美容医療の質向上に向けて進む医師教育と関連学会の連携 美容医療の質向上に向けて進む医師教育と関連学会の連携

これまで3回にわたり、第一線で活躍する医師や弁護士、ジャーナリストなどによる鼎談で、現在の美容医療が抱える課題や展望について明らかにしてきた。第4回を迎える今回のテーマは、「医師の教育 ─日本の美容医療の質向上に向けて─」。福岡大学名誉教授の大慈弥裕之氏、昭和医科大学医学部形成外科学講座 教授の門松香一氏、聖心美容クリニック統括院長の鎌倉達郎氏、順天堂大学医学部附属浦安病院皮膚科学教授の須賀康氏、ドクタースパ・クリニック院長の鈴木芳郎氏といった美容医療に携わる各学会・協会の代表により行われた座談会の様子をお届けする。
(実施日:2025年8月31日)

転換期を迎えた美容医療業界
求められる医師の知識とスキル向上

 年々拡大を続ける美容医療業界は、現在、転換期にあるともいえる。今後、さらに美容医療の質を高め、消費者・患者さんが安心して美容医療を受けられるようになるためには、どう変わっていくべきなのか。まずは、現在の美容医療における医師教育について、「美容医療も専門医として取り組んでいくことが必要」と、長年、美容医療業界を牽引してきた形成外科専門医の大慈弥裕之氏が口火を切った。

大慈弥裕之(おおじみ・ひろゆき)氏
福岡大学 名誉教授
NPO法人自由が丘アカデミー 代表理事

 それを受けて、形成外科医の門松香一氏も、「美容医療は、患者さんの身体的な安全と心理的な満足を同時に追求する専門的な分野。医師は、技術を習得するだけでなく、医学的知識、倫理観、患者さんとの対応能力、最新のエビデンスに基づいた判断能力を統合的に養わなければなりません。今後は、医師の教育の標準化・均質化を図ることが、学会の責務だと思います」と強調した。

門松香一(かどまつ・こういち)氏
昭和医科大学医学部 形成外科学講座 教授
日本美容外科学会(JSAPS=Japan Society of Aesthetic Plastic Surgery)理事長

 2024年に行われた厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」でも、質の高い美容医療の提供が行われるために必要な方策等について話し合われ、医師教育の重要性が議題に挙がったという。「日本にも海外と同等の教育システムが求められる」と大慈弥氏は指摘する。

 同検討会に構成員として参加した美容外科医の鎌倉達郎氏は、「検討会では、『倫理観とモラル』『専門的な技術』『緊急時に対処できる体制・技術』という3つの点が、美容医療の医師教育の課題として挙がっていた」と説明した。

鎌倉達郎(かまくら・たつろう)氏
聖心美容クリニック 統括院長
日本美容外科学会(JSAS=Japan Society of Aesthetic Surgery)理事長

 座談会では、各学会や協会での医師教育の取り組みについても話がおよんだ。それぞれ専門医制度を設けるなどして、医師のスキル向上やキャリア構築を図っているという。

 日本美容外科学会(JSAPS=Japan Society of Aesthetic Plastic Surgery)の理事長を務める門松氏は、「各種セミナー、症例検討会、シミュレーション教育、eラーニングなどを強化しようと検討しています。今後は、国際的な教育基準を取り入れることで日本の美容医療の水準をさらに高めていければと考えています」と述べた。

 一方、美容皮膚科学会の理事長を務める須賀康氏は、「まずは正しい診断がベース。正しい診断ができる医師が確かな技術を身につけ、次のステップに進むのが美容皮膚科の考え方です」と、美容皮膚科医ならではの観点から医師教育について語った。

須賀康(すが・やすし)氏
順天堂大学医学部附属浦安病院 皮膚科学教授
日本美容皮膚科学会 理事長

 また、日本美容外科学会(JSAS=Japan Society of Aesthetic Surgery)の理事長でもある鎌倉氏は、JSASが他科から美容医療の世界に入る医師のためのサポートも行っていることに触れ、「2年前に美容医療従事者の専門育成機関AMA(Aesthetic Medical Academy)を立ち上げた。美容医療に従事している医師が入会できます」と伝えた。

 さらに、日本美容医療協会の理事長を務める美容外科医の鈴木芳郎氏は、「医師とともに消費者・患者さんにも知識を身につけていただくことにも力を入れている」と話し、「日本美容医療協会 正会員の医師に患者さんの相談に乗ってもらう美容医療相談室を開設するほか、医師が講演を行う市民公開講座を協賛・主催しています。こうした活動が、ひいては医師教育・スタッフ教育にもつながっていくのでは」と見解を語った。

