

IT投資の選択と集中をいかに図るか。日本は既存運用にコストを要し、変革に向けたIT投資が進んでいない。みずほフィナンシャルグループは、IT投資の可視化を起点に無駄を見直し、真に必要な新規投資へとシフトする方法論「TBM(Technology Business Management)」を採用した。同社CIO金澤光洋氏と、日本IBM社長山口明夫氏の対談が実現。攻めに転じるIT投資のあり方と、アジャイルな意思決定で継続的に実行していくための道筋を語り合った。
―日本経済や企業を取り巻く環境、テクノロジーの果たす役割は何ですか。
山口 日本企業はこれまでデフレ経済の中、コスト削減型経営を余儀なくされてきました。外部環境の変化を機に市場がインフレ基調に向かう中、大胆なリスクテイクを伴う価値訴求型経営に変わっていく時期が来たと感じています。
労働人口が頭打ちになる中、日本経済の成長を支えるのはイノベーションを含む生産性の向上です。そして日本経済が成長すれば、財政健全化、社会保障の信頼性向上、消費意欲拡大といった好循環に向けた展望も見えてきます。その起点となる企業変革のドライバーが、テクノロジーだと考えます。
金澤 当社は2023年にパーパス「ともに挑む。ともに実る。」を発表しました。10年先を見据え、そこからのバックキャストで新中期経営計画(2023~2025年度)を策定しました。あらゆる金融商品やサービスには、それをデリバーするためのテクノロジーが必要です。過去にはITを単にコストとして捉える傾向もありましたが、今ではITは事業戦略に不可分な要素と位置づけた上で、全社の取り組みとして“IT改革”を進めています。
IT改革のゴールは、ビジネスのアジリティ向上です。そのための原則は大きく2つです。1つ目は選択と集中、すなわちビジネスやシステムを大胆に絞り込むこと。2つ目は、そうして選択した領域について、テクノロジーの力で徹底的に効率化することです。
―変革へ真に必要なテクノロジーを絞り込む、第一歩となるIT投資の可視化。課題と解決策をお聞かせください。
金澤 ITは構成要素が複雑で、相互に絡み合っています。共通コストが多いので、何にどれだけコストがかかっているかの見方も様々です。これが正しい。否、こう見るべきだ。世界中でIT投資論争が続いています。
当社も過去から管理会計でIT投資の可視化に取り組んできましたが、本当に切り分けが難しく苦労していました。この状況を打破しようと業界や他社の動向を調べていた中で、一つの標準的なメソドロジーとしてたどり着いたのがTBM。IT投資の可視化へ向けて、多くのグローバル企業のCIOとCFOとが10年以上にわたり議論を重ね英知を結集した、いわば、教科書です。
可視化の方法論についての議論をやめ、まずは粗くてもよいからとTBMに沿ったIT投資の可視化に取り組みました。ポイントは財務部門と一緒に進めること。数字の捉え方はTBMに従うというメッセージが必要です。
山口 経営者との会話で、業務ごとのITコストと効果を把握できないという課題をお聞きします。例えば車を100台走らせたとして、トータルのガソリン代は分かっても、そのうちある1台に要したガソリン代を把握するすべがない。
TBMではITコストをハード、ソフト、人件費などの要素別やサービス、アプリ別に細かく整理し、コストや利用状況、パフォーマンスを可視化。無駄を見直し、真に必要な新規投資に向けてIT・経営・ビジネス部門を含めた全社で目線を合わせるための、共通言語を生み出します。IBMではTBMを実現するSaaSソリューション「Apptio」を提供し、また社内実践しています。
―TBMの活用状況と効果をお聞かせください。
金澤 従来からExcelを用いてITコストのデータを集め分析していました。手間と時間がかかり、かつ継続性や再現性に難点がありました。そのExcelデータをApptioに入れ続けることにより、様々なレイヤーのITコストとシステムの全貌を、経営層もビジネス部門も継続的に把握できるようになりました。
また、過去の実績だけでなく、将来のシミュレーション機能も追加しました。今期新システムをいくつ導入したら、来期以降のITコストはこれだけ増える、といったことが見えてきます。将来を見据えたIT投資計画の判断材料となります。
山口 IBMは、IT投資の選択と集中を進めることで、ITコストを累計で800億円削減できました。自ら大きな成果を出したことで、自信と確信を持ってTBMをお薦めできます。
金澤 経営改革に向けたIT投資計画作成の際に、Apptioのデータを使って経営層と会話しています。以前は「なぜ、こんなに高いのか」という質問がビジネス部門から多くありました。今ではこれが「高い理由は分かったので、どう減らすのか」という方向へ変わりつつあり、「ここを変えるとこうなります」とデータに基づき議論できるようになってきています。
TBMの導入から、まだ1年足らず。ITコストの可視化は最初の一歩に過ぎません。データに基づき継続的にアクションを起こし、アジャイルな意思決定で変革を推進、パーパス実現に貢献することに意義があります。
―今後の展望をお聞かせください。
金澤 海外も含めグループ会社にTBMを展開し、グローバル標準にする構想です。国内金融機関でもTBMの導入が進んでいます。同業他社との比較など、広がりも期待しています。CIO、CFOらが参加する「TBM Council」には今後も積極的に出席したいと思っています。悩みと情報共有の場であり、課題解決のヒント、そして「勇気」が得られます。
山口 急速に拡大する生成AIに関するIT投資の見極めは、今後の重要テーマです。多くの企業が生成AI投資による成果の提示に苦戦しています。変化が激しく複雑で、予測が特に難しい。生成AIの真価を引き出すためにもTBMが役立ちます。「TBM Council」では、生成AI関連も含めた最新のベストプラクティスを議論しています。今年から本格的に日本支部「TBM Council Japan」が立ち上がり、オープンなコミュニティーとして本格的に日本市場に参入し、TBMの価値を訴求していくと聞いています。IBMとしても、このような取り組みを全面的に支援してまいります。
その背景には、経営者にとってITコスト増大がますます深刻な課題となっている現状があります。10年前と異なり、IT活用シーンは広がり続けています。ITコストの前年対比だけでは、誤った経営判断につながりかねません。数年後の人材不足に向け、自動化で置き換えたとして、その時PL(損益計算書)はどうなるか。IT投資が何の変革に寄与し、トップラインにどう貢献したか。その因果関係が見えないと真の価値は判断できません。
攻めに転じるため、IT投資の可視化を起点に、変化へアジャイルに応えながら新規投資を推進し続ける。TBMはDXを加速し、日本企業、ひいては日本経済全体に活力と競争力を生み出す実践的方法を示します。
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