することができています。
以前は「工場内をモノがどう流れているのか」「どこにどれだけ在庫があるのか」といったことを一部の担当者しか把握しておらず、生産工程にムダがあっても気付くことができていませんでした。現在は、データに基づいて工程の全容を把握できるので、余計な在庫が生じていたり、設備のアイドルタイムが発生していたりすることが一目で分かります。
望月そのことが活発なカイゼン提案に結びつき、生産性向上を促進しているのですね。
藤原その通りです。工程予実・負荷管理や在庫の最適化、リードタイムの短縮、SCM最適化やキャッシュフロー改善など、データ活用による成果は多岐に及びます(図1)。MotionBoardはとにかく操作が簡単なので、導入時に簡単なトレーニングを施しただけで、すぐに製造現場の社員が自発的に次々とダッシュボードを作れるようになりました。
図1 MotionBoardで「カイゼン」を促すデータ活用を実現

IoTで収集した工場のオペレーションデータ、およびIT側のデータレイクから取り込んだデータをMotionBoardで分析し、製造工程の実態を可視化。ムダや非効率を浮き彫りにすることで、勘や経験に頼らないカイゼンを下支えしている
舩生そのおかげもあって、どの工場も活気が増していると感じます。当社は、いくつかの工場でデジタルファクトリーの取り組みを公開しているのですが、見学したお客様の多くが「工場で働く皆さんが元気ですね」とおっしゃられます。一般的に工場はコストセンターとみなされるため、コスト抑制に向けた大きな圧力がかかっています。しかし、その状態が長く続くと、どうしても工場は元気を失ってしまいます。その点、当社はそうではなく、工場のデジタル化に積極的に投資をし、そのリターンとしてカイゼン成果を求めているのです。
生産工程を可視化して課題を明らかにできることは、工場のメンバーにとってうれしいことです。データ可視化の仕組みがあることで、自律的なカイゼンと生産性向上が加速されていく。そのような良いサイクルが出来つつあります(図2)。
図2 YOKOGAWAグループの工場拠点でのMotionBoard活用

データに基づく生産工程の可視化を実現。また、プロセスのムダや非効率が明らかになることで、現場には自律的なカイゼンへのムードが生まれているという
本格的なAI活用によって、
2030年の売上高1兆円企業の
グループ企業を目指す
望月DX戦略の今後の展望を教えてください。
舩生変革推進のキードライバーになるのは、間違いなくAIです。私たちは2030年にグループ売上高1兆円企業のグループ企業として社会に貢献していくことを目指す長期経営構想を掲げていますが、現在の売上高(約5400億円)のほぼ2倍に当たるその額をまかなうには、様々な施策に加え、生産性を圧倒的に高めることが必要だと考えています。AIはそのエンジンになるものだと考えています。
一方、AI活用にはデータインテグレーションが不可欠です。多くの企業が今そこに苦労していますが、これまで紹介した通り、当社は過去数年間でそれを懸命に進めてきました。もちろん当初は、これほど早く本格的なAI時代が到来するとは予想出来ていませんでしたが、構築してきたグローバルプラットフォームが、期せずしてAI活用の下地になった形です。
望月具体的に、どのような業務でのAI活用を検討しているのでしょうか。
舩生例えば、現在は製造物の品質チェックを人の目で行っていますが、この工程をAIで自動化すれば、担当者は別の業務に携われるようになります。同様の場面は生産現場の随所にあり、大きな効果が見込めるでしょう。バックオフィス業務に生成AIを使うことでもかなりの効率化が期待できます。私としては今後数年で生産性を30%程度は高められると見積もっていますが、最近のAIの進化スピードを考えると、その効果はもっと大きくなるかもしれません。
当社がDXに取り組んだこの6年は、OTとITのデータ統合を進める6年だったといっても過言ではありません。ここからは、AIをはじめとするテクノロジーによってそれらのデータを活用し、生産性を飛躍的に高めるフェーズに突入します(図3)。ここに速やかに着手できることこそが、私たちの競争優位性だと考えています。
図3 横河電機のDX/IT戦略の方向性

グローバルプラットフォーミングを完了させたDXは、AIドリブンなオペレーション推進によって飛躍的な生産性向上を目指す新しいフェーズに入ろうとしている