鈴木芳郎(すずき・よしろう)氏
ドクタースパ・クリニック 院長
日本美容医療協会 理事長

安心・安全な環境作りのために
SNS規制や各学会の連携が必須に

 続いて、医師による情報発信をテーマに議論が繰り広げられた。昨今、SNSなどで美容医療の情報が氾濫している。医師からの情報発信はどうあるべきか、学会や協会としてはどういった取り組みを行っていくべきか。

 「現状、厚生労働省が17年から医療機関などのウェブサイトにおける医療広告規制の違反を監視する「ネットパトロール事業」という取り組みを行っているが、ウェブサイトのみが対象で、SNSはほぼ野放し状態。学会としても、消費者・患者さんがSNSに踊らされないような広告表現なども含め、ルールを作成して発信していく必要があります」と鎌倉氏。

 須賀氏は、「病院のホームページは、消費者・患者さんに分かりやすく説明するための重要なツール」と述べたうえで、「これまで、ウェブサイトやSNSでの情報発信を想定したような医師教育がされてこなかった。美容医療の最前線にある学会が、今後は検討していくべきではないか」と指摘した。

 一方、鈴木氏は、「医師としては患者さんに来てほしいという思いもあり、SNSで情報発信をしている面もある。そういった側面があることを、患者さんも知ったうえで判断してほしい」と訴え、「今後は美容医療業界独自のプラットフォームを設けて、共通の倫理規範などを発信していくべきでは」と提案した。

 そうした現状の中で、消費者・患者さんは美容医療やクリニックを選ぶ際に医師の経験やスキルの情報をどのように入手し、それをどう判断するべきなのか。門松氏は「一般の方が医師のスキルを判断するのは簡単ではない」と答えたうえで、「学会としては、専門医資格、研修歴などの客観的なデータを公開して、消費者・患者さんが安心して判断できるような環境を整える必要がある。学会が認定する公式な医師データベースなどの整備・公開をすることを検討しています」と、JSAPSでの取り組みについても言及した。

 それに対し、鈴木氏は「クリニックのホームページなどは、リスクなどを除いて良い面だけが書かれている場合もあるが、読み込んでいくと医師の性格が何となく把握できることもある。ホームページでしっかり選び抜いたら、実際に病院を3~4軒巡ってカウンセリングを受けて、医師との相性をチェックすることも大切だと思います」と、“face-to-face”の重要性も訴えた。

 美容医療に関連する学会や協会では、医師のスキル向上やキャリア構築を図り、消費者・患者さんが安心して美容医療を受けられるよう、連携を強めているという。大慈弥氏は、「各学会それぞれ医師教育の質を高めるために努力しているが、今後は教育システムを標準化していくことが必要なのではないか」と提言する。

 須賀氏は、「日本美容皮膚科学会はさまざまな機関と協力することで、リスクマネジメントを高めたり、安全面を高めたりしている」と、自身が代表を務める学会の状況について説明。門松氏は、「単一の学会のみではどうしても偏った情報だけになる可能性がある。さまざまな学会と共有を密にしていくことが重要」と述べた。

 こうした流れを受けて大慈弥氏は、「美容医療の質向上には、医師の教育と知識・技術の研鑽が不可欠である。大学や関連学会・協会が協力し、体系的な知識・技術の教育に加えて医療安全管理の強化も重要となる。消費者・患者さんが安心して美容医療を受けられる環境づくりに向けて、関連学会・協会が連携して取り組んでいくことが重要となる」とまとめを述べた。

※出所:厚生労働省 第4回医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会 資料2-3「ネットパトロール事業について(令和5年度)」 (https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001292003.pdf 2025年9月11日アクセス)

学会主体でガイドラインを作成
ステークホルダーとの“協働”も鍵に

 後半では、厚生労働省の「美容医療の適切な実施に関する検討会」の最終報告書に記載されていた、学会主体のガイドライン作成の進捗について意見が交わされた。

 鈴木氏は、現在の進捗を「JSAPS、JSAS、日本美容皮膚科学会、日本レーザー医学会などに所属する医師に執筆を依頼しているところで、年度末にはガイドラインを公開する予定」と説明し、「鎌倉先生もおっしゃったように、エビデンスに基づいて治療方針を推奨するという内容ではなく、あくまでも患者さんの安全を確保するために、現在行われている一般の治療法について解説し、そのリスクを知ってもらうためのガイドラインになると思います」と強調した。

 鎌倉氏は、「ガイドラインは形骸化されがちだが、いかに現場で活用されるかが最も重要」と指摘し、「今後、理解と実践と教育制度そのものを組み込むことで、ガイドラインが学ぶものから使うものへ定着していくことを目指します」とビジョンを語った。具体的には「作成されたガイドラインを医師に理解・実践してもらうために、ガイドラインに関するeラーニングの視聴を専門医資格や会員更新の条件とするなどが考えられると思います」と実効性を高めるための取り組みの案を挙げた。また、須賀氏も「患者さんが美容被害に遭わないために気をつけるべきポイントが分かるガイドラインとなるはずです」と付け加えた。

