ワコールV字回復へ、構造改革の成果が発現 伴走役に「熟練の実務家パートナー」を起用 ワコールV字回復へ、構造改革の成果が発現 伴走役に「熟練の実務家パートナー」を起用

ついにつかんだ改革の手応え

愛場2年前に私たちアリックスパートナーズがご支援させていただいた中期経営計画のリバイズ(改訂版)が最終年度を迎えました。

川西国内の中核事業である株式会社ワコールとして、前期(2025年3月期)は一時的な減収減益予算を組みました。不採算店舗の撤退、ブランド統廃合など構造改革の要素を織り込み、結果は25億円の事業損失です。Eコマース事業の伸びが堅調なものの、想定を上回る店舗閉鎖や客数減が売り上げを押し下げました。これらはお客様ありきですが、構造改革は自分たちでやり切ると決めた内容を迷わずに実行すれば結果が出ます。まき終えた種がようやく芽を出し始めました。

愛場業績に明るい兆しが見え始めているのですね。やるべきことをしっかりやった結果、改革の手応えがある。

川西そうです。構造改革の効果発現で、今期はおよそ60億円の事業利益改善、グループの売上収益も前期比プラス130億円を超えるV字回復を見込んでいます。

顧客ニーズがコロナで激変

愛場あらためて、川西さんが社長に就任された当時のワコールはどんな状況にありましたか。

川西就任前の23年3月期に創立以来初の最終赤字決算をグループで計上しました。P/Lでは女性がインナーウェアに求めるニーズへの対応が商品・販売の両面で遅れ、B/Sでも急激な売上変動や生産調整に対して在庫のコントロールが機能しなかった。各部隊がバラバラに動き、統率されていない実態が厳しい数字で現れたのです。

愛場悠介
愛場悠介(あいば・ゆうすけ)/20年以上にわたり日本、米国、アジア地域の大手企業に対して、買収、売却、カーブアウト、投資後のリストラクチャリングなどを支援。2023年より現職において、製造業・消費財・テクノロジー企業やPEファンド投資先における事業構造改革、組織変革、カーブアウトなどを担当。

愛場コロナ禍を経てインナーウェアへの顧客ニーズに変化が生じたのは、一般には認識されていないようです。

川西世界的なトレンドが「ボディ・ポジティブ」(ありのままの自分の体を愛する態度)でニュートラルな価値観へ急速に移行しました。それまでのワコールは自分たちの視点で新機能や造形を載せた商品をご提供する場面が多かったのですが、こうした従来の届け方とズレが生まれたのです。

愛場プロダクトアウトだけでなく、マーケットインで開発やものづくり、販売をする必要があったのですね。

川西ものづくりにこだわるあまり、企業視点での思考や体制から抜け出せませんでした。今後は一人ひとりの体にフィットする商品を丁寧につくれる強みを生かしながら、顧客視点で商品やサービスを開発し、多様なお客様の「自分らしさ」をエンパワーメントする存在を目指したいです。

愛場消費者の価値観や行動、外部環境が一気に変化したコロナ禍は、多くの企業にとって見過ごされていた構造的な課題が顕在化し、改革の必要性が認識される機会でもありました。

既存のやり方を変える困難さ

川西構造改革では、3つの経営課題に取り組みました。まず「収益性」と「資本効率」を改善すること。次に、低迷するPBRを1倍以上の水準に回復させること。さらに、企業価値向上を実現する適切な監督機能を強化することです。アリックスパートナーズにはビジネスモデルの改革で協力をいただきました。

愛場売上回復が遅れている段階では、コスト構造を迅速に変える必要がありました。材料や生産のコストダウン、IT費用・広告販促費の適正化、希望退職の実施に加えて、ブランドの選択と集中を実行しました。ワコールには多様なブランドを大切に育て、広げていく企業文化があります。こうしたブランドを絞るという決断は、開発者や担当者の顔が浮かぶと難しさもあったのではないでしょうか。

川西すべての従業員が満足できる選択肢はないので「会社として向かう方向は間違っていない。だから頑張ろう」と説明しました。メーカーにとって最も深刻なのは、在庫が膨らむこと。多数のブランドを持つ良さを犠牲にしてでも、集中して1SKU(在庫管理単位)当たりの効率を上げる必要がありました。

愛場売れ筋を見極め、追いかける生産体制をつくる。サプライチェーンのプロセスを顧客起点の需要連動型に組み替えるのは大きな改革です。私は福井工場で、すごい台数のミシンが並ぶ様子を拝見しました。現場の目線を経営の高さに引き上げ、丁寧に時間をかけて準備されたと思います。

川西どの業種であっても、生産効率で言えば同じものを大量につくるのが最善です。しかし、これからはいろんな波に柔軟な対応をしていかなくてはなりません。私たちは工場を自前で持っていますから、技術の高さであったり、それに付随して品質をコントロールできたりというメリットが今後の強みになります。

難局で共に走るパートナー

愛場構造改革の伴走役としてアリックスパートナーズを起用くださったことに感謝を申し上げます。僭越ながら、6社の候補から選んでいただけた決め手は何だったのでしょう。

川西啓介(かわにし・けいすけ)/2015年米国ワコール取締役副会長兼ワコールインターナショナル取締役社長。20年ワコール執行役員兼米国ワコール取締役会長兼ワコールインターナショナル取締役社長。22年ワコール取締役執行役員マーケティング統括部長。23年より現職。24年よりワコールホールディングス取締役を兼任。
川西啓介

川西アパレルでの経験をお持ちであり、実績に対するこだわりを最も感じました。費用的な厳しさはありましたが、失敗の許されない局面だったために確度を重視しました。2名の常駐体制を唯一ご提案いただいたのは非常に心強かったですね。ワコールは同業の中でも複雑で特異なビジネスモデルを持っています。表面的な把握では理解が難しく、現場に入り込んで検討していただく作業は不可欠でした。

愛場データとロジックも重要ながら、教科書的なことを言うだけでは改革は遂げられません。評論家ではなく、「熟練の実務家」として皆様の横に入って、しっかり改革をやり切る。こうしたファームだと自認しています。

川西欲しかったのは共に走ってくれるパートナーです。背中を押すだけ押して「このプラン通りやってください。あとは知りまへんわ」というケースが一番困ります(笑)。

愛場最後に、今後の成長に向けた抱負をお聞かせください。

川西忘れてはならないのは創業の精神です。歴代の先輩方に倣いユニークな商品を開発し、市場に問う姿勢は守らなくてはなりません。25年3月、コンディショニングウェア「CW-X」のブランドアンバサダーとして大谷翔平選手と契約しました。世界的に見てもスポーツウェア市場は拡大の余地があります。ワコールの中長期経営戦略フレーム「VISION 2030」の実現に向けて、1つの布石となる試みです。

愛場御社の社内ヒアリングで印象的だったのは、従業員の方々にとって「ワコール」という会社、ブランドへの愛着度や信頼度がとても高いことでした。こうした素晴らしい方々が建設的な議論をされ、前に進もうとされている。2030年に向けて、力強く復活する姿を今日は確信いたしました。