 こうしたことを推し進め、美容医療を健全に発展させていくためには、関連学会や協会だけではなく、ステークホルダーの協力も必要不可欠だ。

 門松氏は、「行政には安全基準の担保と適切な規制を進めるための支援、企業には医療機器や薬剤の開発における透明性、消費者団体やメディアには正しい情報を広く社会に届けることを求めていきたい」とし、「学会は、そうしたステークホルダーと “協働”という立場であることを前提に、共通の目的である患者さんの安全性と安心の確保に向けて多角的な取り組みを進めていかなくてはいけない」と具体的に示した。

 鈴木氏もそれに同調しつつ、「日本は医薬品や医療機器の承認が進んでおらず、自由診療である美容医療では未承認品の医薬品・医療機器などが多く使用されている。行政には、美容医療領域において医薬品・医療機器メーカーが積極的に承認申請を行う動機を高めるための制度や支援体制の強化など、申請を促す仕組みづくりに取り組んでほしい。また、医薬品・医療機器企業も、日本で承認を得ることで、美容医療市場の健全な発展と信頼性向上に貢献してほしい」と訴え、「行政、医師、企業が一体となって、美容医療の全国的な安全啓発キャンペーンを行うことも消費者・患者さんの啓発につながるのでは」と提案した。

 最後に大慈弥氏は、これまでの議論を踏まえ、美容医療の医師教育が目指すべき姿について「今回の座談会を通して、知識や技術だけでなく、倫理教育が必要だということが再認識できたと思います。患者さんを守るということが、患者さんの安心につながる。各学会がそうした同じ意識をもって進んで行けば、近い将来、世界的にもすばらしい美容医療の体制が築けるのではないでしょうか」と結び、幕を閉じた。

アラガン・エステティックスが進める
安心・安全な美容医療を提供する環境づくりへの取り組みとは

 長年にわたり美容医療に貢献してきた企業として、アラガン・エステティックスが進める安心・安全な美容医療を提供する環境づくりへの取り組みについて、現場の声を聞いた。

小屋 貴国氏
アッヴィ合同会社 アラガン・エステティックス
AMI部 部長

菊地 信孝氏
アッヴィ合同会社 アラガン・エステティックス
メディカルアフェアーズ部 部長

Q1 アラガン・エステティックスは美容医療分野でどのような医師教育を行っているのか?

小屋 アラガン・エステティックスでは、患者さんの満足度向上を使命とし「Allergan Medical Institute(AMI)」という教育部門を通じて、美容医療に携わる医療従事者に教育プログラムを提供しています。 具体的には、顔面解剖や科学的根拠に基づいた美容医療知識の他、患者さんにとって最適な治療を見極めるためのアセスメント方法、そして安心・安全に注入治療を行っていただくための手技のトレーニングと幅広い内容のトレーニングを実施しています。

菊地 メディカルアフェアーズは営業部門やマーケティング部門から独立して、主に自社の臨床試験データや論文をベースに、自社製品に関連した領域の情報提供を医療関係者に行い、製品のエビデンスを創出する役割を担っています。
メディカルアフェアーズとして近年力を入れている取り組みとして、大学と連携した教育プログラム「Medical Aesthetic Professional Series (MAPS)」を提供しています。美容医療に関心を持つ医師を対象に、大学や学会等と連携した取り組みです。

Q2 安心・安全な美容医療を受けられる環境づくりにどのような取り組みを行なっているのか?

小屋 美容医療への関心の高まりと同時に、美容医療に携わる医師の数も増えています。現在、日本の医学部では美容医療については体系的に学ぶ機会が少ない中、美容医療のリーディングカンパニーとして、医師の経験やニーズに合わせて、エビデンスにも基づいた体系的で再現性の高い教育プログラムを提供し、医師が継続的に学ぶ環境づくりに今後も貢献していきます。

菊地 美容医療の安全性、質向上には、医師教育と同時に、美容医療を受ける側の消費者・患者さんへの情報提供も重要と考えます。美容医療に関する情報が増えている今、信頼できる内容を見極めて、患者さんが安心・安全な美容医療を受けられる環境づくりのため、アラガン・エステティックスでは、消費者・患者さんに向けて美容医療の知識を高めるための取り組みを行っています。今後も継続して、消費者・患者さんが安心して美容医療を選択できる環境づくりに取り組んでいきます。

※出所:厚生労働省 資料より「第1回 美容医療の適切な実施に関する検討会」 資料1 美容医療に関する現状について P37-39 https://www.mhlw.go.jp/content/10803000/001363278.pdf (2025年9月11日アクセス))